「ロンバケ」の目標枚数は10万枚だったそうですが、100万枚を超えるロングセラーとなりました。そこで、松本隆さんの推薦で大瀧師匠が楽曲提供とアレンジを担当して1981年10月7日に先行シングルが出て、10月21日にA面全5曲を大瀧師匠サイドとした松田聖子ちゃんのアルバム「風立ちぬ」がリリースされました。更にB面はシングル「白いパラソル」以外は鈴木茂さんがアレンジを担当していて、A面全曲と「白いパラソル」以外の9曲でギターを弾いていて、勿論、作詞は全10曲松本さんです。故に此のアルバムは「はっぴいえんどの逆襲」とも捉えられますが、実際には「はっぴいえんどが歌謡曲に飲み込まれた」作品だと思います。「さらばシベリア鉄道」の詞が「木綿のハンカチーフ」と同じだと気付いて太田裕美さんへ提供した様に、大瀧師匠は「君は天然色」と聖子ちゃんの「白いパラソル」に同じく「ディンギー」が登場する事に対して松本さんに「オレと松田聖子は同じなのかよ」と訊いたら、松本さんは平然として「同じだよ」と応えたそうです。其れもあったからなのか、此のアルバムのA面5曲は「ロンバケ」とシンメトリーになる様に作られています。「君は天然色」は「冬の妖精」で、「雨のウェンズデイ」は「ガラスの入江」で、「恋するカレン」は「一千一秒物語」で、「FUN×4」は「いちご畑でつかまえて」で、「カナリア諸島にて」は「風立ちぬ」です。後に「FUN×4」と「いちご畑でつかまえて」は合体します。
大瀧師匠による歌唱指導が厳しすぎて、聖子ちゃんは移動中のバスで泣いたなんてエピソードもあるし、そもそも先行シングルの「風立ちぬ」を渡された聖子ちゃんは「素晴らしい曲だけど、難しすぎて私には歌えません」と及び腰だったそうです。大瀧師匠がサウンド・プロデュースした作品は多いものの、アルバムの片面全曲を書いて編曲までしたのは「風立ちぬ」だけですし、それだけ大瀧師匠も熱のこもった作品に仕上がっております。「ロンバケ」に比べたら50%位に抑えたアレンジも、当時の歌謡曲では類を見なかったサウンドとなっていますので、「ロンバケ」から入った方々も、下手にコロムビア時代へ手を出すよりも、此のアルバムを聴いた方が幸せな結末になるでしょう。「風立ちぬ」の元ネタがジミー・クラントンの「ヴィーナス・イン・ブルー・ジーンズ」だとバラしたのはタツローこと山下達郎さんですが、其れに対して大瀧師匠は「バラしちゃったの?でもアレはそれだけじゃないから」と応えていて、確かに特に「ロンバケ」以降の楽曲は複合技が多いのです。大瀧師匠は現在再放送されている「あまちゃん」を舞台が岩手だから観ていたらしく、2013年の上半期の朝ドラなので最後まで観れたと思いますが、アキの母親がかつて上京してオーディション番組で歌ったのが「風立ちぬ」でした。若い時の春子である有村架純ちゃんが歌っているのですが、口パクで、実際に歌っているのは現在の春子で「快盗ルビイ」でもお馴染みの、キョンキョンこと小泉今日子さんでした。そう云えば薬師丸ひろ子さんも出ているし、「あまちゃん」は結構ナイアガラですなあ。
(小島イコ)