始まりは、1985年11月にリリースされた同名映画主題歌シングル「SPIES LIKE US」でした。ポール・マッカートニーがほとんどの演奏と歌でワンマン・レコーディングした其の楽曲は、全英13位・全米7位のヒット曲となってしまったのですが、ズバリ云って駄作です。しかしながら、ソコソコ売れてしまったので、ポールは共同プロデュースしたヒュー・パジャムとフィル・ラモーンとそれぞれ組んで、ヒュー・パジャムとは1986年リリースのアルバム「PRESS TO PLAY」を、フィル・ラモーンとは1987年リリース予定で未発表アルバム「RETURN TO PEPPERLAND」を制作したのです。アルバム「PRESS TO PLAY」は全英8位は兎も角として、全米30位と落ち込んでしまい、ポール自身も「駄作」と語る様になったのですが、全ての元凶はシングル「SPIES LIKE US」だったわけです。更に云えば、1987年にリリースされたベスト盤「ALL THE BEST!」に至っては、全英2位ですが、全米62位まで落ちているのです。ポールのアルバムが1980年代に米国で売れなくなっていった原因は、簡単に云ってしまえば「全米ツアーをやらなくなった」からです。
前作アルバムであった1984年リリースのサントラ盤「GIVE MY REGARDS TO BROAD STREET」も、全英首位!でも全米21位だったわけで、アルバム「PRESS TO PLAY」が突然に全米30位まで落ちたわけではありません。そして、アルバム「PRESS TO PLAY」でアナログ盤では全10曲中6曲、CDでは全13曲中8曲をポールと共作共演している「元10cc」となったエリック・スチュワートが不振の原因である、などと云う風説の流布を平気でやらかしている一部の評論家は何も聴いていないアホなのです。さて、アルバム「PRESS TO PLAY」からは、1986年7月1日に先行シングルとして「PRESS / IT'S NOT TRUE」がMPL/パーロフォンからリリースされました。結果は、全英25位・全米21位とズッコケますが、そもそも此の先行シングル両面は「ポールの単独作」なのです。つまり、大衆からの信頼を失ったのは「ポール・マッカートニー&エリック・スチュワート」ではなく「ポール・マッカートニー」だったわけですよ。アルバム「PRESS TO PLAY」のジャケットは「ポール&リンダ」の写真なので、エリック・スチュワートの名前は共作曲のクレジットと裏ジャケットに小さく載っているだけです。
大体やね、アルバム「PRESS TO PLAY」はポールのソロ・アルバムなので、どんなにエリック・スチュワートとの共作曲が多くとも、責任はポールにしかないし、ポールの次に責任があるのならば共同プロデュースしたヒュー・パジャムでしょう。ウイングス時代に「リンダが悪い」とか「デニー・レインが悪い」なんて誰も云わなかったのに、何でここにきて「エリック・スチュワートが悪い」なんて云われなきゃならないのでしょうか。共作曲は全てが佳曲揃いなのに、本当に聴いて書いているのでしょうか。まあ、それだけエリック・スチュワートは「大物」だと云う事なのでしょうけれど、此のアルバムでのエリック・スチュワートの貢献度の高さは貶されるのではなく称賛されるべきなのに、何故にバカな評論家は出鱈目な事を書くのでしょうか。何度も書いていますが、要するに頓珍漢な評論家は次作アルバム「FLOWERS IN THE DIRT」でエルヴィス・コステロと組んでポールが復活した事にしたいので、過剰にエリック・スチュワートを叩くわけですよ。でもですね、アルバム「FLOWERS IN THE DIRT」は全英首位!になったけれど、全米では21位なんですよ。米国では、大して盛り返していないんだよなあ、コレが。ベスト盤「ALL THE BEST!」の全米62位に比べれば、マシになった程度でしょう。
さて、先行シングル「PRESS」ですが、当時は12インチ・シングルも流行っていたので、7インチ・シングルと12インチ・シングルと10インチ・シングルまでリリースしています。まずは7インチ・シングルは「PRESS」のエディット・ヴァージョンの初版と「PRESS」のヴィデオ・エディットの第2版があって、B面は「IT'S NOT TRUE」です。10インチ・シングルは円形ジャケットで「PRESS」のアルバム・ヴァージョンとヴィデオ・エディットと「IT'S NOT TRUE」のジュリアン・メンデルソーンによるリミックスで、12インチ・シングルは「PRESS」のヴィデオ・サウンドトラックとダブ・ミックスに「IT'S NOT TRUE」のリミックス、そしてアルバム未収録のインストゥルメンタル曲でポールとエリック・スチュワートの共作曲「HANGLIDE」が収録されています。「IT'S NOT TRUE」は、アナログ盤LPには未収録です。「PRESS」のミュージック・ヴィデオは、ポールがロンドンの地下鉄に乗って乗客のリアクションを楽しむゲリラ撮影で、個人的には楽曲も好きだし、MVも天然バカボンなポールらしい発想で面白いと思います。「THE 7'' SINGLES BOX」には41枚目で、米国盤のピクチャー・スリーヴで復刻されていて、内容は英国盤での第2版と同じです。
(小島イコ)