2001年の20周年記念盤の評判が良かったので、大瀧師匠はそれを超えるクオリティーでなければならないと挑んだのが2011年3月21日に発売された「A LONG VACATION 30th Edition」です。其れで元となったのが1991年の選書盤で、前述の通りに大瀧師匠がリマスターに関与していなかった為に「ロンバケ」のシングルVOX用のマスターが使われていて、ほとんど劣化していない状態だったのです。30周年盤は2枚組で、1枚目が本編全10曲の新たなるリマスターで、2枚目が全10曲に「君は天然色」の別ミックスの純カラオケの全11曲で、コレがまたオリジナルのミックスダウンの時に歌を抜いたカラオケも全曲やっていて、其の後に全く使用していなかったので劣化しているわけもなく、其れを基準にして本編もリマスターされたのでした。「君は天然色」のカラオケ別ミックスは、サビで転調して全音上がるオリジナルなのですが、大瀧師匠が高くて歌えなくて、現在のカタチにする前の音源です。何度目の「ロンバケ」か、とも思える30周年盤でしたが、チャートで19位まで上がっております。そもそもオリジナルの「ロンバケ」は100万枚以上も売れたのに、2位止まりで1位にはなっておりません。同日発売のYMOの「BGM」も同じく最高位は2位でした。
1981年当時、YMOの「BGM」や大瀧師匠の「ロンバケ」を2位止まりにしたのは、寺尾聰さんの160万枚も売れたモンスター・アルバム「Reflections」で、収録されたシングル曲「ルビーの指環」は、皮肉にも松本隆さんが作詞しています。「ロンバケ」の成り立ちは40周年記念盤に入っている「Road to A LONG VACATION」を聴いて頂くとして、最初に「カナリア諸島にて」が出来た時に「ロンバケ」のExecutive Producerとなる朝妻一郎さんに聴かせようと持っていったら「どうせ音頭だろう」と相手にされなかったそうです。松本隆さんに作詞を頼みに行った時も「音頭はいやだよ」と云われたそうで、当時の大瀧師匠が如何に信頼を失くしていたのかが分かります。それでも大瀧師匠としては勝算アリと思い「青春歌謡路線」でゆくと決めていたわけで、スタジオ代を肩代わりしていた朝妻さんを納得させて、妹さんを亡くして詞が書けなくなった松本さんにも「待つよ」と云って実際に待ったわけで、一世一代の大勝負に出て、見事に売れたわけです。「ロンバケ」は、大瀧師匠によるアメリカン・ポップスやマージー・ビートなどを元にした複雑怪奇な合わせ技から出来ている楽曲で構成されていますが、其れに乗せた大瀧師匠の歌は「完全なる歌謡」なのです。其の「歌謡」こそが、永遠のマスターピースへと導いたのだと思います。
(小島イコ)