ザ・ビートルズの「GET BACK」が、遂に7月13日に発売されました。此のドキュメンタリー作品はビートルズが1969年1月2日から1月31日まで行った「THE GET BACK SESSIONS」を元にしたもので、素材は1970年に公開されたマイケル・リンゼイ=ホッグ監督の映画「LET IT BE」と同じながらピーター・ジャクソン監督が全く違った印象の作品に仕上げ、昨年(2021年)11月からディズニープラスで独占配信され、ソフト化が待望されて色々ありましたが無事に発売されました。元々はTVショー用にトゥイッケナム・スタジオでのリハーサルからカメラで撮影され、音声は隠し撮りまでされ、アップル・スタジオに移ってからもハイライトであるルーフトップ・コンサートも翌日のレコーディングに至るまで何もかも記録された為に、映像は60数時間、音声は150時間もあると云われています。
結局グリン・ジョンズがまとめたアルバム「GET BACK」はビートルズによって2度のダメ出しを食らい、ビートルズは「ABBEY ROAD」を録音して先に発売してしまいます。しかしながら映画公開は決定していたので、ジョンとジョージとリンゴはフィル・スペクターにテープを託してアルバム「LET IT BE」として発売されて、ハブにされたポールは発狂してビートルズ脱退を宣言します。でもビートルズはもう「ホワイト・アルバム」の頃からガタガタになっていて、まずはリンゴが、次にジョージが、そしてジョンが脱退していたのです。その度に他の3人が止めていたから、ポールもきっとジョンやジョージやリンゴが止めてくれると思っていたのでしょう。でも、誰も止めてはくれず、ポールは3人を訴えて裁判を起こし、ビートルズは崩壊しました。「GET BACK」を観ると、ポールが誰よりもビートルズの存続を願っていたと改めて思わされますが、ヨーコに夢中になったジョンが戻って来ない事も既に悟っていて泣いてしまう場面は切なかったです。
音源の公式盤としては前述の「LET IT BE」があるのですが、1996年の「ANTHOLOGY3」に元々のコンセプトで11曲が収録され、2003年には「LET IT BE...NAKED」なる珍盤が公式化されました。其れは幻のアルバム「GET BACK」のコンセプトに戻ってなどと謳いながら、テイクを細かく刻んでつなぎ合わせたリミックス盤でした。そして昨年(2021年)にアルバム「LET IT BE」の50周年記念盤が発売され、本編のリミックスに加えて遂に「GET BACK」も公式盤で登場したのですが、他のセッションはたったの2枚にまとめられ、もう1枚は「GET BACK」の改訂版で差し替えた曲にシングル・ヴァージョン2曲を加えた4曲入りのEP扱いで、出し惜しみ感が半端なかったです。あたくしは此のセッション音源が好きなのでブートレグも沢山持っていますが、数えてみたら「THE GET BACK SESSIONS」音源のみのブートレグCDだけでも56枚ありました。他のセッションと混じったものを加えたら100枚はあると思います。会話まで収録された70枚以上もある「DAY BY DAY」なんて代物も集めていた頃があったのですが、流石に根負けしました。でも音楽だけの17枚組「THIRTY DAYS」は持っていて、其れを聴くだけでも20時間以上も掛かるのです。更に暗いと云われている映画「LET IT BE」も大好きで、DVD2枚組とBD2枚組のブートレグを持っています。特にBDは凄くて13時間半も収録されています。何故にブートレグなのかと云うと、映画「LET IT BE」は80年代にアメリカでアップルの無許可でヴィデオとLD化されただけで直ぐに廃盤となり、其の後は公式ソフト化されていないのです。故に、今回の「GET BACK」の発売は快挙とも云えます。
さて、此の「GET BACK」は8時間にも及ぶ大作で、映画「LET IT BE」は1時間21分しかありません。だったらもう映画「LET IT BE」は要らないのかと云えば、そうは問屋が卸さないのでした。最大の違いはピーター・ジャクソン監督が時系列に沿って編集していて、1月30日のルーフトップをクライマックスにしているので、翌日の最終日はエンディングで細切れにしか観れません。映画「LET IT BE」は時系列を無視してルーフトップを最後に持って来たので、其の前に翌日録音の「TWO OF US」「LET IT BE」「THE LONG AND WINDING ROAD」の完奏ヴァージョンをこれでもかと観る事が出来ます。「GET BACK」の売りのひとつでもあるルーフトップの完全収録も「GET BACK」では警官とスタッフが揉める声や街頭の人々の声が始終被っていて、映画「LET IT BE」で被るのは「I'VE GOT A FEELING」だけなのでストレス無く音楽を楽しめます。他にも映画「LET IT BE」にはあるのに、ドキュメンタリー「GET BACK」にはない場面が幾つかあるのです。此れはもう映画「LET IT BE」の高画質公式BDとルーフトップの演奏のみの完全版の高画質映像BDとCDは出してもらわなきゃ困りますね。松村雄策さんは「GET BACK」を観るまでは死ねないと云って観たら死んでしまいましたが、我々はまだまだ死ねませんよ。
(小島イコ)