ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンは、1966年10月10日にシングル「GOOD VIBRATIONS」を米国キャピトルからリリースして、見事に全米全英首位となりました。そして、現在では「世紀の名盤」とされる「PET SOUNDS」の次のアルバムをレコーディングしていました。ビートルズも「PET SOUNDS」に大いに影響されて、アルバム「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」を完成させ1967年6月1日にリリースしました。しかしながら、キャピトルによって勝手に1967年1月にリリースすると告知されて、ジャケットまで印刷されて、裏ジャケットには収録曲まで掲載された「SMiLE」は、いつまで経ってもリリースされず、結局は未発表となってしまいます。其のセッションでレコーディングされた楽曲は、其の後に1967年の「SMILEY SMILE」と「WILD HONEY」や、1969年の「20/20」や、1970年の「SUNFLOWER」や、1971年の「SURF'S UP」などで小出しにされましたが、何と云っても1993年に結成30周年記念盤としてリリースされた箱「GOOD VIBRATIONS」に11曲に渡って「SMiLE」音源が収録されて「やはり、幻のアルバムは、只事ではなかった」と知らしめました。そして、2004年となって、37年の時を経て、遂にブライアン・ウィルソンがソロ名義で「SMiLE」を完成させるのでした。ところが、お話はソレで完結したのではなかったのです。あたくしも「SMiLE」関連曲は公式盤もブートレグも多数聴いてきたので、ブライアンがソロで完成させた事には感動したものの、やはり「違う」と思ってしまいました。そして、2011年11月1日に、44年もの時を越えて、遂に、ビーチ・ボーイズ名義の「SMiLE」がリリースされたのです。なのですが、タイトルが「THE SMiLE SESSIONS」となっている様に、コレは完成形ではありません。
1967年にリリースを予定していた「SMiLE」は、当時のブライアンの状況を考えると、2004年や2011年では、もはやどんな構成にする予定だったのか記憶にないでしょう。「THE SMiLE SESSIONS」は1CD、2CD、5CD+2LPでリリースされていますが、スタンダード盤である1CDは、基本的に2004年のブライアン版「SMiLE」を元にした構成で、ソレを1966年から1967年にかけてビーチ・ボーイズとしてレコーディングした音源で並べていて、欠落している部分は其の侭になっていたりします。CD1の後半からCD5までは、正にセッションの模様が収録されていて、CD5なんか全24曲が全て「GOOD VIBRATIONS」1曲のみのセッション音源が収録されています。結果的には未完成であるビーチ・ボーイズの「SMiLE」は、それでもやはり凄まじい内容ではあります。但し、1967年に発表出来ていたと仮定して、どうだったのかは分かりません。前作である「PET SOUNDS」以上に難解な「SMiLE」が、果たしてビーチ・ボーイズの新作として、特に米国では受け入れられたのでしょうか。ビートルズのアルバム「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」のレコーディングが残り僅かとなった1967年4月3日に、ポール・マッカートニーは当時の婚約者ジェーン・アッシャーに逢う為に渡米して、ついでに4月10日にはブライアン・ウィルソンにも逢いに行ったら、緊張したブライアンは納屋に隠れてなかなか出て来なかったそうです。出て来たブライアンにポールは「新曲だ」とピアノで「SHE'S LEAVING HOME」を弾き語りして、ブライアンに「SMiLE」を完成させる様に励まして、一説には「VEGA-TABLES」のセッションに参加したらしいのですが、天然バカボン丸出しのKYぶり満開のポールの行動は、ブライアンにとってプレッシャーでしかなかったでしょう。そして「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」を聴いたブライアンは、「SMiLE」を放棄してしまったのでした。
(小島イコ)