1983年4月5日に、ゴドレイ&クレームは5作目のアルバム「BIRDS OF PREY」をポリドールからリリースしました。前作「ISMISM」では「SNACK ATTACK」や「THE PARTY」と云った長尺な曲で大胆にラップを取り入れて、シングル・カットした「UNDER YOUR THUMB」(全英3位)、「WEDDING BELLS」(全英7位)と、大ヒット曲も生まれたのですが、ソコは捻くれたゴドレイ&クレームなので、次作となったアルバム「BIRDS OF PREY」では、また違った路線となっております。内容は、A面が、1「MY BODY THE CAR」、2「WORM AND THE RATTLESNAKE」、3「CATS EYES」、4「SAMSON」、5「SAVE A MOUNTAIN FOR ME」で、B面が、1「MADAME GUILLOTINE」、2「WOODWORK」、3「TWISTED NERVE」、4「OUT IN THE COLD」の、全9曲入りです。プロデュースはゴドレイ&クレームで、楽曲も全てゴドレイ&クレーム作で、歌と演奏も「SAVE A MOUNTAIN FOR ME」にサックスでガイ・パーカーが参加している以外は全てゴドレイ&クレームによるものです。ジャケットも洒落ていますが、先行シングル「SAVE A MOUNTAIN FOR ME」がレコード会社に気に入られて、ソノ路線で作ったとの事で、そもそも米国ではリリースされていなくて、ゴドレイ&クレームの本意ではなかったともされるアルバムです。
まずは、1曲目の「MY BODY THE CAR」ですが、ゴドレイ&クレームの二人が声だけのアカペラのドゥーワップ・スタイルで歌っています。日本ではアカペラと云うとタツローを連想するでしょうが、ゴドレイ&クレームにかかると些か趣きは異なっていて、何とも云えない奇妙な楽曲となっています。スタイルとしては、1985年に奇才・トッド・ラングレンが発表したアルバム「A CAPPELLA」に近い感覚で、全ての楽器による音も「人間の声のみで表現した」と云ったらよろしいのでしょうか。コノ曲で幕を開けるので、アルバム全体も「肉声」が前に出た印象を受けます。2曲目の「WORM AND THE RATTLESNAKE」はアフリカン・ビートに乗せたダンス・ナンバーですが、演奏よりもケヴィン・ゴドレイのリード・ヴォーカルやロル・クレームのコーラスやヴォイス・パーカッションが前に出る様にオケを加工しています。3曲目の「CATS EYES」はオリジナル10cc時代を彷彿させる楽曲で、コレはシングル・カットすればヒットしたんじゃないでしょうか。4曲目の「SAMSON」も10ccっぽい曲で、第2弾シングルとなっていますがヒットはしていません。5曲目の美しい「SAVE A MOUNTAIN FOR ME」は第1弾シングルでヒットはしていませんが、ベスト盤には必ず収録されている名曲です。
6曲目の「MADAME GUILLOTINE」は些か悪趣味な曲ですが、そうした面もゴドレイ&クレームは10cc時代から兼ね備えていました。7曲目の「WOODWORK」は軽快で、8曲目のうねる「TWISTED NERVE」から、9曲目のYMOみたいな「OUT IN THE COLD」で幕を閉じますが、全体的にはゴドレイ&クレームのヴォーカルがかなり前に出ていて、実験作でもあった前作アルバム「ISMISM」よりもずっとポップです。しかしながらチャートインせずに、1983年ともなると「ゴドレイ&クレーム」と云えば「ミュージック・ヴィデオの監督」としての方が有名になっておりました。超有名な、ハービー・ハンコックの「ROCKIT」や、ポリスの「EVERY BREATH YOU TAKE」などを監督していますが、特筆すべきなのは「10cc」の「FEEL THE LOVE」も手掛けている事でしょう。云わば「オリジナル10ccの4人が再集結した」わけで、大いに話題となりました。CD化された時には、ボーナス・トラックとしてシングル「SAVE A MOUNTAIN FOR ME」のB面「WELCOME TO BREAKFAST TELEVISION」、「SAMSON」のダンス・ミックスとプロモ・シングル・エディット、シングル「GOLDEN BOY」の2ヴァージョンの5曲が加わっています。箱の「BODY OF WORK 1978-1988」では収録時間の関係で最後の「OUT IN THE COLD」がアルバム「HISTORY MIX PART 1」のアタマに飛ばされて収録されているので、バラ売りでも持っていたいアルバムです。
(小島イコ)