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2023年03月07日

「ナイアガラ考」#45「泰安洋行」



1976年も、1975年同様にナイアガラ系やティン・パン・アレー系の名盤が毎月の様に発売されましたが、それらが名盤と呼ばれる様になったのはほとんどが後年の再評価によってなのです。1976年6月25日にクラウンから発売された細野晴臣さんの3枚目のソロアルバム「泰安洋行」も、其のひとつです。細野さんによって「ちゃんこ鍋」と「ファンキー」を合体させて「チャンキー・サウンド」と名付けられた此の無国籍音楽は、摩訶不思議な類を見ないものでした。1曲目の「蝶々さん」にはコーラスで山下よた郎と宿霧十軒が参加していて、勿論タツローと大瀧詠一師匠の変名です。他人のコーラスをやり捲っていたタツローは兎も角、大瀧師匠が提供曲やプロデュース作品以外で参加したのは珍しく、其の辺は細野さんと大瀧師匠の友情がありきだったのでしょう。細野さんは、ボーカル、エレクトリック・ベース、マリンバ、スティールパン、三味線、ヴィブラフォン、ピアノ、ハモンドオルガンと大活躍で、ギターに茂、ドラムに林さん、キーボードに佐藤博さんとアッコちゃん(コーラスでも参加)、アコーディオンに先日亡くなられたムーンライダーズの岡田徹さん、パーカッションに浜口茂外也さん、そしてコーラスにはター坊、小坂忠さん、久保田麻琴さん、などが参加しています。

「チャンキー」と云うのは、ニューオーリンズの名物料理「ガンボ」に例えたもので、細野さんも大瀧師匠と同様に此の時期はニューオーリンズの音楽にハマっておりました。ほとんどが細野さんの自作で、ニューオーリンズ風味だけではなく、沖縄音楽などにも接近していたりもします。更にホーギー・カーマイケルの「香港Blues」をカヴァーしていて、此の曲は後にジョージ・ハリスンもカヴァーしています。此の当時のター坊は、美奈子とアッコちゃんと3人でスリー・ディグリーズみたいなグループを組みたかったらしく、細野さんのバックコーラスでは其の片鱗を感じさせます。前作「トロピカル・ダンディー」同様に近年のCDではボーナストラックが入っていますが、こちらにはラジオ番組「馬場こずえの深夜営業」に細野さんがゲスト出演した時の音源が収録されております。勿論、大瀧師匠がテーマ曲を書いた番組であります。以前、細野さんの目の前で「HOSONO HOUSE」をかけて絶賛していたター坊は、2007年に細野さんのクラウン時代の音源をまとめた「ハリー細野 クラウン・イヤーズ 1974-1977」が発売された時に、全然関係がないインタビューで唐突に「最近出た細野さんのボックスは良いですよ。今の若いミュージシャンにはアレを聴いて勉強して欲しい」などと云っていました。

(小島イコ)

posted by 栗 at 21:00| ONDO | 更新情報をチェックする