ポール・マッカートニーが率いるウイングスは、ポール&リンダとデニー・レインの3人組に戻った「第6期ウイングス」を経て、1978年にドラマーのスティーヴ・ホリーとリード・ギタリストのローレンス・ジューバーを加えた5人組に三度なり「第7期ウイングス」となりました。えっとですね、前にも書きましたが、ウイングスと云う名のバンドは、1971年リリースのアルバム「WILD LIFE」から1979年リリースのアルバム「BACK TO THE EGG」まで、オリジナル・スタジオ・アルバムが7枚で、それらは「第1期ウイングス」から「第7期ウイングス」によってレコーディングされていて、簡単に云うと同一メンバーではアルバムを1枚ずつしか制作出来なかったのです。コレはですね、毎回アルバムを2枚出したらメンバーを変えちゃったジェフ・ベックとか、ロバート・フィリップ以外はコロコロとメンバーが変わったキング・クリムゾンとか、ドラマーとベーシストの名前をバンド名にしてフロント・メンバーが何回も変わったフリートウッド・マックなどよりも目まぐるしい変化なのです。
ソレがポールと云うトンデモ野郎の独裁政権が成せる技であり、そんな人とビートルズの他の3人はオリジナル・アルバムを12作も作ったのですから、それだけで凄い事ですし、近々遂に配信される映画「LET IT BE」やドキュメンタリー作品「GET BACK」を観ると、ポールの独善的な態度が手に取る様に分かります。ギターにイチャモンをつけられたジョージ・ハリスンが、ポールに「分かったよ、君が云う通りに弾くし、弾くなと云うなら弾かない」と切れて脱退する場面は、悪い意味で有名です。何せポールは、ジョージに面と向かって「ギターはジョンだけで良い」などと、ソレを云っちゃあオシマイよ、な事まで云うわけですよ。つまり、ポールはアタマの中で完成形が見えているので、その通りにならないと平気で他のメンバーに指示しちゃうのです。さて「第7期ウイングス」ですが、1979年3月にはシングル「GOODNIGHT TONIGHT」をリリースしてお披露目となり、当時流行していたディスコを取り入れたシングルは全英5位・全米5位と売れました。ソノ勢いで同1979年6月8日に英国・パーロフォンから、同年5月24日に米国・コロムビアからリリースしたのがアルバム「BACK TO THE EGG」です。
ところが「第7期ウイングス」での唯一のアルバムとなってしまう此のアルバムで、最も話題になったのは「ロケストラ」だったのです。ポールがロックとオーケストラを融合したと云うロケストラによる演奏の2曲(「ROCKESTRA THEME」、「SO GLAD TO SEE YOU」)は、ギターが、デニー・レイン、ローレンス・ジューバー、デヴィッド・ギルモア(ピンク・フロイド)、ハンク・マーヴィン(シャドウズ)、ピート・タウンゼント(THE WHO)、ベースが、ポール・マッカートニー、ジョン・ポール・ジョーンズ(レッド・ツェッペリン)、ロニー・レイン(スモール・フェイセス、フェイセズ)、ブルース・トーマス、ドラムスが、スティーヴ・ホリー、ジョン・ボーナム(レッド・ツェッペリン)、ケニー・ジョーンズ(THE WHO)、ピアノが、ポール・マッカートニー、ゲイリー・ブルッカー(プロコル・ハルム)、ジョン・ポール・ジョーンズ(レッド・ツェッペリン)、キーボードが、リンダ・マッカートニー、トニー・アシュトン、パーカッションが、スピーディ・アクウェイ、トニー・カー、レイ・クーパー、モーリス・パート、ホーン・セクションが、ハウイー・ケイシー、トニー・ドーシー、スティーヴ・ハワード、サディアス・リチャード、からなるスーパー・バンドによる演奏なのです。
確かに「第7期ウイングス」の5人も参加してはいるものの、コレがアルバムの目玉では「違う」でしょう。アルバムのプロデューサーはポールとクリス・トーマスなのですが、幾ら此の時期にはピンク・フロイド「狂気」のエンジニアやプロコル・ハルムやロキシー・ミュージックやセックス・ピストルズなど幅広くプロデュースして有名プロデューサーになっていたとは云え、元々がビートルズのアルバム「THE BEATLES(ホワイト・アルバム)」での丁稚奉公から始まったクリス・トーマスでは、ポールの暴走を止める事など不可能だったのです。故に、アルバム「BACK TO THE EGG」は様々なタイプの曲が入った幕の内弁当となっております。1979年6月1日リリースの英国での第1弾シングル・カットは「OLD SIAM, SIR / SPIN IT ON」で、両面共に「パンク・ロック」を意識していて、クリス・トーマスを起用したので時流に合わせたのでしょうし、ポールとしては「パンクだって俺様が元祖で本家」と思っていたのでしょうけれど、全英35位と低迷して、米国や日本では此のカップリングではシングル・カットはされていません。アルバム「BACK TO THE EGG」も、全英6位・全米8位と、かつてのアルバムよりは低い成績でした。「OLD SIAM, SIR / SPIN IT ON」は「THE 7‘’ SINGLES BOX」では26枚目で、目玉焼きが覗いている英国盤仕様で復刻されています。
(小島イコ)