1986年10月27日に、アルバム「PRESS TO PLAY」から英国での第2弾シングル・カット(実際にはリミックスしてヴォーカルも別テイク)した「PRETTY LITTLE HEAD」は、全英76位と信じられない成績となりました。ポールは例によって、米国では別の曲を第2弾シングル・カットするのですが、ソレが1986年10月29日にMPL/キャピトルからリリースした「STRANGLEHOLD / ANGRY(REMIX)」です。日本でも米国と同じカップリングで出ているのですが、結論から申し上げますと、全米81位と沈没してしまいました。此のカップリングは両面共にポールとエリック・スチュワートの共作で、何度でも云いますけれど、楽曲は悪くはありません。ソレなのに、何故に売れなかったのかと云うとですね、ファンは1980年代風のヒュー・パジャムとポールが組んだプロデュース方法が気に入らなかったのでしょう。アルバム「PRESS TO PLAY」全体に漂う1980年代感を、ビートルズ好きなファンは拒否したわけですなあ。全英8位は良いとして、全米30位じゃ酷いので、ポールも自分で「駄作」と云ったりしています。そりゃあ、道楽ではなくプロなのですから、売れなかったのは「駄作」なんですよ。
でもね、此のアルバムは1986年にアナログ盤全10曲入りとCD全13曲入りが出た後には、1993年に「ザ・ポール・マッカートニー・コレクション」でCD全15曲入りが出ただけなのです。つまり、最新盤でも30年以上も前に出た公式音源しかないのです。ソレでは「再評価」など望めません。ブートレグでアルバム「PRESS TO PLAY」のラフ・ミックスを聴くと、コレがヒュー・パジャムの大仰な手腕が発揮される前の段階で、スッキリしていて公式盤よりも聴き易いし、ポールとエリックが良い曲を書いていた事実に改めて気付かされます。1980年代中頃にポールが迷走していたと云われますが、他の元ビートルズが何をやっていたのかと云うと、ジョン・レノンは既に亡くなっていて、ジョージ・ハリスンはセミリタイア状態で、リンゴ・スターはアル中だったのですよ。ポールだけが落ち込んでいたわけではなく、ジョンは遺稿集が出されていて、ジョージとリンゴはレコードを作る事すら出来なかったのです。
更に云えば、1980年代中頃には、他の大物ミュージシャンもシンセサイザーを導入してビートはプログラミングした1980年代サウンドに走ってしまい、キャロル・キングやニール・ヤングと云ったそうした音とはかけ離れているミュージシャンまで、デジタルな音作りでのアルバムをリリースしているのです。ポールは勿論、キャロル・キングもニール・ヤングも「新しい事をやりたい」と思ってそうした方向へ行ったのでしょうけれど、名曲「CRYING IN THE RAIN」をデジタル・ビートに乗せて歌ったキャロル・キングの1983年のアルバム「SPEEDING TIME」を聴くと、何でキャロル・キングともあろう人がこんな事をやらかしているんだ?と悲しくなってしまいます。ニール・ヤングは何をやってもニール・ヤングなので、1982年の「TRANS」も、まあ、聴けます。ポールとエリック・スチュワートの共作曲が半数以上あるアルバム「PRESS TO PLAY」は、是非とも「アーカイヴ・コレクション」でリイシューして頂いて、真っ当な評価を得て欲しいと願っています。何しろ、ポールとエリックの共作共演曲は、普遍性がある佳曲揃いだからです。
さて、米国や日本での第2弾シングル・カット「STRANGLEHOLD / ANGRY(REMIX)」ですが、ジャケットは英国盤の「PRETTY LITTLE HEAD」と同じデザインなので、間違って買わない様に気を付けましょう。A面の「STRANGLEHOLD」は、アルバムのA面1曲目で、アルバムと同じヴァージョンです。レコーディングは、ポール・マッカートニー(ヴォーカル、ベース、アコースティック・ギター、エレクトリック・ギター)、エリック・スチュワート(アコースティック・ギター、エレクトリック・ギター、バッキング・ヴォーカル)、ジェリー・マロッタ(ドラムス)にホーンが二人で、ポールとエリックでガッツリと共作共演しています。ミュージック・ヴィデオはアリゾナで撮影されていて、ポールたちがバンドで演奏していて、サックスを持った少年を飛び入りさせて一緒に演奏する内容(音源は歓声が被っている別ヴァージョン)です。B面の「ANGRY(REMIX)」は、英国盤12インチ・シングル「PRETTY LITTLE HEAD」に収録されていたラリー・アレキサンダーによるリミックス(未CD化)です。「THE 7‘’ SINGLES BOX」には43枚目で、米国盤のピクチャー・スリーヴで復刻されています。
(小島イコ)