1989年6月5日に、MPL/パーロフォン(英国)・MPL/キャピトル(米国)からリリースされたポール・マッカートニーのサントラ盤やカヴァー集も含めた8作目のスタジオ・ソロ・アルバム(ポール&リンダ名義とウイングス名義を加えると16作目)「FLOWERS IN THE DIRT」は、1980年代中期に低迷していた事にされているポールにとって復活となったアルバムと云う事にされていて、ソノ理由を「エルヴィス・コステロと組んだから」と云う頓珍漢な世迷言で済ませている愚かな評論家もいます。1986年リリースの前作オリジナル・ソロ・アルバム「PRESS TO PLAY」が全米30位と落ち込んだので、半数以上も共作共演した「エリック・スチュワートがダメだった」などと云う、全く的外れな事をお金をもらって書いているのですから、もう音楽評論家ではなく偽証している詐欺師みたいなもんです。そう云うバカな耳しか持っていない評論家に限って「エルヴィス・コステロがポールを復活させた」などと云う、コステロ本人が「過大評価だ」と云う程の誇大妄想を語っているのです。
だったら、何故に最初の共作曲が1987年リリースのシングル「ONCE UPON A LONG AGO」のB面で発表された時には、何も云わなかったのでしょうか。評論家はソノ「BACK ON MY FEET」は無視しておいて、1989年に「VERONICA」が出た途端に喚きだしたのですよ。ポールとコステロは10曲以上を共作して、まずは1987年のポールのシングルで1曲(「BACK ON MY FEET」)、1989年のコステロのアルバム「SPIKE」で2曲(「VERONICA」、「PAD, PAWS AND CLAWS」)、1989年のポールのアルバム「FLOWERS IN THE DIRT」で4曲(「MY BRAVE FACE」、「YOU WANT HER TOO」、「DON'T BE CARELESS LOVE」、「THAT DAY IS DONE」)、1991年のコステロのアルバム「MIGHTY LIKE A ROSE」で2曲(「SO LIKE CANDY」、「PLAYBOY TO A MAN」)、1993年のポールのアルバム「OFF THE GROUND」で2曲(「MISTRESS AND MAID」、「THE LOVERS THAT NEVER WERE」)と、11曲が発表されました。此の内「THAT DAY IS DONE」は、コステロも後にゴスペル・グループのフェアフィールド・フォーとレコーディングしていて、1997年にリリースしています。
ところが、コステロが1996年のアルバム「ALL THIS USELESS BEAUTY」で新たなる共作曲「SHALLOW GRAVE」を発表して、更に2017年にポールがアルバム「FLOWERS IN THE DIRT」の「アーカイヴ・コレクション」でポールとコステロの共作共演デモ音源を発掘して、ポールもコステロも発表していなかった「TOMMY'S COMING HOME」と「TWENTY FINE FINGERS」が出てきたので、二人の共作曲は合計14曲となったのです。ソレで、何かと云うとポールとコステロの共作曲は傑作だと云う事にされているのですけれど、そんなに良いですかあ?個人的には、二人の共作曲で手放しで絶賛出来るのは「VERONICA」と「MY BRAVE FACE」と「THE LOVERS THAT NEVER WERE」の3曲位しかなくて、後は二人共に取り上げた「THAT DAY IS DONE」もなかなか良いけれど、他の10曲は及第点はクリアしてはいるものの、それ程に大騒ぎする様な名曲とは云えないと思いますよ。別にコステロが嫌いなわけでもないし、コステロのアルバムも結構持っているけれど、二人の共作曲がそんなに凄いとは思えないのです。
ポールは2016年リリースのベスト盤「PURE McCARTNEY」には、アルバム「FLOWERS IN THE DIRT」からは1曲も選んでいないし、アルバム「OFF THE GROUND」からもポールの単独作「WINEDARK OPEN SEA」しか選んでいないので、つまりはコステロとの共作曲は1曲も選曲していません。駄作と云われるアルバム「PRESS TO PLAY」からだって2曲(片方はメドレーだから実質3曲)入っているのに、全67曲入りなのに、ソレはおかしいでしょう。翌2017年にアルバム「FLOWERS IN THE DIRT」の「アーカイヴ・コレクション」を出して、ポールとコステロの共作共演デモ音源を一気に9曲も放出しましたけれど、「アーカイヴ・コレクション」と「ベスト盤」は別でしょう。