1987年のビートルズの初CD化は、世の中をアナログ盤からCDに変えてしまった大事件だったのですが、何よりも日本ではCD先進国でもあった為に、瞬く間にアナログ盤が消えてゆき、新作はCDでしか発売されない事態となりました。2023年の現在ではアナログ盤も見直されていますが、それでもアナログ盤の新譜は最も売れても数万枚だと云われていて、かつてのCD全盛期にはCDが何百万枚も売れたわけで、現在のアナログ盤はマニア向けと云ってもよろしいでしょう。アナログ盤が見直されている事に対して、タツローこと山下達郎さんは「僕はアナログ盤の方がCDよりも音がいいって云ったのに相手にされなくて、何を今更だ」とか云っていますし、「リイシューされたアナログ盤はスタンパーが違うんだから1980年代のアナログ盤とは違う」とも云っています。そして、レコード・マニアでもあるタツローは「アナログ盤は1万枚、CDは2万枚」所有しているとの事ですから、今やCDの方が圧倒的に数が多いのです。ソレを牽引した戦犯は日本のレコード会社で、例えば1989年にポール・マッカートニーがリリースした「FLOWERS IN THE DIRT」は日本でもアナログ盤は発売されたものの滅多にお目にかかれず、英国からの中継番組で英国のファンがアナログ盤をかざしているのを見て「アナログ盤もあったんだ」と思わされたものです。つまりはCDプレイヤーを売る為にアナログ盤を滅ぼしてしまったのが日本のレコード会社の戦法で、日本人は「アナログ盤よりも音が良くて半永久的にノイズもなく聴ける」などと云う大嘘を信じてしまったのでした。
ビートルズのアルバムが1987年から1988年にかけて初CD化されて、1988年にはジョン・レノンのアルバムもCD化されました。そして、ジョンの生涯を描いたドキュメンタリー映画「IMAGINE」が制作されて、其のサントラ盤「IMAGINE」が、1988年10月10日にパーロフォンからリリースされました。アナログ盤は2枚組ですが、CDは目一杯入れて(73分46秒)1枚に収めています。内容は、1「REAL LOVE」(1979)、2「TWIST AND SHOUT」(1963)、3「HELP!」(1965)、4「IN MY LIFE」(1965)、5「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」(1967)、6「A DAY IN THE LIFE」(1967)、7「REVOLUTION」(1968)、8「THE BALLAD OF JOHN AND YOKO」(1969)、9「JULIA」(1968)、10「DON'T LET ME DOWN」(1969)、11「GIVE PEACE A CHANCE」(1969)、12「HOW?」(1971)、13「IMAGINE(Reheasal)」(1971)、14「GOD」(1970)、15「MOTHER(Live Version)」(1972)、16「STAND BY ME」(1975)、17「JEALOUS GUY」(1971)、18「WOMAN」(1980)、19「BEAUTIFUL BOY」(1980)、20「(JUST LIKE)STARTING OVER」(1980)、21「IMAGINE」(1971)の、全21曲入りです。ジョンの生涯を描いたドキュメンタリー映画なので、約半数の9曲がビートルズ時代の音源となっていて、サントラ盤ながらジョンのベスト盤の様な構成になっています。最初は、後にビートルズの楽曲として発表される「REAL LOVE」のデモ音源で、ビートルズ版とは違った構成で「ISOLATION」と酷似したメロディーも含み、此のサントラ盤の最大の目玉でした。
2曲目の「TWIST AND SHOUT」から10曲目の「DON'T LET ME DOWN」まではビートルズ時代の音源ですが、6曲目の「A DAY IN THE LIFE」はイントロに歓声のSEが入らずアコースティック・ギターから聴ける完全版の初リリースで、コレは1993年の「青盤」初CD化でも差し替えてありますが、此のサントラ盤が初出です。アナログ盤だと11曲目の「GIVE PEACE A CHANCE」までが1枚目で、つまりはビートルズ現役時代の音源で構成されています。12曲目の「HOW?」からがソロ時代で2枚目となっていて、1971年のアルバム「IMAGINE」から3曲、1980年の遺作となってしまったアルバム「DOUBLE FANTASY」から3曲と、些か選曲が甘めです。其の為に1970年のアルバム「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」からは「GOD」だけで、ソノ収録曲のライヴから「MOTHER」が、1975年のアルバム「ROCK'N'ROLL」から「STAND BY ME」1曲で、他の1972年のアルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」と1973年のアルバム「MIND GAMES」と1974年のアルバム「WALLS AND BRIDGES」からは1曲も選ばれていません。アルバム「DOUBLE FANTASY」からジョンの曲だけ3曲を抜き出した事に対しては、通して聴け!と云っていた評論家の方々はどう言い訳するんでしょうか。13曲目の「IMAGINE」のリハーサル音源は初出でしたが、僅か1分半足らずで「もっとあるだろう」と思ったら「THE LOST LENNON TAPES」の登場となるのです。映画には、サントラ盤には未収録の楽曲も多く含まれています。
ソレは、1960年代のビートルズ時代の音源から「SOME OTHER GUY」と「LOVE ME DO」と「FROM ME TO YOU」と「LUCY IN THE SKY WITH DIAMONDS」と「ALL YOU NEED IS LOVE」と「EVERYBODY HAD A HARD YEAR」と「I'VE GOT A FEELING」と「ACROSS THE UNIVERSE」と「COME TOGETHER」、1970年のアルバム「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」から「HOLD ON」、1971年のアルバム「IMAGINE」から「HOW DO YOU SLEEP?」と「OH YOKO!」、1975年のアルバム「ROCK'N'ROLL」から「BE-BOP-A-LULA」と「MEDLEY: RIP IT UP〜READY TEDDY」と云った曲で、やはりソロ時代はとっても選曲にズレが感じられます。映画の方は、個人的にはクライマックスだと思ったのは、アルバム「IMAGINE」をアスコットの邸宅でレコーディング中に、一寸イカレタビートルズファンの青年が邸宅に侵入したら、ジョンはガードマンに任せずに自分で対応しちゃって、キチンと話して青年を納得させてしまうのです。そして「腹減ってないか?」と訊いて、邸宅に青年を入れて、一緒に食事しちゃうんですよ。コレはヤラセではなくて、アルバム「IMAGINE」はレコーディングの様子などを全てフィルムに収めて後に映像作品としてリリースする為にカメラを回していたから偶然に撮れたもので、余りにも無防備にそんな事をやっているから殺されちゃったんだな、と思って、観ていて泣いてしまいました。サントラ盤ながら、全米31位、全英64位となっています。
(小島イコ)