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2024年04月29日

「ポールの道」#355「THE 7‘’ SINGLES BOX」#31「WATERFALLS / CHECK MY MACHINE」

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ポール・マッカートニーは1980年5月16日(英国・パーロフォン)、同年5月21日(米国・コロムビア)、同年6月5日(日本・東芝EMI)に、2作目のソロ・アルバム「McCARTNEY U」をリリースしました。此のアルバムは、1970年4月にリリースされたポールの初のソロ・アルバム「McCARTNEY」から10年ぶりで、リンダが一部の曲でバッキング・ヴォーカルで参加している以外は、全ての演奏と歌をポールがひとりで多重録音したものです。レコーディングは1979年6月から8月かけてと10月に、サセックスのポールの自宅スタジオで行われています。内容は、A面が、1「COMING UP」、2「TEMPORARY SECRETARY」、3「ON THE WAY」、4「WATERFALLS」、5「NOBODY KNOWS」で、B面が、1「FRONT PARLOUR」、2「SUMMER'S DAY SONG」、3「FROZEN JAP」、4「BOGEY MUSIC」、5「DARKROOM」、6「ONE OF THESE DAYS」の、全11曲入りです。ポールはコレを、当初はアナログLP2枚組でリリースしようと考えていましたが、レコード会社に反対されて1枚になりました。

ポールには「LP2枚組」に対する拘りがあった様で、1973年リリースのアルバム「RED ROSE SPEEDWAY」と、1978年リリースのアルバム「HOT HITS - KOLD KUTZ」(「WINGS GREATEST」となった)、そして此の1980年リリースのアルバム「McCARTNEY U」、更には1982年リリースのアルバム「TUG OF WAR」と1983年リリースのアルバム「PIPES OF PEACE」も、当初は2枚組でのリリースを考えていました。アルバム「McCARTNEY U」は、全英首位!全米3位の大ヒットとなり、ウイングスとしての前作で1979年リリースのアルバム「BACK TO THE EGG」(全英6位・全米8位)よりも売れています。「ロケストラ」を加えたりして莫大なお金を掛けて制作した「BACK TO THE EGG」よりも、遊び半分でひとりで気ままにレコーディングしたアルバム「McCARTNEY U」の方が売れてしまったのですから、ポールとしても「ウイングスの存在意義」に疑問を持ってしまったでしょう。現在では「アーカイヴ・コレクション」で、2枚組に予定していた楽曲の一部は聴けます。

しかし、此の宅録アルバムには先行シングルとしてリリースして全英2位の「COMING UP」(全米首位!は、ウイングスのライヴ音源)や、第2弾シングル・カットの「WATERFALLS」や、「SUMMER'S DAY SONG」や「ONE OF THESE DAYS」と云った「ポールらしい佳曲」もあるものの、テクノの「TEMPORARY SECRETARY」や「FRONT PARLOUR」や「FROZEN JAP」や「DARKROOM」とか、捻りもないブルースの「ON THE WAY」とか、中途半端にエルヴィスしている「BOGEY MUSIC」など、ポールにしては詰めが甘すぎる楽曲がほとんどを占めているのです。みんな「COMING UP」で期待して買ったら、何だか良く分からない宅録で困ったちゃんだったのです。日本では、1980年1月の逮捕拘留国外退去から日が浅い段階でのリリースだったので、「FROZEN JAP」や「DARKROOM」が日本での逮捕を揶揄した楽曲だと思われて、日本盤だけ「FROZEN JAP」が「フローズン・ジャパニーズ」に改題されています。まあ、ポールには悪気はなくて、と云うか此のアルバムのレコーディングは1979年だったので、日本での事件よりも前に出来ていたわけです。

悪気がないのでたちが悪いポールは、当時世界ツアーも行った「YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)」に興味を持っていて、来日公演が実現していたならば共演も予定していたので、こうした「YMOを意識したテクノ」をやって、日本にちなんでタイトルを付けただけだったのでした。さて、第2弾シングル・カットの「WATERFALLS / CHECK MY MACHINE」ですが、A面の「WATERFALLS」はポールらしい名曲で、全英9位とヒットしたものの、全米では106位と低迷しました。ミュージック・ヴィデオではポールが本物のホッキョクグマと共演していて、スタッフはヒヤヒヤしたでしょう。作詞作曲はポールの単独で、演奏も、リード・ヴォーカル、アコースティック・ギター、エレクトリック・ピアノ、シンセサイザー、とポールが全て担当しています。ポールが奇声でタイトルを連呼するだけのB面の「CHECK MY MACHINE」はアルバム未収録のテクノ調の楽曲で、現在ではアルバム「McCARTNEY U」の「アーカイヴ・コレクション」で聴けます。「THE 7‘’ SINGLES BOX」には31枚目で、英国盤のピクチャー・スリーヴで復刻されています。

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする