YMOが全員30代となり「オジサン・アイドル」を演じていた1983年4月23日に、タツローこと山下達郎さんは先行シングル「高気圧ガール」をA面2曲目にした7作目のアルバム「MELODIES」を6月8日に、移籍したアルファ・ムーンからリリースしました。此の年にはタツローも30歳になり、当時は30代になったミュージシャンは下り坂になる傾向が強かった為に、タツローも引退を見据えていて、何とか1990年までは踏ん張って、最後に武道館ライヴをやって、ムーン・レコードの制作部長に就任して、裏方になる予定だったそうです。故に、タツローはSUGAR BABE時代の初心に帰って、やりたい音楽をやって散る心算となってですね、まず、作詞を自分でやる事にしました。実際に此のアルバムでは、ブライアン・ウィルソン作でグレン・キャンベルの「GUESS I'M DUMB」のカヴァーと、前作の「FOR YOU」のアウトテイクである「BLUE MIDNIGHT」を吉田美奈子さんが書いている以外は、全てタツローが作詞もしています。更に、いつも通りに作曲と編曲もタツローで、多重録音はコーラスだけではなく、楽器もタツローが多重録音している楽曲も多くなりました。チャートでは見事に1位を獲得しますが、タツローとしては覚悟を持って挑んだアルバムではあったのです。
現在ではB面最後の5曲目(CDでは10曲目)「クリスマス・イブ」が収録されている事でも有名ですが、同年の12月14日にシングルカットされた時には、44位と、其れほどには注目されていませんでした。其れでも毎年クリスマスが近づくとリイシューしていく内に、1988年にJR東海のCMに使われた事で注目されて、1989年12月に1位となり、其れ以後も冬になると売れ続け、1991年には100万枚を突破して、現在では200万枚も突破していると思え、いまだに冬にはランクインするモンスター楽曲となったのでした。タツローは此の自身の最大のヒット曲を、季節は関係なく現在もライヴでは必ず歌っております。とは云え、元々は竹内まりやさんへの提供曲でボツになった曲に、SUGAR BABE時代に書きかけた詞を発展させ乗せた楽曲でありましてですね、思えば「DOWN TOWN」もザ・キングトーンズへの提供曲でボツになった楽曲なわけで、前述の通り、当初は44位止まりだったので、どうなるのかなんて誰にも分からないのです。アルバム「MELODIES」は「クリスマス・イブ」にも代表される内省的な内容で、前作からは大きく方向転換していて、其れが結果的には大衆に届いた奇跡的なアルバムです。しかしながら、発売当時に「クリスマス・イブ」をラジオ番組で初めてオンエアした時に、タツローはひとこと「名曲です」と自画自賛していたので、自信はあったのでしょう。
(小島イコ)