1976年10月に10ccを脱退したケヴィン・ゴドレイとロル・クレームは、脱退理由としていた「ギズモトロン(通称・ギズモ)」の開発とアルバム制作を実行しました。ケヴィンとロルが10ccを脱退したのは、勿論、ギズモの為でもあったものの、10ccに残留したエリック・スチュワートとグレアム・グールドマンの二人とは音楽性が違ってしまった事が最大の原因です。ケヴィンとロルはギズモを使った楽曲を制作してはいましたが、10ccとしてライヴはエリックとグレアムに任せて、ケヴィンとロルはスタジオ・ワークに専念すると云った折衷案もあったらしいのですが、エリックとグレアムが書いた「PEOPLE IN LOVE」に激怒したケヴィンがロルを連れて脱退したと云うのが本当の理由の様です。そもそも10ccは1974年にリリースした2作目のアルバム「SHEET MUSIC」からギズモを使用していて、シングルのB面には「GISMO MY WAY」と云う4人で合作した曲までありましたので、何を今更「ギズモの為に脱退」だったわけです。そして、10ccに残ったエリックとグレアムは、サポート・ドラマーだったポール・バージェスに打楽器を担当させた以外は全て二人で曲を書いて演奏したアルバム「DECEPTIVE BENDS(愛ゆえに)」を1977年に、10cc名義での5作目としてマーキュリーからリリースして、大ヒットさせました。エリックは鼻高々に「僕たちは“5cc”ではない、二人になっても“10cc”だと証明したアルバムだ」と云っておりますが、聴いているこちらとしては、勿論素晴らしいポップなアルバムだとは思ったものの「5cc」だったのです。何かが違う、と思わされた原因は、同年にリリースされたフィル・マンゼネラのアルバム「LISTEN NOW」を聴いて解決しました。其のアルバムにはロル・クレームとケヴィン・ゴドレイがコーラスで参加しているのですが、コーラスだけで紛れもなく「10cc」していたのです。
其れゆえに、ロルとケヴィンがアルバム「CONSEQUENCES(ギズモ・ファンタジア)」をロル・クレーム&ケヴィン・ゴドレイ名義で、1977年にマーキュリーからリリースした時の期待度は、高まっておりました。ソレも、アナログ3枚組の大作なんですから、もうね、期待度マックスだったわけですよ。ところが、実際に聴いての印象は「何じゃこりゃ」でした。内容は、A面が、1「SEASCAPE(海景画)」、2「WIND(風)」、3「FIREWORKS(花火)」、4「STAMPEDE(暴走)」、5「BURIAL SCENE(葬礼)」で、B面が、1「SLEEPING EARTH」、2「HONOLULU LULU」、3「THE FLOOD(洪水)」で、C面が、1「FIVE O'CLOCK IN THE MORNING」、2「PETER COOK DIALOG 1」、3「WHEN THINGS GO WRONG(うまくいかない時)」、4「PETER COOK DIALOG 2」、5「LOST WEEKEND」で、D面が、1「PETER COOK DIALOG 3」、2「ROSIE(いとしのロージー)」、3「PETER COOK DIALOG 4」、4「OFFICE CHASE」、5「PETER COOK DIALOG 5」、6「COOL, COOL, COOL」、7「PETER COOK DIALOG 6」で、E面が、1「COOL, COOL, COOL(RIPRISE)」、2「PETER COOK DIALOG 7」、3「SAILOR」、4「PETER COOK DIALOG 8」、5「MOBILIZATION」、6「PETER COOK DIALOG 9」、7「PLEASE, PLEASE, PLEASE」、8「PETER COOK DIALOG 10」で、E面が、1「BLINT'S TUNE(MOVEMENTS 1-17)」の、全29トラック入りなのですが、曲と呼べるのは19曲で、他は俳優のピーター・クックが書いて一人で4役を務めた寸劇で、女性役はジュディ・ハックステーブルが演じています。内容は離婚調停中の夫婦と弁護士の会話で、音楽の方は世界中でハリケーンが起きて地球滅亡の危機になるものの、音楽のチカラで救われると云う、何とも壮大なテーマが繰り広げられています。楽曲は、全てクレーム=ゴドレイ作です。
