ポール・マッカートニーは、2006年9月12日に、クラシック作品のアルバム「ECCE COR MEUM(心の翼)」をMPL/EMI Classicsからリリースしました。タイトルはラテン語で「我が心を見よ」と題された此のアルバムは、1991年リリースの「PAUL McCARTNEY'S LIVERPOOL ORATORIO」、1997年リリースのアルバム「PAUL McCARTNEY'S STANDING STONE」、1999年リリースのアルバム「WORKING CLASSICAL」に続く、ポールにとっては4作目の本格的なクラシック作品です。
内容は、T「SPIRITUS(魂)」、U「GATIA(神の恩恵)」、「INTERLUDE(LAMENT)(インタールード (嘆き))」、V「MUSICA(音楽)」、W「ECCE COR MEUM(心の翼)」の、4楽章と間奏からなる56分53秒の大作で、1998年にオックスフォード大学モードリン・カレッジの創立550周年祝賀のために、学長から作曲を依頼されたポールが、8年間かけて完成させた本格的なクラシック作品で、「INTERLUDE(LAMENT)」は1998年に亡くなった前妻リンダへ捧げられています。此のアルバムがリリースされた2006年には、ポールは悪妻ヘザー・ミルズと2002年に再婚して2003年に娘も生まれていましたが、既に別居していて、2008年には離婚しているので、ポールは「リンダは良かったなあ」と思っていたのでしょう。亡くなったら想い出は美化されてゆくし、ソレ以前にやはりポールにはリンダが必要だったのです。
レコーディングは、2006年3月13日から17日まで、ギャビン・グリーナウェイの指揮で、アカデミー室内管弦楽団、キングス・カレッジ少年合唱団、モードリン・カレッジ少年合唱団、ロンドン・ヴォイシズ、ケイト・ロイヤル (ソプラノ)、コルム・カリー (オルガン)の、総勢150名によってアビイ・ロード第1スタジオで行われています。映像盤も出ていますが、プロデュースはジョン・フレイザーで、完全なるクラシック音楽です。翌2007年には、英クラシック音楽の祭典「クラシック・ブリット」賞の年間最優秀アルバムを獲得していて、全米クラシック・チャートで2位となる高評価が与えられておりますが、毎度の事ですが、ポールの名の下にリリースされているので買って聴いているわけで、今もアルバムを引っ張り出して聴きながら書いていますけれど、内容は正直云ってよく分かりません。
ポールのクラシック作品やアンビエント・ハウス作品、更にはライヴ盤のリリースの流れを辿ると、そう云う番外的な作品がリリースされた年には本隊であるビートルズの新譜と云う名のリミックス盤やリマスター盤がリリースされています。つまり、オリジナル・ソロ・スタジオ・アルバムはビートルズとバッティングしない様にと、ポールが気を遣っているわけですよ。よっぽど1997年リリースのアルバム「FLAMING PIE」の時に「ビートルズで盛り上がっている時に、ポールのソロなんていらないんだよ」とレコード会社に云われた事がショックだったのでしょう。そもそも、1970年リリースの最初のソロ・アルバム「McCARTNEY」が、ビートルズのアルバム「LET IT BE」とバッティングするから前倒しされた事から始まっているので、ポールの「過去の自分との闘い」は根が深いのです。
(小島イコ)