1966年にリリースされたビートルズの英国オリジナル7作目のアルバム「REVOLVER」は、2022年10月28日にスペシャル・エディションが、1LP、1ピクチャー・ディスクLP、1CD、2CDデラックス、4LP+7インチシングル(スーパー・デラックス)、5CDスーパー・デラックスの全6形態で、全世界同時にアップルからリリースされました。此のスペシャル・エディションは、2017年の「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」に始まり、2018年の「THE BEATLES」、2019年の「ABBEY ROAD」、2020年はコロナ禍で休んで、2021年の「LET IT BE」とそれぞれ50周年記念盤としてリリースされて、2022年には遡って「REVOLVER」となったシリーズで、プロデューサーのジャイルズ・マーティンとエンジニアのサム・オケルによってリミックスされた新たなるステレオ・ミックスをメインにしています。故に、1LPや1CDはニュー・ステレオ・ミックス全14曲のみで、2CDも1枚目はニュー・ステレオ・ミックス全14曲で、2枚目は「PAPERBACK WRITER / RAIN」のニュー・ステレオ・ミックスとセッション音源のダイジェストの全15曲の計29曲となっております。あたくしも含めて多くの方々が購入しているであろう「5CDスーパー・デラックス」は、1枚目がニュー・ステレオ・ミックス全14曲で、2枚目と3枚目がセッション音源でそれぞれ14曲と17曲で、4枚目がオリジナル・モノ・マスター全14曲で、5枚目は「REVOLVER EP」と云う「PAPERBACK WRITER / RAIN」のニュー・ステレオ・ミックスとオリジナル・モノ・マスターの全4曲入りで、5CDで全63曲入りとなっております。まずは、ニュー・ステレオ・ミックスですが、これまでの此のシリーズでも云われて来たジャイルズ・マーティンとサム・オケルによる新たなるリミックスに戸惑う方々も少なからずいますし、今回の「REVOLVER」に関しては、オリジナルの4トラック・テープまで遡っただけではなく、ドキュメンタリー「GET BACK」でも用いられたデミックスを行っています。
そもそもビートルズは次作の「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」までは4トラックでレコーディングしているので、バックトラックなどを録音した複数のチャンネルをひとつにまとめて開いたチャンネルに重ねて録音すると云う手法だったので、それらをデミックスによってバラバラにしてから、新たにリミックスしているわけです。ジャイルズは4枚目のオリジナル・モノ・マスターが当時のビートルズが意図した音と考えていて、ニュー・ステレオ・ミックスもソレに近づけたと云っているものの、其の辺の匙加減は聴き手によっては評価が分かれるでしょう。個人的には2009年リマスターがあるので、コレはコレでアリだとは思います。まあ、そもそも箱物は買って1回聴いたら放っておく事も多いので、それほど頻繁には聴かないんですよね。2枚目と3枚目のセッションズは、録音順に収録されているので、いきなり「TOMORROW NEVER KNOWS」から始まっていて、それだけでも衝撃的です。つづくのは「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE」で、初期ヴァージョンだと「Anthology 2」にも収録されていたサー・ジョージ・マーティンがオルガンで1音をずっと弾いている、かなりサイケなアレンジだったので、完成版とは違ってより「REVOLVER」らしい出来ですし、次がジョージの「LOVE YOU TO」なので、もうアタマの3曲がサイケデリックてんこ盛りだったと分かります。其の後はシングルになった「PAPERBACK WRITER」と「RAIN」が続いていますが、元々「RAIN」はバックトラックを完成版よりも早く演奏して後でスローにしたので、ポールのベース早弾きに圧倒されます。そして「DOCTOR ROBERT」「AND YOUR BIRD CAN SING」とジョンの米国盤で先出しされた不幸な曲がつづき、「AND YOUR BIRD CAN SING」はジョンとポールが何かキメて歌っているみたいで笑って歌になっていないヴァージョンも含まれています。ジョージ作の「TAXMAN」は「Anthology 2」で既出音源ですが、コーラスが違っていて、ソレをよく「10cc風の早口コーラス」と云われるんですけれど、えっとですね、「10cc」は1972年デビューなんですけどね。
「I'M ONLY SLEEPING」も米国盤で先出しされたジョンの曲ですが、こうしてみるとレコーディングが早く行われた曲から先出しされたわけではなかったみたいなので、何故、ジョンの3曲が選ばれたのかもよく分からないです。「ELEANOR RIGBY」はバッキングの弦楽八重奏が収録されていますが、コレってビートルズは演奏に関与していないわけで、まあ、サー・ジョージ・マーティンに敬意を表してなんでしょうね。「FOR NO ONE」もカラオケ状態ですが、こっちはポールのピアノとリンゴのドラムです。そして、問題の「YELLOW SUBMARINE」は、Aメロをジョンが書いて歌っているデモから、ポールがコーラス部分を書き足してジョンが歌い、最終的にはリンゴの歌になった過程が聴けます。以前も書きましたが、コノ箱を買って最も驚いたのはコレでした。ずっと「ポールが書いて、ジョンやドノバンが詞を少しだけ提供した」と云われて来た曲が、実は本当の「レノン=マッカートニー」作品だったと判明したのです。其の後は、ジョージの「I WANT TO TELL YOU」、ポールの「HERE THERE AND EVERYWHERE」、ジョンの「SHE SAID SHE SAID」とセッション終盤となりますが、此の辺りはビーチ・ボーイズの「PET SOUNDS」を聴いた後のレコーディングなので、早くも影響を受けて曲に取り入れているのには驚かされます。4枚目のオリジナル・モノ・マスターに関しては、2009年のモノ・リマスターではなく、敢えて「オリジナル・モノ・マスター」と謳っているわけで、確かに2009年モノ・リマスターとは違っているのですが、あたくしは前述の通りにブートレグで「オリジナル・モノ・マスターの盤起こし」を聴き慣れているので、逆に2009年モノ・リマスターの方が「何か違う」と思えてしまいました。5枚目はシングル「PAPERBACK WRITER / RAIN」の4曲のみのEP扱いで、コレは「LET IT BE」もそうだったのですが、コレが入っているとCDだと全体的にショボく感じられちゃうんですよ。此のシリーズは、何となくですが、内容が薄くなって価格だけ上がっている印象だし、残り6作は2作ずつまとめるとかして内容が濃くなれば少々高値でも文句はないです。
さて、本日はサー・ポール・マッカートニーの81歳のお誕生日でございます。おめでとうございます。コノ連載は43回目でまだ「REVOLVER」でありましてですね、ポールは若干24歳でございますので、先はまだまだ長い道でございます。
(小島イコ)