1977年7月25日にパナム/クラウンから発売されたター坊こと大貫妙子先生の2枚目のソロアルバム「SUNSHOWER」は、現在でこそ「シティ・ポップの金字塔」などともてはやされていますが、発表当時は全く売れておりませんでした。コレは1970年代にビートルズやメンバーのソロアルバムなどが時代遅れだなどと云われて聴いているとバカにされたのと同じで、いや、其れ以上にナイアガラもタツローもター坊も、全部ひっくるめて聴いているとバカにされるどころか、誰も聴いていなくて理解すらされなかった記憶があって、後の再評価に関してはタツローが云う様に「40年前に云ってよ」としか思えませんし、愛聴していたファンよりも当事者であるミュージシャンは深刻な問題だったでしょう。1枚目の「Grey Skies」はSUGAR BABEの延長線上にあったター坊ですが、此の2枚目となると当時流行していたクロスオーバーに傾倒して、完全にサウンド志向となり、もう売り上げなど考えずに好き勝手やってしまい、シンガーソングライターの作品なのに歌よりも間奏などの演奏の方が長い曲まであります。此のアルバムは実質的には教授こと坂本龍一さんが全面的にアレンジを担当し、当時は無名だった教授にとっては初のプロデュース作品となっていますが、ター坊と云う人は常に新しい才能に対してオープンな姿勢をとる冒険者でもあって、後には実際にアフリカとか南極とか世界中を旅していたりもします。
当時クロスオーバーのバンドとして有名だった「スタッフ」のドラマーであるクリス・パーカーにダメ元で交渉したら承諾されて、全編に渡ってクリスがドラマーとして参加しており、もうそれだけでもクロスオーバーでフュージョンなのですが、キーボードは教授と今井裕さん、ベースは細野晴臣さんと後藤次利さん、ギターは松木恒秀さんと渡辺香津美さんと大村憲司さん、パーカッションに斉藤ノブさん、サックスに清水靖晃さん、コーラスにはター坊とタツローと云った、もうコノ上ないミュージシャンが集結していて、内容に関しても文句のつけようがない大傑作ではあるのですが、近年の再評価での持ち上げ方には「何だかなあ」としか云えません。そりゃあ、再評価もされずに埋もれてゆくよりはマシなのでしょうけれど、ター坊はSUGAR BABE時代から独特なメロディーを書く方ではあるものの、常に新たな挑戦をし続けているミュージシャンなので、其の後にヨーロピアン路線とか可愛いもの路線とかロック宣言とかアコースティック路線とかブラジル路線とか、もうアルバムごとにサウンド面では様々な音楽を作っているわけですよ。それなのに何を今更「シティ・ポップの金字塔」なんて云われても、ねえ、そりゃあター坊も「私はシティ・ポップを作っているわけではない」となるでしょう。確かに「SUNSHOWER」はター坊のアルバムの中でも特異な作品ではありますが、実際には若気の至り的な要素も含んだ実験作でもありました。
A面の1曲目「Summer Connection」と2曲目「くすりをたくさん」と4曲目「都会」ではター坊とタツローがコーラスをしていて、参加ミュージシャンも被っていたタツローの「SPACY」との類似点も多くて、5曲目「からっぽの椅子」はSUGAR BABE時代の曲であったりもするので、もしもSUGAR BABEが存続していたならば1977年には「SPACY」と「SUNSHOWER」が合体した様なクロスオーバー路線のバンドに変貌していたかもしれません。現行のCDには、シングルヴァージョンの「サマー・コネクション」とアルバム未収録の「部屋」そして松任谷正隆さんのソロアルバム「夜の旅人」でデュエットした「荒涼」の3曲がボーナストラックで収録されています。「サマー・コネクション」はポンタがドラムを叩いている別ヴァージョンで、タツローは「こっちの方がエキサイティングで好き」とか「ター坊の曲で一番好き」とまで云っています。シングルのB面だった「部屋」は、ター坊自身のお気に入りの楽曲です。スケボーに乗っているター坊が可愛らしいジャケットの其のシングルは、そりゃあ、もう、アルバムよりも売れなかったので当然すぐに廃盤となってしまい、近年にリイシューされるまでは幻のシングル盤でしたし、オリジナルはトンデモ価格でしょう。アナログ盤の「SUNSHOWER」も、オリジナルの帯付きは数年前に2万5千円位の値段が付いていました。中古で価格が高騰しても、ター坊には一切関係ないわけで、リイシュー盤で充分でしょう。しかしながら、そうなるとター坊はアナログ盤の「SUNSHOWER」を探しに日本に来た米国人を取り上げた番組に、よく出演したもんです。何度かお逢いした事がありますが、ター坊は気は強くてまっすぐなんだけれど、基本的には優しい人なんですよ。
(小島イコ)