ポール・マッカートニーが率いるウイングスは、1979年6月に7作目のオリジナル・スタジオ・アルバム「BACK TO THE EGG」をリリースして、此の時は「第7期ウイングス」でした。ポールはアルバムをリリースした1979年6月から8月にかけて、当初は発表する心算もなく、シンセサイザーなどを駆使したワンマン・レコーディングを半ば趣味で行っていて、1979年11月16日(英国・パーロフォン)・11月26日(米国・コロムビア)・12月1日(日本・東芝EMI)に、シングル「WONDERFULL CHRISTMASTIME / RUDOLPH THE RED NOSED REGGAE」をリリースしました。A面の作詞作曲はポールの単独で、ウイングスではなくポール・マッカートニー単独名義で、ポールは、ベース、ギター、シンセサイザー、メロトロン、ドラムス、パーカッション、ヴォーカル、と全ての楽器と歌を担当しています。クリスマス・シングルとしてリリースした此の両面楽曲は、オリジナル・アルバム未収録曲ですが、後に「ザ・ポール・マッカートニー・コレクション」のアルバム「BACK TO THE EGG」にボーナス・トラックとして収録されています。
A面の「WONDERFULL CHRISTMASTIME」は、後にアルバム「McCARTNEY U」の「アーカイヴ・コレクション」にもボーナス・トラックとして収録されていて、そちらでは「フル・レングス・ヴァージョン」も聴けます。リリース当時には全英6位まで上がるヒット曲にもなっていますが、全米チャートではクリスマス・ソングを対象外としていたのでチャートインせずに、1984年に再発してからクリスマス・チャートで10位まで上がっています。此の楽曲は、2024年の現在までクリスマス・シーズンの定番曲のひとつとなっていて、MTVなどでクリスマスが近づくとミュージック・ヴィデオが流されていますが、そちらは「第7期ウイングス」の5人が出演しているものの、演奏はポールがひとりでレコーディングしたヴァージョンです。「第7期ウイングス」は、1979年11月23日から12月17日まで9都市19公演の最初で最後の英国ツアーを行っていて、そちらではウイングスとして「WONDERFULL CHRISTMASTIME」と「COMING UP」も演奏しています。
結果的にウイングスの最後のツアーとなった此の時のセットリストは、1「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE」、2「GETTING CLOSER」、3「EVERY NIGHT」、4「AGAIN AND AGAIN AND AGAIN」、5「I'VE HAD ENOUGH」、6「NO WORDS」、7「COOK OF THE HOUSE」、8「OLD SIAM, SIR」、9「MAYBE I'M AMAZED」、10「THE FOOL ON THE HILL」、11「LET IT BE」、12「HOT AS SUN」、13「SPIN IT ON」、14「TWENTY FLIGHT ROCK」、15「GO NOW」、16「ARROW THROUGH ME」、17「WONDERFULL CHRISTMASTIME」、18「COMING UP」、19「GOODNIGHT TONIGHT」、20「YESTERDAY」、21「MULL OF KINTYRE」、22「BAND ON THE RUN」で、「第2期ウイングス」とも「第5期ウイングス」とも全く違っています。編成はポール&リンダ・マッカートニーにデニー・レイン、スティーヴ・ホリー、ローレンス・ジューバー、の「第7期ウイングス」5人に、ホーン・セクション4人が加わった9人体制で、頭数は「第5.5期ウイングス」と変わらない「第7.5期ウイングス」ではあります。
内容は、ビートルズ・ナンバー4曲、1970年のアルバム「McCARTNEY」から3曲、1973年のアルバム「BAND ON THE RUN」から2曲、1976年のアルバム「WINGS AT THE SPEED OF SOUND」から1曲、1977年のシングル1曲、1978年のアルバム「LONDON TOWN」から1曲、1979年のシングル2曲、1979年のアルバム「BACK TO THE EGG」から5曲、カヴァーが2曲、新曲が1曲です。まず、ビートルズ・ナンバー4曲ですが、以前に披露したのは「YESTERDAY」のみで、「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE」と「THE FOOL ON THE HILL」と「LET IT BE」の3曲は、ウイングス時代はおろかビートルズ時代にもライヴでは披露していなかった楽曲です。更に「McCARTNEY」から定番の「MAYBE I'M AMAZED」だけではなく、他に2曲(「EVERY NIGHT」と「HOT AS SUN」)を取り上げていたり、ジョン・レノンと初めて逢った日に披露したと云われる「TWENTY FLIGHT ROCK」も演奏しています。幻の1980年1月の来日公演では、此のセットリストとは異なる選曲となっていたらしいのですが、変えずにこれだけ演奏してくれれば充分大満足だったでしょう。
さて、シングル「WONDERFULL CHRISTMASTIME / RUDOLPH THE RED NOSED REGGAE」ですが、ポールはアルバム「BACK TO THE EGG」のリリース直後からワンマン・レコーディングを開始していて、ソレは後に1980年5月リリースのアルバム「McCARTNEY U」として、当初は2枚組でと考えていたわけです。ソレがですね、ポールが1980年1月に来日して、成田税関でストップされて、大麻不法所持で逮捕されて、9日間拘留の上に国外退去になって、ウイングスのツアーも全てキャンセルしたので暇になってソロ・アルバムをリリースした流れになっているのですけれど、クリスマス・シングルのコレを出した後に、翌1980年4月にはシングル「COMING UP」をリリースしていて、ソノ曲もライヴでは既に披露していたわけですよ。何だか手際が良過ぎて、アルバム「McCARTNEY U」は暇になったから出したのではなくて、計画的だったのではないでしょうか。A面の「WONDERFULL CHRISTMASTIME」は冬の定番曲となり、B面は「赤鼻のトナカイ」をレゲエにしたインストゥルメンタル曲です。「THE 7‘’ SINGLES BOX」には29枚目で、英国盤のピクチャー・スリーヴで復刻されています。
(小島イコ)