1983年9月に、エリック・スチュワートとグレアム・グールドマンの10ccは、10cc名義では9作目のスタジオ・アルバム「WINDOWS IN THE JUNGLE(都市探検)」をマーキュリーからリリースしました。内容は、A面が、1「24 HOURS」、2「FEEL THE LOVE・OOMACHASAOOMA(君に夢中)」、3「YES I AM!」、4「AMERICANA PANORAMA」で、B面が、1「CITY LIGHTS」、2「FOOD FOR THOUGHT」、3「WORKING GIRLS」、4「TAXI!TAXI!」の、全8曲入りです。レコーディング・メンバーは、エリック・スチュワート(リード・ヴォーカル、キーボード、リード・ギター、パーカッション)、グレアム・グールドマン(ヴォーカル、アコースティック・ギター、リズム・ギター、ベース、パーカッション)で、サポートとして、リック・フェン(ヴォーカル、リード・ギター、アコースティック・ギター)、ヴィク・エマースン(キーボード)、スチュアート・トッシュ(ヴォーカル、パーカッション、マリンバ、ドラムス)、更に、マイク・ティモニー(キーボード)、スティーヴ・ガッド(ドラムス、パーカッション)、サイモン・フィリップス(ドラムス)、メル・コリンズ(サックス)が参加しています。プロデュースはエリック・スチュワートとグレアム・グールドマンで、エリックはエンジニアも担当していて、楽曲は全て「スチュワート=グールドマン」作です。ジャケットはアナログ盤では窓の部分がくり抜かれていて、中の絵柄を変えられる仕様でした。特にドラムスに凄腕のスティーヴ・ガッドやサイモン・フィリップスを起用しているので、タイトなリズムが印象的です。
SEから始まる1曲目の「24 HOURS」は8分を超える楽曲で、最後の8曲目「TAXI!TAXI!」も7分半以上もある長尺な曲ですが、「24 HOURS」で印象的なリフが「TAXI!TAXI!」でも再登場していて、最後は最初と同じSEで終わっています。他にも3曲目「YES I AM!」のアウトロのメロディーがそのまんま次の「AMERICANA PANORAMA」のイントロになっていたりして、所謂ひとつの「トータル・アルバム」としての完成度は高いアルバムです。シングル・カットされた「24 HOURS」(全英70位)は半分位のシングル・エディットで、「FEEL THE LOVE」(全英87位)も5分を3分台に縮めてあり、「FOOD FOR THOUGHT」と3曲がありますが、いずれも余りヒットせず、アルバムも全英では70位と「10cc史上最低」の成績でしたが、何故かオランダではアルバムが7位まで上がり、シングル「FEEL THE LOVE」も7位まで上がっています。全体的には完全にAOR路線で、組曲風の長尺な「24 HOURS」や「TAXI!TAXI!」も、かつての「オリジナル10cc」時代のキレがなくて、ただ長いだけと云った印象です。シングル・カットされた「FEEL THE LOVE」や「FOOD FOR THOUGHT」、更にはB面のアタマに持ってきた「CITY LIGHTS」や「WORKING GIRLS」などはキャッチーですが、やはり「10cc」としては「捻り」がなくて物足りない楽曲です。
しかしながら、此のアルバムでは、ほとんどの楽曲でリード・ヴォーカルをエリック・スチュワートが担当していて、オリジナル10ccで4人で分け合っていたり、其の後にはグレアム・グールドマンと半分ずつに担当していたのに、ここに来て「10ccの声はエリック・スチュワートである」と宣言したかの様な見事な歌いっぷりです。でも、時すでに遅しで、此のアルバムと続けて行った全英ツアーもコケた為に、遂に10ccは解散してしまったのです。そう考えると、シングル・カットされた「FEEL THE LOVE」のミュージック・ヴィデオを「ゴドレイ&クレーム」に監督を任せたのも、何やら「最後だから」と云った意味合いがあったのでは、と邪推してしまいます。と申しますか、此のアルバムで最も話題になったのが「FEEL THE LOVE」のMVの監督がゴドレイ&クレームだと云う事だったのですから、10ccとしての役目は終わったのでしょう。解散後の二人は、グレアム・グールドマンはアンドリュー・ゴールドとのユニットである「World In Action」から「Common Knowledge」ときて「WAX」を結成して、エリック・スチュワートは10cc在籍中からポール・マッカートニーのレコーディングに参加して、1980年代のポールを大いにサポートしました。アルバム「WINDOWS IN THE JUNGLE」はCD化されて、「24 HOURS」と「FEEL THE LOVE」と「FOOD FOR THOUGHT」のラジオ・エディットと、「DREADLOCK HOLIDAY」と「I'M NOT IN LOVE」の1982年のライヴ音源と、シングルB面の「SHE GIVES ME PAIN」と「THE SECRET LIFE OF HENRY」の7曲がボーナス・トラックとして収録されています。
(小島イコ)