ウイングスは、プロテスト・ソングのシングル「GIVE IRELAND BACK TO THE IRISH」から童謡路線のシングル「MARY HAD A LITTLE LAMB」と振り幅が広いところ(バンドではなくポール・マッカートニーの振り幅)を見せつけましたが、1972年12月1日(英国)・同年12月4日(米国)・翌1973年1月20日(日本)にアップルからリリースした第3弾で両A面シングル「HI, HI, HI / C MOON」も、またしても物議を醸し出しました。そもそも「第2期ウイングス」の唯一のアルバム「RED ROSE SPEEDWAY」のセッションでレコーディングされた楽曲で、メンバーは、「HI, HI, HI」が、ポール・マッカートニー(ヴォーカル、バッキング・ヴォーカル、ベースギター)、リンダ・マッカートニー(バッキング・ヴォーカル、オルガン)、デニー・レイン(バッキング・ヴォーカル、エレキ・ギター)、ヘンリー・マカロック(エレキ・ギター)、デニー・シーウェル(ドラムス、カウベル)の5人となっております。
「HI, HI, HI」は、当時流行していたT-REXなどのグラム・ロックを意識したブギ調で、ライヴの定番曲となって盛り上がるのですが、セックスやドラッグを連想させる曲だとされて放送禁止となります。それでもライヴで披露されていたので、全英5位・全米10位と大ヒットするのでした。ポール自らが「HI, HI, HI」は「セックス・ソング」と断言しちゃっているので、もう確信犯ですし、エッチな歌詞を書くのはビートルズ時代からポールの必殺技のひとつなのです。ビートルズが来日した時に逢って一緒にスキヤキを食べた若大将・加山雄三さんは「4人で絵を描いていたんだけれど滅茶苦茶でさ、ポールなんか女性のアソコの絵を描いていて、こいつはいつもそんな事ばっか考えているのかと呆れたよ」と云っていましたが、ソノ通りなのです。レゲエ調の「C MOON」を両A面にしたのも、確実に「HI, HI, HI」は放送禁止になるだろうと見越していたからなのでしょう。
ソノ「C MOON」のレコーディング・メンバーは、ポールがヴォーカルとコルネットとピアノ、リンダがバッキング・ヴォーカル、デニー・レインがベースとバッキング・ヴォーカル、ヘンリー・マカロックがドラムスとタンバリン、デニー・シーウェルがコルネットとシロフォン、と云う変則的な構成で、ヘザーとメアリーが掛け声で参加しているみたいです。ようやく「HI, HI, HI」でバリバリにギターを弾いたヘンリー・マカロックですが、片面の「C MOON」では何故かドラムスを担当させられていて、例によってバンマスの娘も参加するって事になってしまい、益々ウイングスでの立場を考えてしまったでしょうなあ。変則的な担当楽器でのレコーディングだったので、ヘンリーも「お遊び」だと思ってドラムスを叩いたであろう事は想像出来ますので、まさか両A面シングルになるとは思ってはいなかったでしょうなあ。でも、まあ、そろそろ「ポールは天然バカボン」と気付いていた頃でしょうなあ。
此のシングルの日本盤は「HI, HI, HI」がA面扱いで、最初にジャケット写真が裏焼きされて「右利きポール」となっていたのは有名ですが、注目すべきなのは遂に「歌と演奏・ウイングス」となっている事です。ようやく、日本でも「ウイングス」名義となった、記念すべきシングルなのです。ソノ分「制作・ポール・マッカートニー」とも記されているのですけれどね。ところが、英米では此の辺でもう「ウイングスなんて誰も知らないから、ポール・マッカートニー&ウイングスに改名しろ」が発令されるので、次のシングル「MY LOVE」からは「PAUL McCARTNEY & WINGS」名義にされちゃうわけで、つまりは日本で「第2期ウイングス」が「ウイングス」名義だったのは此のシングルだけだったのです。作詞作曲は両面共に「ポール&リンダ・マッカートニー」と云う事になっていて、どちらもアルバム未収録曲ですが、後に各種ベスト盤やアルバム「RED ROSE SPEEDWAY」の「アーカイヴ・コレクション」などにボーナス・トラックとして収録されています。画像はフランス盤ですが、「THE 7'' SINGLES BOX」には7枚目で、レアなベルギー盤のピクチャー・スリーヴで復刻されています。
(小島イコ)