1982年4月26日にリリースされたポール・マッカートニーの渾身の傑作アルバム「TUG OF WAR」は、1984年にはCD化されていて、今に比べれば音圧も低すぎて、レコード会社が勝手に出したものでした。1993年8月9日には「ザ・ポール・マッカートニー・コレクション」の一環としてポールの意思でリリースされましたが、いずれもボーナス・トラックは収録されていません。そして、2015年10月2日に「アーカイヴ・コレクション」としてアルバム「TUG OF WAR」と次作アルバム「PIPES OF PEACE」がMPLから同時発売されました。「デラックス・エディション」(日本では「スーパー・デラックス・エディション」で、「スペシャル・エディション」を「デラックス・エディション」としている)のCD1とCD3が「スペシャル・エディション」と同内容で、CD1はアルバム「TUG OF WAR」全12曲の2015年リミックス盤となっていて、CD2が全12曲のオリジナル・ミックスです。つまり、2015年以降は「2015年リミックス」が基本形とされる事になったのです。オリジナル・アナログ・ミックスに近づけた「2015年リミックス」は、何となく聴いていると「オリジナル・ミックス」との違いはほとんど分かりませんが、敢えて「リミックス」して、そちらをメインにしたのには、ポールなりの意図があるのでしょう。他の「アーカイヴ・コレクション」と同じで、本編は1枚のアルバムとして独立させていて、ボーナス・オーディオは別にしてあるわけですが、前述の通りアルバム「TUG OF WAR」は単体でもボーナス・トラックを収録した事はなく、ポールが内容に自信を持っている事が伺えます。そして、ボーナス・オーディオはCD3(スペシャル・エディションではCD2)にまとめられています。
ボーナスの内容は、1「STOP, YOU DON'T KNOW WHERE SHE COME FROM」、2「WANDERLUST」、3「BALLROOM DANCING」、4「TAKE IT AWAY」、5「THE POUND IS SINKING」、6「SOMETHING THAT DIDN'T HAPPEN」、7「EVONY AND IVORY」、8「DRESS ME UP AS A ROBBER」、9「EBONY AND IVORY(Solo Version)」、10「RAINCLOUDS」、11「I'LL GIVE YOU A RING」の、全11曲入りです。1曲目の「STOP, YOU DON'T KNOW WHERE SHE COME FROM」から8曲目の「DRESS ME UP AS A ROBBER」までの8曲は、1980年8月にレコーディングしたデモ音源です。ポールとデニー・レインによる多重録音なのでしょうけれど、どの楽曲も曲としては出来上がっていて、コレを聴かされたサー・ジョージ・マーティンは「ポールのソロにしたい」と考えたのでしょう。アルバム「TUG OF WAR」は、レコーディングを開始してからリリースされるまで1年半以上もじっくりと作られているのですが、ソコはポールですから、楽曲は湯水の如く出来ていた事が分かりますし、「STOP, YOU DON'T KNOW WHERE SHE COME FROM」と「SOMETHING THAT DIDN'T HAPPEN」の2曲はコノ時まで未発表曲だったのです。9曲目の「EBONY AND IVORY(Solo Version)」は、シングル「EBONY AND IVORY」の12インチに収録されていたヴァージョンで、演奏はポールとスティーヴィー・ワンダーによるシングル及びアルバムと同じですが、ポールが一人で歌っています。10曲目の「RAINCLOUDS」は、シングル「EBONY AND IVORY」のB面曲で、11曲目の「I'LL GIVE YOU A RING」は、シングル「TAKE IT AWAY」のB面曲です。3曲共アルバム未収録で、全て初CD化でした。
「デラックス・エディション」にはDVDも付いていて、「TUG OF WAR」のPV完全版2種と、「TUG OF WAR」と「EBONY AND IVORY」のMVと、ドキュメンタリー映像が収録されています。さて、ブートレグ音源ですが、アルバム「TUG OF WAR」のデモ音源は古くから流出していて、「RUDE STUDIO DEMO 1980」や「TUG OF WAR DEMO TRACKS」と云ったタイトルで高音質で出ているのですが、ほとんど全てのデモ音源がアルバム「TUG OF WAR」とアルバム「PIPES OF PEACE」のそれぞれのボーナス・オーディオに収録されてしまったので、それらの「スペシャル・エディション」を購入すれば要らなくなります。しかしながら、2CDの「スペシャル・エディション」なら良いけれど矢鱈と大仰な本が2冊とDVDが付いた箱入りの「デラックス・エディション」を買わないとアルバム「TUG OF WAR」の「オリジナル・ミックス」が聴けないと云うのは、些か困った事にもなりました。ソコで登場するのが毎度お馴染みの「MOONCHILD RECORDS」からの2枚組で千円ブートレグ「TUG OF WAR &MORE」です。CD1はアルバム「TUG OF WAR」の「オリジナル・ミックス」全12曲にシングルB面曲やデモ音源も加えた全26曲入りで、CD2はアルバム「TUG OF WAR」の「2015年リミックス」全12曲に「TUG OF WAR」と「TAKE IT AWAY」のシングル・ミックスも押さえて、ソノ後に「NO VALUES」と「BALLROOM DANCING」と「RAINCLOUDS」と「I'M GONNA LOVE TO YOU」と「AVERAGE PERSON」と「FABULOUS,TEDDY BEAR」と「LEND ME YOUR COMB」と「KEEP UNDER COVER」と「EBONY AND IVORY」の9曲のウイングスによるリハーサル音源が収録されていて、未発表曲「JUGGER」の全24曲で、計50曲入りです。此のリハーサル音源を聴くと、サー・ジョージ・マーティンが「ウイングスは、ダメだ、こりゃ」と思ったのも当然ですなあ。
(小島イコ)