1973年4月30日(米国)・5月4日にアップルからリリースされたポール・マッカートニー&ウイングスの2作目のアルバム「RED ROSE SPEEDWAY」は、長期に渡るレコーディングで30曲程の楽曲が完成して、ポールは2枚組でリリースする予定が、前作アルバム「WILD LIFE」の売り上げが思ったよりも低かったので、レコード会社の要請で1枚に変更させられて、バンド名も「ウイングス」から「ポール・マッカートニー&ウイングス」に改名させられました。アルバム「RED ROSE SPEEDWAY」は、2枚組を1枚に凝縮されているのにも関わらず、全体的にのんびりとしたかったるい流れのアルバムで、現在では当初の2枚組でも「アーカイヴ・コレクション」でリリースされているのですが、先行シングルだった「MY LOVE」だけが別格に良くて、他はダラダラとした全18曲がつづくので、レコード会社の判断は正しかったと思えます。
ウイングスはアルバム「RED ROSE SPEEDWAY」のレコーディングから、「MARY HAD A LITTLE LAMB」や「HI, HI, HI」や「MY LOVE」、更には今回取り上げる「LIVE AND LET DIE」を、イレギュラーだった「GIVE IRELAND BACK TO THE IRISH」も含めて5枚ものシングルを1972年から1973年にかけて乱発していて、それぞれヒットさせているのですが、ソノ内でアルバム「RED ROSE SPEEDWAY」に収録したのは「MY LOVE」のみで、ソノ「MY LOVE」ですらB面はアルバム未収録で、つまりは短期間にアルバム未収録が9曲もあるのです。しかも、それらの曲は2枚組の構成からも外れている楽曲もあって、なんと、「GIVE IRELAND BACK TO THE IRISH」と「MARY HAD A LITTLE LAMB」と「HI, HI, HI」と「C MOON」と「LIVE AND LET DIE」と両A面も含めたヒットした5曲も2枚組アルバムにすら未収録だったのです。
1972年10月19日にレコーディングされて、翌1973年6月1日(英国)・同年6月18日(米国)・同年7月20日(日本)にリリースされたシングル「LIVE AND LET DIE / I LIE AROUND」は、B面の「I LIE AROUND」はアルバム「RED ROSE SPEEDWAY」2枚組には収録予定で弾かれた曲ですが、A面の「LIVE AND LET DIE」は云わずと知れた「007 死ぬのは奴らだ」の主題歌で、ウイングスのアルバムには未収録曲です。ビートルズ時代のプロデューサーだったサー・ジョージ・マーティンがポールに依頼して作られた此の楽曲は、久しぶりにサー・ジョージ・マーティンがプロデュースを担当しています。マーティンはポール&リンダ・マッカートニー名義の1971年リリースのアルバム「RAM」でも米国で大ヒットした「UNCLE ALBERT / ADMIRAL HALSEY」でオーケストラアレンジを手掛けていて、ポールはアルバム「RAM」でのアウトテイクだった「LITTLE LAMB DRAGONFLY」をアルバム「RED ROSE SPEEDWAY」に引っ張り出していて、そちらもマーティンがオーケストラアレンジを担当しています。此のシングルも、例によって作詞作曲はポール&リンダ・マッカートニーとなっております。
ポールとマーティンが組めば、ソレはもう「ビートリー」ではなく「ビートルズ」なので、此の「LIVE AND LET DIE」もポールによる組曲風でめくるめく変化する美しい楽曲に、マーティンによるオーケストラが絶妙に絡んで、ズバリ云って歴代の「007」主題歌の中でも最高傑作だと云っても宜しいでしょう。全英9位・全米2位と大ヒットしていますが、前述の通り、こうした大ヒット曲を連発していたのに、それらはアルバム未収録曲だらけなのが、ビートルズであり、ポール・マッカートニーなのです。レコーディング・メンバーは、ポール(ヴォーカル、ピアノ)&リンダ(キーボード、バッキング・ヴォーカル)、デニー・レイン(ベース、バッキング・ヴォーカル)、ヘンリー・マカロック(ギター)、デニー・シーウェル(ドラムス)の「第2期ウイングス」で、レイ・パーカーがパーカッションで参加していて、サー・ジョージ・マーティンがプロデュースしてオーケストラを率いています。
「LIVE AND LET DIE」はアルバム未収録曲ですが、其の後にベスト盤には大抵は収録されているし、アルバム「RED ROSE SPEEDWAY」の「アーカイヴ・コレクション」にもボーナス・トラックでシングル・ヴァージョンとオーケストラ抜きのヴァージョンが収録されています。ライヴでもウイングス時代から現在まで、ほぼ定番曲としてライヴの終盤に披露されていて、派手に爆発させて盛り上げております。アルバム「RED ROSE SPEEDWAY」ですが、メドレーを1曲にして全9曲中、前述の「LITTLE LAMB DRAGONFLY」と「GET ON THE RIGHT THING」の2曲もアルバム「RAM」でのセッションから引っ張り出しているのです。故に、ソノ2曲ではヘンリー・マカロックはギターを弾いていません。これまた、ヘンリーにとっては屈辱的な事で、やれ「カーペンターズのギタリストが欲しい」だの云われた上に、今更デビッド・スピノザやヒュー・マクラッケンがギターを弾いた曲をアルバムに収録されたんじゃ、やっていられなくもなりますわなあ。
ソレでですね、当時は有名なTV特番「JAMES PAUL McCARTNEY」が制作されて放送されているのですけれど、もうタイトル通りに「ポールのワンマンショー」になっていてですね、一応はウイングスとしてのライヴ映像も出てくるけれど、ほとんどは「ポールが主役」で、幾らポールが「ウイングスはバンド」と熱弁しようが、やっている事は「ポールのバック・バンド」にすぎないのです。レコーディングだけならば、マルチプレイヤーであるポールは全部ひとりでやれるし、実際にそうしたアルバムやシングルはあるわけで、「MY LOVE」のギターだって最初はポールが考えたフレーズで弾かせようとしたのを、ヘンリーが思い切って変えさせてもらったわけですよ。そう考えると、ポールみたいな人とアルバムを10作以上も作ったビートルズの他の3人は凄いと思えるのです。B面はデニー・レインが歌っている「I LIE AROUND」で、まあ、アルバムから弾かれてシングルB面になったのが分かる曲です。「THE MESS」と云い「I LIE AROUND」と云い、思いっ切り「B面」なのがウイングスです。「THE 7‘’ SINGLES BOX」には9枚目で、スウェーデン盤のピクチャー・スリーヴで復刻されています。
(小島イコ)