オリジナルのアルバム「NIAGARA TRIANGLE Vol.1」は全11曲で、タツローが3曲、タツローと銀次で1曲、銀次が4曲、大瀧師匠が3曲と云う構成です。タツローと銀次は、それぞれナイアガラでの活動に終止符を打つ意味合いが楽曲にも現れておりますが、ナイアガラから去る二人は其れでいいのでしょうが、残される大瀧師匠にとっては此のアルバムからがコロムビアでの始まりなのです。しかしながら、其の肝心な大瀧師匠の3曲は「NIAGARA MOON」の蔵出しみたいな2曲で、早くもネタ切れかと思わせます。前作「NIAGARA MOON」に充満していたドクター・ジョンの「ガンボ」やミーターズのニューオーリンズ風味がある「FUSSA STRUT Part-1」は焼き直しでインストに近いし、カラオケだとサント&ジョニーの「スリープ・ウォーク」にそっくりな「夜明け前の浜辺」で唯一歌が聴けるのですが、チャチャっと詞を書いて2回位しか歌わなかったので、タツローから「もっと丁寧に歌入れすべきではないか」と苦言を呈されたそうです。大瀧師匠はプロデュースとエンジニアとして他の二人のレコーディングにも参加していたので、時間がなかったのでしょう。しかしながら、そんな物足りなさは最後の「ナイアガラ音頭」で全てがチャラになってお釣りが来ます。西洋音楽と和製音楽を融合させたコノ楽曲の底知れぬパワーには、只々圧倒されてしまうのでした。別々に録音した和物と洋物の演奏をミックスした現場で聴いたタツローからも「今世紀最高の傑作だ!」と賛辞が贈られたそうです。
スリムケース廉価盤にはボーナストラックが3曲で、30周年記念盤は5曲となっておりますが、前述の通りスリムケース廉価盤の3曲は全て30周年記念盤にも収録されていますし、「ココナツ・ホリデイ'76」もオリジナル通りにフェイドアウトせず7分14秒が楽しめます。共通しているボーナストラックは、シングル・ヴァージョンの「幸せにさよなら」と「ドリーミング・デイ」と「ナイアガラ音頭」で、全てモノラルです。「幸せにさよなら」はアルバムとは別ヴァージョンで、銀次とタツローと大瀧師匠が3人で歌っていますが、コレは3人が別々に歌入れして大瀧師匠が編集したので、担当パートが違うヴァージョンが複数あるマニアックな楽曲です。「ナイアガラ音頭」はアルバムのピッチを上げて教授のクラビネットをダビングしたディスコ・ヴァージョンに変貌していて、大瀧師匠は教授に「スティーヴィー・ワンダーみたいに弾いてくれ」と依頼したそうです。30周年記念盤にはカラオケの「あなたが唄うナイアガラ音頭」も入っていて、歌が入っていないと如何に複雑怪奇な演奏であるかが分かります。最後の「ココナツ・ホリデイ3日目」は「ココナツ・ホリデイ'76」と「あなたが唄うナイアガラ音頭」のイントロに使われたお囃子をほぼ完全収録していて、云うまでもないけれど云ってしまいますが、布谷文夫さんの「アミーゴ!」などが素のまんまで聴けます。「ドリーミング・デイ」で始まり「ナイアガラ音頭」で終わる構成が、前代未聞空前絶後なのですが、云ってみれば「ハイそれまでョ」をアルバムでやったみたいなもんでしょう。
(小島イコ)