1983年のアルバム「WINDOWS IN THE JUNGLE」で解散したエリック・スチュワートとグレアム・グールドマンの10ccですが、エリック・スチュワートは解散以前から参加していたポール・マッカートニーのレコーディングを継続していて、10cc解散後の1986年のポールのアルバム「PRESS TO PLAY」では、アナログ盤で全10曲中6曲、CDでは全13曲中8曲、シングルのカップリングにも1曲、後に再結成10ccでエリックが取り上げた2曲と、ポールとエリックは発表されただけでも11曲を共作しました。グレアム・グールドマンはアンドリュー・ゴールドとのユニット「WAX」として、1986年にはアルバム「MAGNETIC HEAVEN」をリリースしました。一方、1976年に10ccを脱退したケヴィン・ゴドレイとロル・クレームの「ゴドレイ&クレーム」は、実験的なアルバムをリリースする傍らで、ミュージック・ヴィデオの監督として有名になり、1985年のアルバム「HISTORY MIX VOLUME 1」では、オリジナル10ccやソレ以前の音源もサンプリングして、音楽でも映像でも活躍していました。4人がそれぞれの道をゆくカタチになった1987年8月に、ベスト盤「CHANGING FACES The Very Best of 10cc and Godley & Creme」がポリドールからリリースされたのです。ソレまで10ccのベスト盤は、1975年にUKレコード時代の楽曲をまとめた「100cc」と、1979年の「10cc'S GREATEST HITS 1972-1978」がありましたが、それらは「10cc」名義で発表された音源から選曲されていました。しかし、コノ「CHANGING FACES」は、初めて「オリジナル10cc」と「エリック&グレアムの10cc」と「ゴドレイ&クレーム」の楽曲から選曲されていて、コレ以後に何種類もリリースされる合同ベスト盤の基本形で先駆けとなったアルバムです。
内容は、1「DREADLOCK HOLIDAYS」(1978)、2「THE WALL STREET SHUFFLE」(1974)、3「UNDER YOUR THUMB」(1981)、4「LIFE IS A MINESTRONE」(1975)、5「AN ENGLISHMAN IN NEW YORK」(1979)、6「ART FOR ART'S SAKE」(1975)、7「DONNA」(1972)、8「SNACK ATTACK(Remix)」(1981,1987)、9「CRY」(1985)、10「THE THINGS WE DO FOR LOVE」(1976)、11「WEDDING BELLS」(1981)、12「I'M MANDY, FLY ME」(1976)、13「GOOD MORNING JUDGE」(1977)、14「RUBBER BULLETS」(1973)、15「SAVE A MOUNTAIN FOR ME」(1982)、16「I'M NOT IN LOVE」(1975)の、全16曲入りです。コノ内で、「DONNA」と「RUBBER BULLETS」と「THE WALL STREET SHUFFLE」と「I'M NOT IN LOVE」と「LIFE IS A MINESTRONE」と「ART FOR ART'S SAKE」と「I'M MANDY, FLY ME」の7曲が「オリジナル10cc」で、「THE THINGS WE DO FOR LOVE」と「GOOD MORNING JUDGE」と「DREADLOCK HOLIDAYS」の3曲が「エリック&グレアムの10cc」で、「AN ENGLISHMAN IN NEW YORK」と「UNDER YOUR THUMB」と「WEDDING BELLS」と「SNACK ATTACK」と「SAVE A MOUNTAIN FOR ME」と「CRY」の6曲が「ゴドレイ&クレーム」となっていて、年代も構成もぐちゃぐちゃに混ぜてしまっております。UKとマーキュリーとポリドールからのベスト盤で、当時はゴドレイ&クレームが所属していたポリドールからのリリースだからなのか、10cc名義の曲は1978年までで、1979年から1987年まではゴドレイ&クレームの楽曲しか選ばれていません。と申しますか、10cc名義の10曲は、全てがマーキュリーから1979年にリリースされた「10cc'S GREATEST HITS 1972-1978」と重複しているので、ソレの権利だけ買ったんじゃないでしょうか。
実際問題として、10cc名義としては、1978年の「DREADLOCK HOLIDAYS」を最後に大ヒット曲がなくて、逆にゴドレイ&クレームはソノ後に1981年の「UNDER YOUR THUMB」と「WEDDING BELLS」や1985年の「CRY」がヒットしていたわけですが、此のベスト盤でソノ事実があからさまにされてしまった感もありますし、コレでしか聴けないのは、ゴドレイ&クレームの「SNACK ATTACK」のリミックス音源だけです。10cc名義の楽曲は、前述の通り前のベスト盤「10cc'S GREATEST HITS 1972-1978」全12曲入りからの10曲で全曲がダブっています。売りとしては、初めて10ccとゴドレイ&クレームが1枚のアルバムに集められた事だけでした。が、しかし、コレが全英チャートで4位まで上がって、30万枚も売れる大ヒットとなってしまったのです。旧譜を集めて「SNACK ATTACK」の1曲だけちょろっとリミックスしただけのベスト盤が売れ捲ったのですから、コレをレコード会社が放っておくわけがなく、オリジナルの4人で10ccを再結成して新作アルバムをリリースする様に打診されるのです。ソレで1992年にエリック・スチュワートとグレアム・グールドマンによる再結成盤の「...MEANWHILE」となるわけで、ポリドールからのリリースであったのも此のベスト盤からの因果関係があったからで、ケヴィン・ゴドレイとロル・クレームもゲスト参加して、ケヴィンに至っては1曲でリード・ヴォーカルまで担当しているのも、実はレコード会社としては「オリジナル10ccの4人での再結成した新作アルバム」を望んでいたからだったのでした。おそらく此のベスト盤は「10cc結成15周年」での企画盤で、分裂した2組をごちゃ混ぜにした曲順とかいい加減なんですけれども、コレがないと後の10ccの再結成もなかったわけで、まあ、再結成後のアルバムは期待外れではあったものの、意味のある編集盤ではありました。
(小島イコ)