だったら、例えばベスト盤を2009年にリリースしていたなら、翌2010年にアルバム「BAND ON THE RUN」の「アーカイヴ・コレクション」を出すから「BAND ON THE RUN」も「JET」もベスト盤から外しますかあ?そんなわけないざんしょ。ソレに、ポールはアルバム「FLOWERS IN THE DIRT」から4作もシングル・カットしていますが、コステロとの共作曲は「MY BRAVE FACE」だけです。ちなみに、コステロは「VERONICA」と「SO LIKE CANDY」をシングル・カットして、ベスト盤には「VERONICA」と「SO LIKE CANDY」と「THAT DAY IS DONE」が選曲されています。
さて、1989年7月17日に第2弾シングル・カットしたのが「THIS ONE / THE FIRST STONE」です。コレマタ、7インチ2種、12インチ3種、CDシングルの6種でのリリースで、日本では短冊CDも出ているので7種です。通常の7インチ盤のA面の「THIS ONE」はポールの単独作で、B面の「THE FIRST STONE」はポールとヘイミッシュ・スチュアートの共作曲でアルバム未収録曲です。英国ではB面に「THE FIRST STONE」の代わりに、ビートルズ時代の名曲「THE LONG AND WINDING ROAD」の新録ヴァージョンを収録した7インチもあります。「THIS ONE」のレコーディング・メンバーは、ポール・マッカートニー(リード・ヴォーカル、バッキング・ヴォーカル、ベース、アコースティック・ギター、エレクトリック・ギター、キーボード、ハーモニウム、シタール、グラス・ハープ、タンバリン)、ロビー・マッキントッシュ(アコースティック・ギター、エレクトリック・ギター)、ヘイミッシュ・スチュアート(バッキング・ヴォーカル、アコースティック・ギター、エレクトリック・ギター)、リンダ・マッカートニー(バッキング・ヴォーカル)、クリス・ウィッテン(ドラムス 、パーカッション)です。
ポールは「THIS ONE」を、ビートルズ時代から確執があったジョージ・ハリスンに向けて、仲直りする為に書いたと云われています。故にジャケットもミュージック・ヴィデオもインド風だし、ポールはシタールも弾いています。12インチは通常の7インチの「THIS ONE」と「THE FIRST STONE」の2曲に加えてアルバム未収録曲でポールの単独作「I WANNA CRY」とファッツ・ドミノのカヴァー「I'M IN LOVE AGAIN」を収録した盤(CDシングルも同じ)と、ポールの単独作で7分近い(6分52秒)「GOOD SIGN」を収録した盤と、「THE FIRST STONE」と「I WANNA CRY」と「I'M IN LOVE AGAIN」はそのままで「THIS ONE」の「6分10秒」の「クラブ・ラヴジョイ・ミックス」を収録した盤があります。此の内で、「THE FIRST STONE」と「THE LONG AND WINDING ROAD」と「I WANNA CRY」と「I'M IN LOVE AGAIN」と「GOOD SIGN」と「THIS ONE」の「クラブ・ラヴジョイ・ミックス」はアルバム未収録です。色々と出ている此の第2弾シングル・カット「THIS ONE」は、全英では18位とそれなりにヒットしましたが、全米では94位と大爆死しています。
日本で限定発売されたアルバム「FLOWERS IN THE DIRT」Special Packageに「THE LONG AND WINDING ROAD」が、アルバム「FLOWERS IN THE DIRT」の「ザ・ポール・マッカートニー・コレクション」に「THE FIRST STONE」が、全世界盤のアルバム「CHOBA B CCCP」に「I'M IN LOVE AGAIN」が収録されていて聴けますが、他の曲はシングルCDや12インチ盤でしか聴けません。肝心なアルバム「FLOWERS IN THE DIRT」の「アーカイブ・コレクション」のボーナス・オーディオには、ポールとコステロの共作共演9曲のデモ音源しか収録されていなくて、こうしたシングルでアルバム未収録曲はダウンロード限定で、しかも全曲ではなかったのです。まあ、ソノ辺は音質が良いブートレグでまとめて聴けるのですが、やはり公式盤でCD化して欲しかったです。初来日公演でも披露された「THIS ONE」はポールらしいポップで良い曲ですし、ジョージに向けただけあって、かなりビートルズ風です。「THE 7‘’ SINGLES BOX」では47枚目で、英国盤のピクチャー・スリーヴで復刻されています。
(小島イコ)