移籍して売れると思った「MIGNONNE」が全く売れず、ター坊こと大貫妙子さんは2年間の沈黙状態となりました。そして、1980年7月21日に復帰作である「romantique」を RCA ⁄ RVCから発表するのでした。此のアルバムでター坊は、ヨーロピアン路線に変貌しております。アレンジは教授こと坂本龍一さんが6曲(A面全5曲とB面4曲目)と加藤和彦さんが4曲で、教授がアレンジした曲はバックがYMOことイエロー・マジック・オーケストラです。となると当然ながらYMOに乗せたター坊となりそうなトコロを、ター坊は「YMOがバックなのにYMOではない」と云うサウンドを試みていて、其れはある程度は成功しているとは思います。でもですね、A面1曲目の「CARNAVAL」なんかはモロにYMOしているサウンドなのですけれど、其れで何が違うかと云うとですね、やはりター坊の類まれな作曲と歌なんですよ。2曲目「ディケイド・ナイト」と来て、3曲目「雨の夜明け」と4曲目「若き日の望楼」なんかは、ター坊も自画自賛する名曲です。5曲目「BOHEMIAN」とB面4曲目「新しいシャツ」も素晴らしいので、教授がアレンジしてYMO人脈が演奏している曲は、文句はありません。細野さんがシンセではなくエレキベースを演奏しているのは、当時レコーディング真っ最中だった「ロンバケ」と同じです。
対して、加藤和彦さんがアレンジしてムーンライダース人脈が演奏しているB面1曲目「果てなき旅情」と2曲目「ふたり」と3曲目「軽蔑」は、悪くはないものの、教授とYMOによるA面よりは出来がイマイチだと思えたりもします。「果てなき旅情」と「ふたり」は大仰だし、ニューウエイヴ風の「軽蔑」は、一寸シャレなのかなと、まあ、其の辺は個人の好みでしょう。アナログ盤のB面最後の5曲目は、SUGAR BABE時代の「蜃気楼の街」を加藤さんがリアレンジした再演です。SUGAR BABEの楽曲は、ター坊ファンにとっては伝家の宝刀とも云えるので、此処で再演してくれたのにはグッと来ました。しかしながら、再演であるのでター坊の声や歌い方が変わってしまった事が、ハッキリと分かってしまうんですよ。個人的にはタツローもター坊もSUGAR BABE時代の歌い方が好きだったので、復活してくれたのは嬉しかったものの、少なからず違和感はありました。シングルは「CARNAVAL/雨の夜明け」と「ふたり/愛にすくわれたい」の2枚がカットされていて、「愛にすくわれたい」はアルバム未収録だったものの、現行CDではボーナストラックで収録されています。ター坊としては、当時は「愛にすくわれたい」で売れてもイメージが付いてしまうからダメ出ししたらしく、後年には「こんな曲も書いていたんですね」と語っております。
(小島イコ)