「ロンバケ」の次には聖子ちゃんの「風立ちぬ」と行きたいトコロですが、2009年11月4日にユニバーサルから発売されたトリビュート盤「A LONG VACATION from Ladies」も取り上げておきましょう。此のアルバムは「ロンバケ」の全10曲を女性シンガーがカヴァーして、最後の11曲目のインストゥルメンタル「Blue Niagara」は井上鑑さんによる曲で、井上さんは全曲のアレンジも担当してサウンド・プロデュースもしています。井上さん以外にも、ドラムで林立夫さんや上原ユカリさんなどが参加していて、云わば本家でも演奏している面々もいて、大瀧師匠の「これはもう 新しいアルバム 僕はその 幸せなリスナー」と云うお墨付きまで頂いている作品なのです。1「君は天然色」はター坊こと大貫妙子さん、2「Velvet Motel」は金子マリさん、3「カナリア諸島にて」は今井美樹さん、4「Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語」は伊川さをりさん(ジュライム)、5「我が心のピンボール」はイシイモモコさん(ハミングキッチン)、6「雨のウェンズデイ」は尾崎亜美さん、7「スピーチ・バルーン」は原田郁子さん(クラムボン)、8「恋するカレン」はつじあやのさん、9「FUN×4」は太田裕美さん、10「さらばシベリア鉄道」は鈴木祥子さん、と錚々たる面々による、大瀧師匠への大いなる敬意を込めた作品だと思います。夏のイメージと女々しい男の失恋青春歌謡だった本家「ロンバケ」を、女性からの視点で秋のイメージでちょっとオシャレにした感じです。
いきなり1曲目「君は天然色」からして、ター坊がお得意のピアノと弦楽四重奏に乗せての独自な解釈から始まるので、此の時点で「ダメ」と判断された方々はもう後は聴かない方が宜しいかと存じます。本家「ロンバケ」にも深く関わっている井上さんだからこそ、歌い手に合わせたアレンジにしているわけで、其れがコピーではなくカヴァーであるわけでして、永井博さん本人によるジャケットも含めて「シャレ」だと思って聴けば、なかなか楽しめるアルバムだし、コレがダメなら本家の「ロンバケ」だけ聴いていればいいのですよ。まあ、あたくしもター坊の「君は天然色」目当てで買ったんですけれどね。それとですね、大瀧師匠は前述のコメントばかりか、太田裕美さんが歌っている「FUN×4」に「散歩しない?」と声で参加しているのです。コレはオリジナルとは逆転している遊びで、本家では太田裕美さんが「散歩しない?」を担当しているからなのです。つまりは、大瀧師匠の生前の最後の楽曲は、2003年の竹内まりやさんとのデュエット「恋のひとこと」ではなく、先日発掘された2005年の「ゆうがたフレンド (USEFUL SONG)/大滝詠一と鈴木慶一(冗談ぢゃねーやーず)」でもなく、此のアルバムでの「散歩しない?」だったとなるわけです。此のアルバムを聴くと、世紀のズッコケ盤である「Happy Ending」を仕切っていたのは井上さんなんじゃないかとも思えますが、アレよりはずっとマシです。初回盤のオマケDVDは一回観ればいいような内容で、プレミア付きで高価な中古盤を買う程の必聴盤ではありません。
(小島イコ)