時代を1983年に逆戻りして、ポール・マッカートニーは、英国では1983年10月31日にMPL/パーロフォンから、米国では同年10月26日にMPL/コロムビアから、ソロとしては4作目でウイングスも含めれば12作目のアルバム「PIPES OF PEACE」をリリースしました。前作アルバム「TUG OF WAR」ではスティーヴィー・ワンダーとの共演曲「EBONY AND IVORY」が大きな話題となりましたが、今作では当時アルバム「THRILLER」がモンスター・セールスを続けていたマイケル・ジャクソンと共演した「SAY SAY SAY」が大ヒットしました。ポールはマイケルの「THRILLER」に収録されて先行シングルにもなった「THE GIRL IS MINE」でも共演していましたが、レコーディングはこちらに収録されている「SAY SAY SAY」と「THE MAN」の方が先で、ソノ返礼として「THE GIRL IS MINE」に参加したものの、アルバム「THRILLER」が先にリリースされたのです。こちらのアルバム「PIPES OF PEACE」は、そんな事情からも分かる様に、前作「TUG OF WAR」でのセッションと、ソノ後に今作用にレコーディングした楽曲から構成されているので、レコーディング期間としては1980年11月から1983年7月までの2年半もの長期に渡る事となりました。そもそもポールはアルバム「TUG OF WAR」を2枚組でリリースしようと考えていたわけで、実現していれば「SAY SAY SAY」と「THE MAN」は勿論、「SO BAD」なども2枚組に収録されていたのでしょう。しかしながら、此のアルバムは前作同様にサー・ジョージ・マーティンがプロデュースして、ジェフ・エメリックがエンジニアなのですが、今一つアルバムとしての評判は芳しくない出来栄えで、シングル「SAY SAY SAY」は全米首位、全英2位、シングル「PIPES OF PEACE」は全英首位と売れたものの、アルバムは全英4位、全米15位と、特に米国では不振に終わりました。
長期に渡ったレコーディング・メンバーは豪華で、ポール・マッカートニー(リード・ヴォーカル、バッキング・ヴォーカル、ベース、アコースティック・ギター、エレクトリック・ギター、アコースティック・ピアノ、エレクトリック・ピアノ、キーボード、シンセサイザー、ボコーダー 、ドラムス 、パーカッション、サトウキビ)、リンダ・マッカートニー(バッキング・ヴォーカル、キーボード)、エリック・スチュワート(エレクトリック・ギター、バッキング・ヴォーカル)、マイケル・ジャクソン(ヴォーカル&バッキング・ヴォーカル)、デニー・レイン(アコースティック・ギター、エレクトリック・ギター)、リンゴ・スター(ドラムス)、スタンリー・クラーク(ベース)、スティーヴ・ガッド(ドラムス)、デイヴ・マタックス(ドラムス)、エイドリアン・ブレット(パンパイプ)、ジェームス・キッペン(タブラ)、ペスタロッチ・チルドレン・コア(コーラス)、ジョージ・マーティン(サトウキビ、バイシクル・ホイール、ピアノ)と云った面々です。ポールやマーティンが担当した「サトウキビ」とか「バイシクル・ホイール」などは、パーカッションの様にサトウキビを折った音や車輪を打った音を使っています。内容は、A面が、1「PIPES OF PEACE」、2「SAY SAY SAY」、3「THE OTHER ME(もう一人の僕)」、4「KEEP UNDER COVER」、5「SO BAD」で、B面が、1「THE MAN」、2「SWEETEST LITTLE SHOW」、3「AVERAGE PERSON」、4「HEY HEY」、5「TUG OF PEACE」、6「THROUGH OUR LOVE(ただ愛に生きて)」の、全11曲入りです。コノ内「SAY SAY SAY」と「THE MAN」はポールとマイケル・ジャクソンの共作で、「HEY HEY」がポールとスタンリー・クラークの共作で、他はポールが書いた楽曲です。前述の通り前作アルバム「TUG OF WAR」のレコーディングと、ソノ後に今作の為に追加されたレコーディングが混じっています。
アルバム「TUG OF WAR」のレコーディング曲は、「SAY SAY SAY」と「KEEP UNDER COVER」と「SO BAD」と「THE MAN」と「SWEETEST LITTLE SHOW」と「AVERAGE PERSON」と「HEY HEY」の7曲で、今作への追加レコーディング曲は「PIPES OF PEACE」と「THE OTHER ME」と「TUG OF PEACE」と「THROUGH OUR LOVE」の4曲です。つまりは、3分の2位は前作用にレコーディングされていた楽曲で構成されているわけで、正に「姉妹盤」とも云えるのですが、ソレだけに前作と比較されて、評価が低い可哀想なアルバムです。英国ではシングルが首位になったタイトル曲の「PIPES OF PEACE」や、ソノB面で米国や日本ではA面になった「SO BAD」が良いし、個人的には「SO BAD」が此のアルバムでは最も好きです。ポール&リンダ・マッカートニーにリンゴ・スターとエリック・スチュワートがバンドとして出演しているMVも、シンプルですが大好きです。次に好きなのが「THE OTHER ME」で、コレはポールが全ての楽器も歌も担当しているアルバム「McCARTNEY」や「McCARTNEY U」や「McCARTNEY V」と同じ路線で、ド派手な「SAY SAY SAY」の次に入っているので損をしていますが、佳曲です。と申しますか、個人的には「SAY SAY SAY」と「THE MAN」の2曲が浮き過ぎていて、正直に云えば「要らない」と思います。両A面シングルにでもして頂いて、アルバムには収録しない方が良かったとさえ思います。そして、些かぬるいB面も、無理にスタンリー・クラークとのセッションである「HEY HEY」を入れたり、お得意の合わせ技でコケている「TUG OF PEACE」とか、これまたお得意の甘過ぎるバラード「THROUGH OUR LOVE」とか、ジャケットが見開きで開いて見ないとポールの手しか見えないデザインとか、悪い時のポール・マッカートニーが連発されているのも、ポールのファンにとっては「憎めない」アルバムです。
(小島イコ)