エリック・スチュワートとグレアム・グールドマンを中心とした「10cc」は、1981年にダンカン・マッケイが脱退したので、6人組からエリックとグレアムによるデュオ形態に戻りました。レコーディングにはポール・バージェス(ドラムス)とリック・フェン(ギター)も参加していたものの、彼らは「サポート・メンバー」に格下げとなりました。他にも、サッド・カフェのヴィク・エマースン(シンセサイザー、ピアノ)、レニー・クルックス(サックス)、マーク・ジョーダン(オルガン、ピアノ)、サイモン・フィリップス(ドラムス)などをゲストに迎えておりますが、基本的にはエリックとグレアムの二人による演奏で、1981年11月27日に英国でワーナー/マーキュリーからリリースしたのが、「10cc」名義では8作目のスタジオ・アルバム「TEN OUT OF 10(ミステリー・ホテル)」です。内容は、A面が、1「DON'T ASK」、2「OVERDRAFT IN OVERDRIVE」、3「DON'T TURN ME AWAY(恋のまわり道)」、4「MEMORIES(サマー・メモリーズ)」、5「NOTELL HOTEL(ミステリー・ホテル)」で、B面が、1「LES NOUVEAUX RICHES(トロピカル・ホリデイ)」、2「ACTION MAN IN MOTOWN SUIT(アクション・マン)」、3「LISTEN WITH YOUR EYES」、4「LYING HERE WITH YOU(君は目を閉じて…)」、5「SURVIVOR」の、全10曲入りです。何やらカタカナでも原題とは大きく異なる邦題が付いている事からお分かりの通り、日本盤も同内容でリリースされています。楽曲は「DON'T ASK」と「LYING HERE WITH YOU」がグレアム・グールドマンの単独作で、「DON'T TURN ME AWAY」と「LES NOUVEAUX RICHES」がエリック・スチュワートの単独作で、他の6曲は「スチュワート=グールドマン」作です。ところが、此の「10点満点」と名付けられた英国盤は、英国では低迷してチャートインせず、米国ではリリースされなかったのです。
米国では、翌1982年6月にようやくリリースされたのですが、内容は、A面が、1「DON'T ASK」、2「THE POWER OF LOVE」、3「LES NOUVEAUX RICHES」、4「MEMORIES(U.S. MIX)」、5「WE’VE HEARD IT ALL BEFORE」で、B面が、1「DON'T TURN ME AWAY」、2「NOTELL HOTEL」、3「OVERDRAFT IN OVERDRIVE」、4「TOMORROW’S WORLD TODAY」、5「RUN AWAY」の、全10曲入りで、4曲を差し替えて、曲順も全く別にされています。まるでジョージ・ハリスンのアルバム「SOMEWHERE IN ENGLAND」みたいな事になったのですが、差し替えられた4曲の内「TOMORROW'S WORLD TODAY」はグレアムの単独作で、他の3曲「THE POWER OF LOVE」と「WE’VE HEARD IT ALL BEFORE」と「RUN AWAY」は「スチュワート=グールドマン=ゴールド」作で、後にグレアムと「WAX」などを結成するアンドリュー・ゴールドが曲作りに関わっていて、歌や演奏にも参加しています。此のアルバムの頃には、エリック・スチュワートはポール・マッカートニーのレコーディングに参加し始めていたし、グレアムもアンドリュー・ゴールドとの新たな方向性を模索し始めていたのでしょうけれど、全米チャートでは209位と大爆死しました。今聴くとAOR路線で悪くないのですけれど、何せ「10cc」を名乗っているわけで、大衆は「10cc」にはこう云う曲もアルバムも求めていなかったのです。だからこそ「10cc」らしい「ゴドレイ&クレーム」が、同時期にヒットしたとも思えます。CDでは、英国盤全10曲に続いて、米国盤で差し替えられた「THE POWER OF LOVE」と「MEMORIES(U.S. MIX)」と「WE’VE HEARD IT ALL BEFORE」と「TOMORROW’S WORLD TODAY」と「RUN AWAY」の5曲に、「LES NOUVEAUX RICHES」のシングル・ミックスと、シングル「THE POWER OF LOVE」のB面のみだったエリック・スチュワート作の「YOU’RE COMING HOME AGAIN」の、7曲ものボーナス・トラックを加えた全17曲入りの完全盤がリリースされていますが、既に廃盤の様です。
(小島イコ)