ポール・マッカートニーが1989年6月5日にMPL/パーロフォンからリリースした8作目のスタジオ・ソロ・アルバム「FLOWERS IN THE DIRT」は、1987年10月1日から1989年1月12日までの1年間以上もレコーディングして完成しています。オリジナル・ソロ・アルバムとしては6作目(7作目は旧ソ連限定だった1988年リリースのカヴァー・アルバム「CHOBA B CCCP」)だった「PRESS TO PLAY」が、全英8位は良いとして、全米30位だったのが堪えてポールも慎重になっていたのでしょう。しかしながら、実は1987年にフィル・ラモーンのプロデュースでアルバム「RETURN TO PEPPERLAND」をレコーディングしていて、ソレもかなり完成形に近いところまで進んでいました。ポールとフィル・ラモーンがケンカ別れしてお蔵入りになり、結局は其の時の音源からはシングル「ONCE UPON A LONG AGO / BACK ON MY FEET」の1枚2曲しかレコーディング当時にはリリースされていませんが、エルヴィス・コステロとの共作が既に始まっていたのです。ポールの未発表アルバムとしては「COLD CUTS」と並んで有名なのが、「RETURN TO PEPPERLAND」です。
「RETURN TO PEPPERLAND」には他にも、1989年のアルバム「FLOWERS IN THE DIRT」に収録された「WE GOT MARRIED」と「THIS ONE」の別アレンジ、1989年のシングル「FIGURE OF EIGHT」のカップリング曲「LOVELIEST THING」、1990年に東京ドーム公演で初披露して来日記念盤で日本限定でスタジオ版がリリースされた「P.S. LOVE ME DO」、1991年リリースのポールの初めてのクラシック盤「LIVERPOOL ORATORIO」にメロディーが流用されて、後に2015年のアーカイヴ・コレクション「PIPES OF PEACE」に収録された「CHRISTIAN BOP」、1997年のラジオ番組「Oobu Joobu」で公開された「ATLANTIC OCEAN」と「SQUID」と「LOVE MIX」、1997年のアルバム「FLAMING PIE」に収録された「BEAUTIFUL NIGHT」の初期ヴァージョン、1997年のシングル「BEAUTIFUL NIGHT」のカップリング曲「LOVE COMES TUMBLING DOWN」などがレコーディングされています。アルバム「FLOWERS IN THE DIRT」は、プロデューサーが、ポール・マッカートニー、ミッチェル・フルーム、ニール・ドーフスマン、トレヴァー・ホーン、スティーヴ・リプトン、エルヴィス・コステロ、デイヴィッド・フォスター、クリス・ヒューズ、ロス・カラム、と9人も関わっているのも、レコーディングが1年以上もの長期間に及んだからでしょう。
何度も書いてきましたが、アルバム「FLOWERS IN THE DIRT」は、それ程に大騒ぎする程の傑作だとは思えません。特に、エルヴィス・コステロとの共作曲が大絶賛されているのは、コステロ本人が云う通り「過大評価」だと思います。アルバム「FLOWERS IN THE DIRT」は全英首位!でしたが、全米では21位までしか上がっていなくて、次のアルバムである「OFF THE GROUND」は全英5位ですが全米17位と米国ではそこから盛り返しているのです。アルバムからのシングル・カットも最初の「MY BRAVE FACE」が全英18位・全米25位で、第2弾の「THIS ONE」が全英18位・全米94位で、第3弾の「FIGURE OF EIGHT」が全英42位・全米92位で、第4弾の「PUT IT THERE」が全英32位・米国では未発売と、決して褒められた成績は残していません。米国でのポールの復活とは、アルバム「FLOWERS IN THE DIRT」を出した後に行ったワールド・ツアーによるものであって、英国ではそもそもポールは落ち込んでいなかった(アルバム「PRESS TO PLAY」は全英8位)ので、わざわざ「復活」をする事もないのです。日本のバカな評論家は、本国である英国でのビートルズやポールの実績と根強い人気を軽視しているから、出鱈目な事を平気で書いているのです。
さて、それでも英国で首位!に返り咲いたのがポールは嬉しかったからなのか、アルバム「PRESS TO PLAY」以上に、アルバム「FLOWERS IN THE DIRT」からはシングルを連発して、カップリング曲は全てがアルバム未収録と云う、乃木坂46や櫻坂46もビックリな事をやらかしてしまったのですから、流石は世界のアイドル「超絶可愛いポールちゃん」です。特に前回に取り上げた「FIGURE OF EIGHT」に至っては、7種類もリリースしていてカップリングの内容もバラバラですけれど、そもそも表題曲の「FIGURE OF EIGHT」がアルバムとは別テイクと云うトンデモナイ事になっていました。アルバム自体も日本では1990年3月2日に初来日公演を記念してCD2枚組の「FLOWERS IN THE DIRT」Special Packageをリリースしているのですが、英国では1989年11月23日に「FLOWERS IN THE DIRT」World Tour Packをリリースしています。紙の箱入りで本編のLPもしくはCDに、様々なオマケ入りで、アルバム未収録の「PARTY PARTY」の片面のみの7インチかCDシングルが入っていて、楽曲は日本での特別盤にも収録されています。ダンサブルな「COMING UP」の出来損ないみたいな曲で、片面のみの7インチが「THE 7‘’ SINGLES BOX」には49枚目で、英国盤のピクチャー・スリーヴで復刻されています。
(小島イコ)