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2024年04月11日

「ポールの道」#337「THE 7‘’ SINGLES BOX」#13「MRS. VANDEBILT / BLUEBIRD」



ポール・マッカートニー&ウイングスの3作目のアルバム「BAND ON THE RUN」からのシングル・カットと云えば、前々回の「JET」と前回の「BAND ON THE RUN」なのですが、「THE 7‘’ SINGLES BOX」には更に13枚目に「MRS. VANDEBILT / BLUEBIRD」のオランダ盤が、アルバム「BAND ON THE RUN」の裏ジャケットでのパスポート風なポール&リンダとデニー・レインによる「第3期ウイングス」のピクチャー・スリーヴで復刻されています。あたくしは、此の「THE 7‘’ SINGLES BOX」に収録されるまでは、此のシングル・カット盤の存在自体を知りませんでした。コレはですね、1974年1月にヨーロッパ諸国やオーストラリアなどで独自にシングル・カットされていて、ニュージーランドでは9位まで上がったヒット曲となっていたのでした。前述の通り、英国や米国は勿論、日本でもシングル・カットされていないカップリングですが、何故、此のシングル・カットが、云ってみれば「JET」や「BAND ON THE RUN」を差し置いて、ヨーロッパ諸国やオーストラリアでリリースされたのかは分かりません。

何せ、アルバム「BAND ON THE RUN」のA面4曲目の「MRS. VANDEBILT」がA面で、同じくA面3曲目の「BLUEBIRD」がB面と云う、地味な曲で何も考えていない様なカップリングでのシングル・カット盤なのです。アルバムのA面での流れでも、最初の「BAND ON THE RUN」と2曲目の「JET」は派手で、それぞれシングル・カットされてヒットしたのは理解出来ます。ソレが、3曲目の「BLUEBIRD」と4曲目の「MRS. VANDEBILT」で何だかヘンチクリンな事になっていてですね、特に「ホ!ヘイホ!」とか掛け声が入る「MRS. VANDEBILT」は、ズバリ云って「変な曲」だし、とてもじゃないけれどシングル・カットされる様な曲ではありません。ソレがですよ、事実としてシングル・カットされていて、ヒットしていたのですから驚きました。ポールは近年のライヴで「MRS. VANDEBILT」を演奏していて、お客さんは「ホ!ヘイホ!」とやって盛り上がるわけですが、何故にこんなマイナーな曲をライヴで披露しているんだろう?と思ったら、なんと、ヒット曲だったわけですよ。両面共に「ポール&リンダ」作にはもう慣れたけれど、こっちは困惑しちゃいました。

アルバム「BAND ON THE RUN」には色々と仕掛けがあって、B面の後半での「PICASSO'S LAST WORDS(DRINK TO ME)(ピカソの遺言)」の中間部で「JET」が出てきて、エンディングでは「MRS. VANDEBILT」も再び登場して、最後の「NINETEEN HUNDRED AND EIGHTY FIVE」での大団円へと向かうので、重要な曲と云えばそうなんですけれど、何度も云いますが、まさか一部の国ではシングル・カットされていたとは知りませんでした。演奏は、ポール&リンダとデニー・レインの3人での「第3期ウイングス」で、まあ、リード・ヴォーカル、ベースギター、リードギター、ドラムス、ピアノと、ほとんどがポールです。B面の「BLUEBIRD」は、これまたビートルズ時代の「BLACKBIRD」の姉妹編で、アコースティックな楽曲構成まで似ているわけで、つまりはジョージ・ハリスンの「HERE COMES THE MOON」の様な「ラトルズ風」な楽曲です。ポールは実弟のマイク・マクギアが「スキャッフォルド」や「グリムズ」のメンバーなので、そう云ったユーモアもあるわけです。旧友・ハウイー・ケイシーのサックスも粋で、良いですね。

さて、1973年12月にリリースされたアルバム「BAND ON THE RUN」は、出足こそ悪かったものの、シングル・カットした「JET」や「BAND ON THE RUN」、そして此の「MRS. VANDEBILT」の効果もあってロングセラーとなり、英米共に首位!全米では年間でも首位!グラミー賞でもベスト・ポップ・グループ賞と、ジェフ・エメリックがベスト・エンジニア賞を受賞!ジョン・レノンも絶賛!キース・ムーンも「此のドラムは誰?」と驚愕!そして、評論家も手のひらを反して大絶賛!と、遂にポールの完全勝利となったわけですが、問題もありました。ソレはですね、幾らアルバム「BAND ON THE RUN」が売れて高評価されても、3人だけになってしまった「第3期ウイングス」では、ポールが八面六臂の大活躍でレコーディングは出来ても、ポールが大好きなライヴ活動が出来ないわけですよ。ウイングスは、辞めたリード・ギタリストとドラマーの後釜を決めて、再び5人組になって、リハーサルから始めなければならなかったのです。

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする