1989年から1990年までの「ワールド・ツアー(ゲット・バック・ツアー)」を大成功させて、1990年リリースのライヴ盤「TRIPPING THE LIVE FANTASTIC」(全英26位・全米17位)もヒットさせて、翌1991年にはMTVのスタジオ・ライヴ盤「UNPLUGGED」(全英7位・全米14位)もヒットさせたポール・マッカートニーですが、些か調子に乗って同1991年には1988年に旧ソ連限定盤でのリリースだった一発録りのロックンロールのカヴァー・アルバム「CHOBA B CCCP」を全世界リリースして、全英63位・全米109位と盛大にズッコケました。そして、同1991年には初のクラシック・アルバム「PAUL McCARTNEY’S LIVERPOOL ORATORIO」までリリースと、何でもアリ状態となったのです。しかしながら、やはりファンが待っていたのは1989年リリースのアルバム「FLOWERS IN THE DIRT」(全英首位!・全米21位)に続く「オリジナル・ソロ・アルバム」でした。
勿論、ポールはワールド・ツアーでのメンバーを其の侭にして、ポール・マッカートニー(リード・ヴォーカル、バッキング・ヴォーカル、ベース、アコースティック・ギター、エレクトリック・ギター、スパニッシュ・ギター、ピアノ、ウーリッツァー、メロトロン、チェレスタ、シタール、ドラムス、コンガ、タンバリン、パーカッション、オカリナ、ハーモニカ、口笛)、リンダ・マッカートニー(バッキング・ヴォーカル、キーボード、他)、ヘイミッシュ・スチュアート(アコースティック・ギター、エレクトリック・ギター、他)、ロビー・マッキントッシュ(エレクトリック・ギター、アコースティックギター、他)、ポール'ウィックス'ウィッケンズ(キーボード、ピアノ、シンセサイザー、クラビネット、他)、ブレア・カニンガム(ドラムス、パーカッション、他)の6人で新たなるスタジオ・アルバム「OFF THE GROUND」をレコーディングしていたのです。
其のアルバムから、1992年12月28日に先行シングルとしてMPL/パーロフォンからリリースしたのが「HOPE OF DELIVERANCE(明日への誓い) / LONG LEATHER COAT」です。英国では2曲入りの7インチと、「BIG BOYS BICKERING」と「KICKED AROUND NO MORE」も加えた4曲入りのCDシングルが出ていて、日本では2曲(「HOPE OF DELIVERANCE」と「BIG BOYS BICKERING」)入りの短冊CDで出ています。更に翌1993年1月5日には12インチ「DELIVERANCE」が出ていて、スティーヴ・アンダーソンによる原型を留めない二つのリミックスと「HOPE OF DELIVERANCE」のアルバム・ヴァージョンの3曲が収録されています。これらの内「LONG LEATHER COAT」はポール&リンダ・マッカートニー作で、他はポールの単独作です。
1993年2月1日にリリースされたポールの9作目(ポール&リンダ、ウイングス名義を含めて17作目)のスタジオ・ソロ・アルバム「OFF THE GROUND」は、1「OFF THE GROUND」、2「LOOKING FOR CHANGES」、3「HOPE OF DELIVERANCE」、4「MISTRESS AND MAID」、5「I OWE IT ALL TO YOU」、6「BIKER LIKE AN ICON」、7「PEACE IN THE NEIGHBOURHOOD」、8「GOLDEN EARTH GIRL」、9「THE LOVERS THAT NEVER WERE」、10「GET OUT OF MY WAY」、11「WINEDARK OPEN SEA」、12「C'MON PEOPLE」の、全12曲入りで、13曲目にシークレット・トラックとして少しだけ「COSMICALLY CONSCIOUS」のサワリが収録されています。
つまり、此の先行シングルでは、表題曲の「HOPE OF DELIVERANCE」以外の「LONG LEATHER COAT」と「BIG BOYS BICKERING」と「KICKED AROUND NO MORE」の3曲はアルバム未収録で、リミックスの「DELIVERANCE」も12インチでしか聴けません。日本ではアルバム「OFF THE GROUND」の初回盤では、本編12曲(13曲)のCDに、オマケで「LONG LEATHER COAT」と「KICKED AROUND NO MORE」の2曲入りの3インチCDを入れて、何とかポールのアルバム未収録曲をフォローしようとしたのですが、此の後にアルバムからは「C'MON PEOPLE」と「OFF THE GROUND」と「BIKER LIKE AN ICON」とシングルを出し捲り、それらのカップリングは全てがアルバム未収録曲と云う、乃木坂46や櫻坂46でも足元にも及ばない無双状態となって、1993年12月1日にはそれらを全て収録したCD2枚組の「OFF THE GROUND : THE COMPLETE WORKS」をリリースすると云うトンデモな事までやらかしてしまいます。
ソウルフルな名曲「KICKED AROUND NO MORE」などは、何故にアルバム未収録でCDシングルのカップリング(7インチ盤には未収録)なのか理解不能なのですが、アルバム「OFF THE GROUND」は「ポールのソロ・アルバム」と云うよりも5年近くもの間に「ワールド・ツアー」や「UNPLUGGED」などでも共演してきた「バンドのアルバム」と云う側面があるので、こうした「ポールのソロ風な楽曲」は敢えて外したのかもしれません。アルバム「OFF THE GROUND」は全英5位・全米17位で、米国では前作オリジナル・ソロ・アルバム「FLOWERS IN THE DIRT」の全米21位よりも売れています。ポール節爆裂のラテン風味な「HOPE OF DELIVERANCE」は、全英18位・全米83位と特に米国では大爆死していますが、カナダ5位・ドイツ3位と大ヒットした国もあります。ブートレグ9枚組の「THE 7‘’ SINGLES」では此のシングルから7枚目で、「THE 7‘’ SINGLES BOX」では55枚目で、ヨーロッパ盤のピクチャー・スリーヴで復刻されています。
(小島イコ)