ポール・マッカートニーは、1997年5月5日にMPL/パーロフォンからリリースしたアルバム「FLAMING PIE」からの英国では第3弾シングル・カットの「BEAUTIFUL NIGHT」を、1997年12月15日にリリースしました。表題曲の「BEAUTIFUL NIGHT」は、1986年にフィル・ラモーンのプロデュースでレコーディングしてアルバムごとボツになった「RETURN TO PEPPERLAND」に収録を予定していた楽曲をリメイクしたもので、サー・ジョージ・マーティンがオーケストラ・アレンジを担当して、リンゴ・スターがドラムスとヴォーカルで参加している「ビートリー」と云うか、ビートルズ・フリークのジェフ・リンと、本物が3人も関わっているので、ほとんど「ビートルズ」そのものな出来栄えの、美しく感動的な名曲です。特に、1986年版にはなかったテンポアップした終盤の展開(リンゴがリード・ヴォーカル状態になっている)が素晴らしく高揚感を与えてくれます。7インチに収録されたB面の「LOVE COMES TUMBLING DOWN」はアルバム未収録曲で、コレマタ1987年のフィル・ラモーンとのアルバム「RETURN TO PEPPERLAND」用にレコーディングした楽曲の蔵出しです。
CDシングルはやはり2種リリースされていて、表題曲「BEAUTIFUL NIGHT」と「LOVE COMES TUMBLING DOWN」に「OOBU-JOOBU Part5」(「BEAUTIFUL NIGHT」の1986年ヴァージョンが聴ける)を加えたタイプと、表題曲「BEAUTIFUL NIGHT」と1988年にレコーディングしたラヴ・バラード「SAME LOVE」の蔵出しと「OOBU-JOOBU Part6」(やはり1987年レコーディングの未発表曲「LOVE MIX」や、ポールがビートルズのアルバム「ABBEY ROAD」について語ったり、メロトロンでビートルズの「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」のイントロを弾いたりするのが聴ける)を加えたタイプがあります。「OOBU-JOOBU」に関して云えば、未発表曲の大盤振る舞いになっていて、単なるラジオ番組の抜粋ではありませんし、ブートレグで聴ける番組の全貌は、更に未発表曲や未発表リハーサルやライヴ音源も満載で、ジョン・レノンの「THE LOST LENNON TAPES」のポール版と云っても良い内容です。そんな番組から、ポール自身が編集した音源が「OOBU-JOOBU Part1」から「OOBU-JOOBU Part6」としてシングルのカップリングになっているのですから、聴き逃せません。
カップリングになった「LOVE COMES TUMBLING DOWN」と「SAME LOVE」、そして「OOBU-JOOBU」に含まれている「I LOVE THIS HOUSE」と「ATLANTIC OCEAN」と「SQUID」と「DON'T BREAK THE PROMISES」のポール・ヴァージョンと「BEAUTIFUL NIGHT」の初期ヴァージョンと「LOVE MIX」の8曲は、全てが1986年から1988年までにレコーディングされた未発表曲で、1987年にリリース予定だった「RETURN TO PEPPERLAND」絡みの楽曲の蔵出しも多いのです。1980年代中盤には低迷していた事にされているポールが、実はこれほどまでの未発表曲を隠し持っていたわけで、どこが低迷していたのでしょうか。「SAME LOVE」や「LOVE MIX」なんて、何故ボツにしていたのか全く理解不能な名曲だし、他の楽曲も1989年リリースのアルバム「FLOWERS IN THE DIRT」や1993年リリースのアルバム「OFF THE GROUND」、そして1997年リリースのアルバム「FLAMING PIE」の本編にすら収録されず、シングルのカップリングやラジオ番組でのレア・トラックとして公開するって、もう何だか分かりませんよ。
表題曲である「BEAUTIFUL NIGHT」は、1997年リリースの完成版と1986年ヴァージョンの両方が聴ける様になったのですが、勿論、楽曲自体が素晴らしいのだけれど、1997年の完成版の方が明らかに優っていると思います。アルバム「FLAMING PIE」でも、実質的にはトリを務めているハイライトです。ソノ後の「GREAT DAY」はポールお得意のオマケで、1992年のリンダとの小品を入れたかったのでしょう。リンダは1998年に亡くなってしまうので、此の「BEAUTIFUL NIGHT」でのバッキング・ヴァーカルがポールのシングルとしては最後の歌声となってしまいました。既に闘病中だったので覚悟をしていたであろう時に、前向きな「BEAUTIFUL NIGHT」と云う絶品の楽曲を歌っていたのですから、強い意志が感じられます。「OOBU-JOOBU」で公開された未発表曲では、ハードな「ATLANTIC OCEAN」や、ギターのループが不思議なインストゥルメンタル曲「SQUID」と云った楽曲も聴けます。
表題曲「BEAUTIFUL NIGHT」には、1985年のピアノの弾き語りデモもあって、そちらはアルバム「FLAMING PIE」の「アーカイヴ・コレクション」に収録されていますが、2CDの「スペシャル・エディション」にも入っているので、4万円強の「デラックス・エディション」や14万円!の「コレクターズ・エディション」を買わずとも4千円弱で聴く事が出来ます。ポールとしては「BEAUTIFUL NIGHT」に関してはアルバムの売りのひとつにしているし、英国のみとは云えシングル・カットしているので、ただ寝かしておいただけではないのでしょう。しかし、他のシングル・カップリング曲に関しては、所詮は本編にも収録しない程度の楽曲だと云う事なのでしょう。丁度良く1995年にラジオ番組「OOBU-JOOBU」が放送されたので、幾つかの楽曲はラジオのオンエアで公開してCDシングルのカップリングで発表したのですが、まだまだポールの未発表曲はごまんとあるのでしょう。英国で25位のシングル「BEAUTIFUL NIGHT」は「THE 7‘’ SINGLES BOX」では59枚目で、英国盤のピクチャー盤を元にリニューアルしたピクチャー・スリーヴで収録されています。
(小島イコ)