1965年7月29日に英国で公開されたビートルズの2作目の主演映画「HELP !」は、日本では「ヘルプ!4人はアイドル」と云う邦題が付けられている様に、完全なるアイドル映画でした。監督は前作「A HARD DAY'S NIGHT」と同じリチャード・レスターですが、前作がモノクロだったのに対して、今作は初めから大ヒットする事を見込んでフルカラー撮影だし、内容も荒唐無稽なドタバタ劇となっています。前作でもフィーチャーされて其の演技が好評だったリンゴが今作でも主役扱いで、怪しげな教団が生贄に付けるはずの指輪を、何故か世界的に有名なビートルズのドラマーであるリンゴが指にはめていると突き止めて、リンゴから指輪を取り戻そうと世界中で追っかけまわすと云う、バカバカしいにも程があるストーリー展開です。しかしながら、此の映画は日本での後のGS映画などに多大な影響を与えてはいます。ストーリー展開は下らないものですが、ソコは天下無敵のビートルズですから、演奏シーンやイメージ映像での映画用の新曲7曲が流れる場面は、後のMTVに大きな影響を与えると云いますか、つまりは「元祖・MTV」とも云える秀逸な映像となっていて、其の場面だけを切り離して観てみると、実に優秀な音楽と映像の融合作品となっているのでした。映画のタイトルは元々は「EIGHT ARMS TO HOLD YOU」だったのですが、ジョンが書いた「HELP !」に変更されています。ソレをジョンが「EIGHT DAYS A WEEK」と誤認して、インタビューで応えていたりもします。
お気楽な映画の主題歌でポップな「HELP !」は、実は当時のジョンの苦悩を歌った曲で、生前のジョンは「スローな曲にしてレコーディングし直したい」とも発言していて、実際にブートレグではピアノの弾き語りでスローテンポにしたセルフカヴァーを試みているのも聴けますし、1974年の「WALLS AND BRIDGES」の1曲目「GOING DOWN ON LOVE」では「HELP !」から引用した歌詞を歌い込んでいたりもします。しかしながら、それらは全てが後付けであって、当時も、あるいはTV番組のオープニングに使われている現在ですら、そんなジョンの本意とは別のカタチでしか受け取られていないのかもしれません。でも、それすらがビートルズの怪物たる所以であって、そんな苦しい胸の内を叫んだ曲ですらも、立派にポピュラー音楽として成立してしまっているのです。レコーディングに関しては4トラックだったのですが、サー・ジョージ・マーティンの考案で、最初に仮のヴォーカルとバックトラックのリハーサルを4トラックの2チャンネルで録音して、次にそれに合わせた本番のバックトラックを残りの2チャンネルに録音して、最初の2チャンネルを消去して、そこにヴォーカルやコーラスや別の演奏などを録音すると云う、画期的な手法を取る事となるのでした。それから、ポール作の「YESTERDAY」に関しては、確かにレコーディングとして残っているのはポールのみのソロですが、実際にはレコーディング現場には他の3人も立ち会っているのです。そりゃあ、同じ日に「I'VE JUST SEEN A FACE」と「I’M DOWN」もレコーディングしているから当たり前なんですけれど、故に、堂々とビートルズの楽曲だと云えたのでしょう。
(小島イコ)