1973年12月にリリースされた3作目で「第3期ウイングス」の唯一のアルバム「BAND ON THE RUN」が売れに売れて、1974年の年間全米チャートでも首位を獲得したポール・マッカートニー&ウイングスですが、幾らアルバムが売れてもポール&リンダとデニー・レインの3人ではライヴが出来なくて困ったちゃんなのです。ソコで、1973年10月にロンドンでのアルバム「BAND ON THE RUN」セッションの終盤になって、リンダがリード・ヴォーカルの「ORIENTAL NIGHTFISH」を「第3期ウイングス」でレコーディングしていて、ソノ翌月である1973年11月には更にリンダがリード・ヴォーカルの「WIDE PRAIRIE」と「I GOT UP」をフランスでレコーディングするのですが、此の時にはリード・ギターでサンダークラップ・ニューマンやストーン・ザ・クロウズのメンバーだったジミー・マカロックが参加しています。これらのリンダがメインの楽曲は、1998年にリンダが亡くなってからソロ・アルバム「WIDE PRAIRIE」に収録されて公式にリリースされています。
若き天才ギタリストであったジミー・マカロックは、ウイングスに参加した時には若干20歳だったものの、10代前半からプロのギタリストとして活動していて、そのまま翌1974年1月には正式に「ウイングス」のメンバーとなり、ポールがプロデュースしたポールの実弟であるマイク・マクギアの1974年リリースのソロ・アルバム「McGEAR」にもウイングスのメンバーとして参加しています。アルバム「BAND ON THE RUN」がロングセラーとなっていた1974年7月には、ドラマーのジェフ・ブリトンも加わって、ツアー・リハーサルと、スタジオ・ライヴ(「ONE HAND CLAPPING」として映像化されている)と、シングル「JUNIOR'S FARM」もレコーディングされて、ジェフ・ブリトンも同年8月には正式にウイングスに加入して、再び5人組の「第4期ウイングス」となったのです。ソノ「第4期ウイングス」による初のシングルが「JUNIOR'S FARM / SALLY G」で、1974年10月25日(英国)・11月4日(米国)・12月1日(日本)に、アップルからリリースされました。
此のシングルは、ポール・マッカートニー&ウイングスが最後にアップルからリリースした作品で、全英16位・全米3位と特に米国では大ヒットしています。A面の「JUNIOR'S FARM」は、ボブ・ディランの「MAGGIE'S FARM」の息子と云う発想らしいのですが、例によって訳が分からない内容です。レコーディング・メンバーは、ポール・マッカートニー(リード & バッキング・ヴォーカル、ベースギター)、リンダ・マッカートニー(バッキング・ヴォーカル、キーボード)、デニー・レイン(バッキング・ヴォーカル、エレクトリック・ギター)、ジミー・マカロック(バッキング・ヴォーカル、エレクトリック・ギター)、ジェフ・ブリトン(ドラムス)の「第4期ウイングス」です。ところが、ドラマーのジェフ・ブリトンは次のウイングスのアルバム「VENUS AND MARS」のレコーディングの途中で、「空手映画俳優になる!」との理由でウイングスを脱退してしまうので、なんと「第4期ウイングス」のシングルはコレだけになってしまうのです。まあ、多分、ポールの気まぐれで、ナッシュビルとかニューオリンズでのレコーディングとなったのがイヤだったのでしょう。
個人的には此の「JUNIOR'S FARM」と云う曲が大好きで、此の曲のプロモーション・フィルムを観て、ベースを弾き始めました。ポールもライヴ活動を再開出来る嬉しさからかノリ捲っていて、間奏の前にジミーに声をかけて、ソレに応えてジミーが弾くリード・ギターがカッコイイんだなあ、コレが。B面の「SALLY G」はナッシュビル録音らしいカントリー・ナンバーで、ポールとジミーがアコースティック・ギターで、ナッシュビルのミュージシャンのロイド・グリーン(ドブロ・ギター、ペダル・スティール・ギター)、ボブ・ウィルス(ヴァイオリン)、ジョニー・ギンブル(ヴァイオリン)が客演しています。両面共にアルバム未収録曲で、後にウイングスの最初のベスト盤に「JUNIOR'S FARM」が収録された時は嬉しかったです。現在では両面共に、アルバム「VENUS AND MARS」の「アーカイヴ・コレクション」で聴けます。更に此のシングルは、翌1975年になってAB面を逆にして再リリースされています。「COUNTRY DREAMER」とか「SALLY G」なんかは、ビートルズが存続していたら、多分リンゴに歌わせていたでしょうなあ。両面共に作詞作曲は「ポール&リンダ・マッカートニー」と云う事になっていて、「THE 7‘’ SINGLES BOX」には14枚目で、ベルギー盤のピクチャー・スリーヴで復刻されています。画像は日本盤ですが、何故かリンダがメインで、ポールが背後霊みたいになっています。
そして、此の時期にウイングスは覆面バンド「カントリー・ハムズ」名義で「WALKING IN THE PARK ELOISE / BRIDGE OVER THE RIVER SUITE」と云うシングルを「第4期ウイングス」でナッシュビルでレコーディングして、1974年10月18日(英国)・12月2日(米国)・翌1975年3月5日(日本)にリリースしています。チェット・アトキンス(ギター)とフロイド・クレイマー(ピアノ)が参加したA面の「WALKING IN THE PARK ELOISE」は、ポールの父親ジェームズ作で、B面の「BRIDGE OVER THE RIVER SUITE」はポール&リンダ作の、どちらもインストゥルメンタル曲です。ソレで、A面にはジェフ・ブリトンがドラマーとして参加しているのです。まあ、覆面バンドなので当時は明かされていなかったわけですが、現在ではアルバム「VENUS AND MARS」の「アーカイヴ・コレクション」に収録されています。此のシングルは「THE 7'' SINGLE BOX」には未収録で、そう云えば「第2期ウイングス」が覆面バンド「スージー&ザ・レッド・ストライプス」(後に「リンダ・マッカートニー」名義でも再発)でリリースした「SEASIDE WOMAN / B-SIDE TO SEASIDE」も未収録ですなあ。
(小島イコ)