そもそも「ギズモ」と云うのは、ギターに取り付けてオーケストラなどの様々な音を出す装置で、レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジがギターを弓で弾いているのを観て思い付いたと云われていて、ロル・クレームとケヴィン・ゴドレイが1971年には発想して、10cc時代にマンチェスター工科大学の協力で開発したのです。前述の通り、既に10cc時代には実際に楽曲に使用していました。ソレで、ロルとケヴィンは全てをギズモで演奏したシングルをリリースしようと考えたのですが、ドンドンと構想が広がって、16か月も掛けてアルバム3枚組の「CONSEQUENCES(ギズモ・ファンタジア)」となったのです。楽曲は、ドラムとピアノとヴォーカル以外は全てギズモによって作られていて、サラ・ヴォーンが「LOST WEEKEND」でケヴィンとデュエットしていて、メル・コリンズが「WHEN THINGS GO WRONG」でサックスで参加している以外は、全てロルとケヴィンによる演奏です。3枚組で寸劇入りと云う事で不評で、全英で52位と惨敗してしまい、後に音楽だけを1枚にした「MUSIC FROM CONSEQUENCE」をリリースしています。全部聴くと2時間も掛かるのですが、楽曲では、声が風になっている「WIND」や、音が燃えてしまう「FIREWORKS」や、水の滴りがドンドンと大きくなってハード・ロックのライヴになる「THE FLOOD」などは、今聴いても面白いし、「FIVE O'CLOCK IN THE MORNING」や「LOST WEEKEND」は美しいですし、やはり「10ccの肝」はゴドレイ&クレームだったと思わされる出来栄えです。ブックレットのコラージュを、2019年にケミカル・ブラザーズがそのまんまアルバム・カヴァーに転用していたりもします。現在のCDでは5枚組で、オリジナルの3枚に加えて「MUSIC FROM CONSEQUENCES」と、3枚のダイジェスト盤の5枚組となっています。
さて、前回に「10ccはベスト盤が多い」と書きましたが、気が早いのですが、来年(2024年)1月26日に「20 Years: 1972 -1992」と云う箱が発売される模様です。CD14枚組で、10cc名義の、1973年のアルバム「10cc」と、1974年のアルバム「SHEET MUSIC」と、1975年のアルバム「THE ORIGINAL SOUNDTRACK」と、1976年のアルバム「HOW DARE YOU!」と、1977年のアルバム「DECEPTIVE BENDS」と、1977年の2枚組ライヴ・アルバム「LIVE AND LET LIVE」と、1978年のアルバム「BLOODY TOURISTS」と、1980年のアルバム「LOOK HEAR?」と、1981年のアルバム「TEN OUT OF 10」と、1983年のアルバム「WINDOWS IN THE JUNGLE」と、1992年のアルバム「...MEANWHILE」の11作12枚に、シングル・ヴァージョンやシングルB面曲を収めた2枚を加えた145曲入りとの事ですが、ボーナス・トラック入りアルバムをバラで全て持っている方々には余り魅力はない箱になりそうです。ゴドレイ&クレームの作品に関しては、既に今回紹介した「CONSEQUENCES」CD5枚組の箱と、其の後の「L」から「GOODBYE BLUE SKY」にボーナス・トラック入りのCD5枚組の箱「BODY OF WORKS 1978-1988」があれば揃うし、昨年(2022年)には10cc以前の「FRABJOUS DAYS THE SECRET WORLD OF GODLEY AND CREME 1967-1969」まで出ているので、10ccに関しては以前に出ていた「STRAWBERRY BUBBLEGUM」の様な編集盤の方が嬉しいんですけれどね。ところで箱には1995年のアルバム「MIRROR MIRROR」がハブにされている様ですが、やっぱりアレは「10cc」じゃないって事なんでしょうか。
(小島イコ)