1989年から1990年までの103回にも及ぶ「ワールド・ツアー(ゲット・バック・ツアー)」を大成功させて、ソコから厳選したアナログ3枚組・CD2枚組で全37曲入りのライヴ盤「TRIPPING THE LIVE FANTASTIC」も全英26位・全米17位とヒットさせたポール・マッカートニーは、ソコからシングル・カットした「BIRTHDAY」や「ALL MY TRIALS」もカップリングはライヴ盤には未収録曲満載で、正に絶好調でした。そして、ソコからがポールの真骨頂で、1991年1月25日にMTVの「UNPLUGGED」の為にロンドンのライムハウス・テレビ・スタジオで、2時間半で全22曲のアコースティック・ライヴを行い、ソノ模様はMTVでも放送されましたが、全17曲のライヴ・アルバムとして1991年5月13日にMPL/パーロフォンからリリースしたのです。、ポール&リンダ・マッカートニー、ヘイミッシュ・スチュアート、ロビー・マッキントッシュ、ポール'ウィックス'ウィッケンズ、ブレア・カニンガムによるライヴで、ワールド・ツアーでの途中からドラマーが交代しただけの安定した布陣でした。此の「UNPLUGGED(The Official Bootleg)」は、全英7位・全米14位と「TRIPPING THE LIVE FANTASTIC」よりも売れています。
103回も行ったスタジアム・ライヴは観に行けたけれど、1回限りのスタジオ・ライヴはごく少数の観客しか観れなかったので、こうした逆転現象が起きたのでしょう。MTVの「UNPLUGGED」は人気企画となり、様々なミュージシャンがレコードにしていますが、ソノ元祖がポールでした。ポールは此の後にもMTVでライヴを行ったものの、既にそうした後追いの他のミュージシャンが出したスタジオ・ライヴ盤が売れていたので、そちらは敢えて公式レコード化はしていません。其の辺が「他の奴らと同じ事はしない」と云う「ビートルズ流儀」なのです。続いてポールは、1988年に旧ソ連限定盤で出した粗削りなロックンロールのカヴァー・アルバム「CHOBA B CCCP」を、1991年9月30日に全世界発売してしまい、全英63位・全米109位と大爆死しています。1988年の旧ソ連限定盤が高値で取引されているから出してくれたのでしょうけれど、ファンが騒いでいたのは内容ではなく「限定盤で入手困難だった」からだけなんですよ。「公式海賊盤」と名付けた「UNPLUGGED」がソコソコ売れたから、だったら「CHOBA B CCCP」も売れるだろう、と安易に思って出してしまったのでしょう。
そしてポールは、1991年10月7日には初の本格的なクラシック作品「PAUL McCARTNEY'S LIVERPOOL ORATORIO」をリリースしてしまいます。アナログ盤もCDも2枚組の大作オペラで、ポールがクラシックの作曲家であるカール・デイヴィスに手伝ってもらって書いたものです。MPL/クラシックスからリリースされた此のオペラからは、1991年9月30日に「THE WORLD YOU'RE COMING INTO / TRES CONEJOS」が、同年11月25日には「SAVE THE CHILD / THE DRINKING SONG(LET'S FIND OURSELVES A LITTLE HOSTELRY)」と2枚のシングルも出ていて、CDシングルと2枚組を1枚に凝縮したCD1枚の「SELECTIONS FROM PAUL McCARTNEY'S LIVERPOOL ORATORIO」も出ていて、クラシック作品としては異例のヒットとなっているのですけれど、ソレは「ポール・マッカートニー」の名前で売れただけです。しかし、ポールにとっては新たなる挑戦だったから思い入れがある様で「THE 7‘’ SINGLES BOX」に54枚目で選ばれているのです。しかも、わざわざ新しいカップリングにし直して、2枚のシングルをAB面に合体させて1枚にしていて、ジャケットは「THE WORLD YOU'RE COMING INTO」を元にしたデザインにしています。正直に云って、ダイジェスト盤でもキツイので、此のシングルの4曲で充分です。
(小島イコ)