さてさて、今度こそ「風立ちぬ」と行きたいトコロですが、ター坊繋がりで「AVENTURE」です。1981年5月21日にRCA/RVCから発売された「AVENTURE」は、ター坊こと大貫妙子さんの5作目のアルバムです。前作である1980年の「romantique」に続いてヨーロピアン路線でのアルバムと云われますが、結構違っていて、そもそもター坊は同じ路線を何度も繰り返さず、常に新たな路線に向かうミュージシャンなのです。まずはA面1曲目「恋人達の明日」は教授こと坂本龍一さんのアレンジで演奏もYMO界隈ですが、タツローこと山下達郎さんがコーラスアレンジを担当していて、ター坊と竹内まりやさんとEPOさんによる爽やかなコーラスが聴けるポップス路線です。ター坊は、ノーランズを意識して書いたと云っていました。同年6月5日にはシングル・カット(B面は「愛の行方」)されました。2曲目「Samba de mar」は清水信之さんと加藤和彦さんのアレンジで、デジタル・サンバです。3曲目「愛の行方」は教授のアレンジで、映像音楽シリーズで前作でも試みたヨーロピアン路線です。4曲目「アヴァンチュリエール」も教授のアレンジで映画の影響が強い楽曲ですが、曲調は明るい曲です。5曲目「テルミネ」も教授のアレンジで、これまた映画の様な情景が浮かぶ楽曲です。「romantique」に比べると、かなり明るい楽曲が増えているA面です。
B面1曲目「チャンス」は大村憲司さんのアレンジで、これまた滅茶苦茶ポップな曲で、ター坊はシーナ・イーストンのファーストアルバムみたいにしたかったそうです。此の楽曲は同年7月21日にシングル・カットされていますが、B面はなんと3年前の「MIGNONNE」に収録された「突然の贈りもの」でした。2曲目「グランプリ」と3曲目「La mer, le ciel」は前田憲男さんのアレンジで、これまた映画っぽいのですが、前田さんなのでジャズに傾倒していて、ギターは世界的に有名なジャズ・ギタリストの杉本喜代志さんが弾いています。4曲目「ブリーカー・ストリートの青春」は、加藤和彦さんと清水信之さんのアレンジで、キンクスの「デッド・エンド・ストリート」みたいなロックっぽい曲です。最後の5曲目「最後の日付」は教授のアレンジですが、「romantique」以前の蔵出しでした。前作同様に教授や加藤さんや清水さんもアレンジしているのですが、大村さんによるあっけらかんとした「チャンス」や、前田さんによるジャジーな「グランプリ」と「La mer, le ciel」が加わって、ター坊とEPOさんによるコーラスが加わった曲も多く、前作よりもずっとカラフルで明るい印象があります。此のアルバムが出てター坊は渋谷公会堂でライヴをやったのですが、MCで「こんなに大きな所でライヴが出来て幸せです」なんて、アイドルみたいに感極まっていました。
(小島イコ)