ポール・マッカートニーが率いるウイングスは、1977年2月から翌1978年1月までの長期間に渡ってレコーディングした6作目のスタジオ・アルバム「LONDON TOWN」を、1978年3月31日に、英国・パーロフォン、米国・キャピトルからリリースしました。レコーディングは、1977年2月から3月にロンドンのアビイ・ロード・スタジオで、1977年5月にヴァージン諸島のヨット上で、1977年10月から12月に再びアビイ・ロード・スタジオで、1977年12月にエアー・スタジオで、翌1978年1月にアビイ・ロード・スタジオで行われています。しかしながら、船上レコーディングが終了したところで、リード・ギタリストのジミー・マカロックとドラマーのジョー・イングリッシュが脱退してしまい「第5期ウイングス」は崩壊し、またしてもポール&リンダとデニー・レインの3人の「第6期ウイングス」となった上に、リンダが長男・ジェイムズ・マッカートニーを妊娠して産休に入ってしまい、最終的にはポールとデニー・レインの二人だけでレコーディングする事となってしまいました。
1977年11月にリリースした英国では特大ヒット曲となった「MULL OF KINTYRE(夢の旅人)」は、作詞作曲がポールとデニー・レインの共作となっていて、アルバム「LONDON TOWN」でも全13曲(メドレーを分けると全14曲)中5曲も「マッカートニー=レイン」の共作があるのですが、コレはですね、デニー・レインにまで辞められたらポールがひとりになっちゃうので、共作曲を多くしたんじゃないでしょうか。無論、ポールならひとりぽっちになっても全ての楽器をひとりで演奏して歌ってレコード化する事は可能ですし、そうしたレコードもあります。でも、ワールド・ツアーを大成功させたばかりの此の時期には、まだバンドに対するこだわりがあったのでしょう。そんなアルバム「LONDON TOWN」から、最初にシングル・カットしたのが、1978年3月20日(米国)・3月23日(英国)にリリースされた「WITH A LITTLE LUCK(しあわせの予感)/ BACKWARDS TRAVELLER(なつかしの昔よ) / CUFF LINK(カフ・リンクをはずして)」です。前作シングル「MULL OF KINTYRE」は英国ではバカ売れしたけれど米国では売れなかったものの、此のシングルは全米首位!全英5位でした。
此の「WITH A LITTLE LUCK」と云う曲は、1979年公開のファラ・フォーセット主演映画「サンバーン」のエンディングに使われているのですが、余りソレに触れている文章にはお目にかかれません。映画「サンバーン」のタイトル曲は10ccのグレアム・グールドマンが書き下ろしていて、当時に交通事故で休養中だったエリック・スチュワート以外のメンバーでレコーディングしていて、10ccの他の曲も使われています。映画の内容は、当時のファラ・フォーセット人気にあやかった、ファラ・フォーセットを水着で出しておけばお客さんは満足するだろう、と云う単純明快な超B級作品です。そして、此の楽曲にはアルバムでの5分45秒にも及ぶヴァージョンの他に、キリリと短縮した「DJ EDIT」3分12秒があります。ブートレグの「THE 7‘’ SINGLES」には「DJ EDIT」が収録されているので、ドイツ盤ではそちらだった模様です。と云うか、聴いたひとなら誰でも思う通り、5分45秒のアルバム・ヴァージョンは途中からシンセサイザーだけになって間延びしちゃっていて、折角の名曲が些か残念なアレンジになっているのです。船上レコーディングなので、後でリード・ギターでもダビングする予定だったのかもしれませんが、ジミー・マカロックが脱退したのでそのまんまにしちゃったみたいな出来栄えです。
ソレで、後のベスト盤では「DJ EDIT」を収録する事も多いのです。アルバムでは、B面1曲目だったので、此の一回終わったかと見せかけて終わらず、また始まったと思ったらシンセがずっと鳴っていて、大して盛り上がらずにアッサリと終わってしまう展開には、悪い意味で驚かされました。1年間もかけたわりには、前述の通り、メンバーは5人の「第5期ウイングス」と3人の「第6期ウイングス」と二人だけの「第6.5期ウイングス」が混在していて、アルバムとしてもイマイチな印象です。前作アルバム「WINGS AT THE SPEED OF SOUND」ではメンバー全員に歌わせる愚挙を犯したポールは、此のアルバムでは過剰にデニー・レインを前に出すと云う大失敗をやらかしてしまったのです。サー・ジョージ・マーティンは、もう此の辺で「ウイングスは、ダメだこりゃ」と思っていたのでしょうなあ。B面の「BACKWARDS TRAVELLER / CUFF LINK」は、アルバムでも短い曲のメドレーだった曲ですが、特に後半のインストゥルメンタル曲が、やはりシンセサイザーが中心で何とも中途半端です。作詞作曲はポールの単独作となったのですが、リンダの名前が消えたと思ったら、デニー・レインが5曲も共作になっていて、とっても困ったちゃんなのです。「THE 7‘’ SINGLES BOX」には22枚目で、ドイツ盤のピクチャー・スリーヴで復刻されています。
(小島イコ)