2022年11月25日にCD2枚組の「大瀧詠一 乗合馬車 (Omnibus) 50th Anniversary Edition」が発売され、音源自体は同内容と思われるアナログ盤2枚組は、来るべき今年(2023年)3月21日に「大滝詠一 Novelty Song Book」と同時発売予定です。まずもって、何故コノ作品が「ナイアガラ」レーベルから発売されるのかが、よく理解出来ません。50年前に此の作品の元となった「大瀧詠一」は、まだ大瀧詠一師匠が「はっぴいえんど」に在籍中に発表されたモノでして、作詞が松本隆さんで細野晴臣さんも鈴木茂さんも、勿論、松本さんもミュージシャンとして参加していて、はっぴいえんどの延長線上と思えるメロディアス路線の曲が半分を占めています。残りの半分はノヴェルティー路線で後の「ナイアガラ1期」を予兆させるものの、あくまでもバンドの1員が細野さんに「話がある内にやっておいた方がいいよ」と云われて制作された作品であって、同じ大瀧作品でも「ナイアガラ」とは一線を画すモノなのです。そもそも、何故にソロが出たかと云いますとですね、当時はっぴいえんどは「風街ろまん」を制作していて、其れはURCから出るのですが、キングから出したいと云う話になって、URCが「はっぴいえんどは譲れないけれど、ソロならいい」と云って来て、キングが「じゃあ、まずは大瀧で、次に細野や茂のソロも出そう」となったらしいのです。
そんなこんなで1971年12月10日に、はっぴいえんどの「風街ろまん」からのシングルカット盤「花いちもんめ/夏なんです」と同日に師匠のソロデビューシングル「恋の汽車ポッポ/それはぼくじゃないよ」が、翌1972年6月25日に2ndシングル「空飛ぶくじら/五月雨」と出てですね、師匠の構想ではシングル6枚12曲をまとめて「乗合馬車」と考えていたものの、結局はソロアルバムへと変わってしまい、「空飛ぶくじら」は未収録で他の3曲も再録して全12曲全てが新録となる「大瀧詠一」となったのでした。オリジナル通りのカタチではアナログでもカセットでもCDでも何度もベルウッド/キングから発売されていて、特に40周年記念盤となった2012年には師匠が自らリマスターしようと思っていたものの、ベルウッドの企画に譲ったらしいのです。それで50周年記念盤はナイアガラからとなったのですが、肝心の師匠がお亡くなりになっておりますので、何だかよく分からない構成となっております。まずはタイトルを「乗合馬車」としてしまったのは、前述の通りで初期段階の構想だったからで、其れによってCD1枚目全13曲の本編に「空飛ぶくじら」が入っているのですが、他の3曲はアルバム・ヴァージョンなのです。もうコノ段階で破綻しちゃっているんですよね。オムニバスの意味する「乗合馬車」ならば、シングル・ヴァージョンが優先されるべきなのに、コレではアルバム「大瀧詠一」に「空飛ぶくじら」をねじ込んだとしか思えません。
例によって「2012年に大瀧詠一が構想した新たな曲順」って、真偽不明の説明がありますけれど、毎度の事ですが、俄かに信用出来ませんなあ。そしてCD2枚目には「空飛ぶくじら」以外の3曲のシングルに始まって、別ヴァージョンが全14曲収録されています。しかしながら、完全初収録は僅か5曲で、あと「おもい」のリハが長くなっているので5曲半です。2枚組で全27曲になったわけですが、そこで比較すべきなのは1995年に師匠自らが編集したダブル・オーレコード盤全22曲スリムケースの1500円盤なのです。えっとですね、何だかよく分からない編集で、たった5曲半を増やしただけで、2枚組で4290円って、おいおい、そりゃないでしょう。師匠の解説もダブル・オー盤と同じなんですよ。何故に3倍近い価格設定になってしまったのか、全く理解不能です。しかもですよ、ダブル・オー盤はチャッカリと廃盤にしているらしいじゃありませんか。ダブル・オー盤は、最初の4曲がシングル盤で、そこからアルバムをオリジナル通りに入れて、最後の「いかすぜ!この恋」だけ別ヴァージョンにして、そこから別テイクになって、最後はアルバムの「いかすぜ!この恋」で終わると云う、初心者にもマニアにも納得の編集で、聴いている間に読み終えない師匠の解説も付いて、1500円だったんですよ。其れが何故にちょろっと変えただけで3倍近い価格になるんですかね。悪い事は云わないから、中古で1500円盤を買った方がいいですよ。多分、まだ1000円以下で売っていると思います。(つづく)
(小島イコ)