w & m:
LENNON / McCARTNEY
P:グリン・ジョンズ(2/22-23)、クリス・トーマス(4/18-20)ジョージ・マーティン(8/8-20)
E:バリー・シェフィールド(2/22-23)、ジェフ・ジャラット(4/18-20)、
フィル・マクドナルド(8/8-20)、ジェフ・エマリック(8/8-20)
2E:ジョン・カーランダー(4/18-8/11)、アラン・パーソンズ(8/20)
録音:1969年2月22日(take 1-35)、
2月23日(take 9、20、32 を編集し、マスターとする)、
4月18日(マスター に SI 「ギター」、編集した take 1 に SI 「ギター」)、
4月20日(take 1 に SI 「ハモンド・オルガン、コンガ・ドラムス」)、
8月8日(マスター に SI 「モーグ・シンセサイザー、ドラムス」)、
8月11日(take 1 に SI 「コーラス」、take 1 の一部をマスターへも挿入)
STEREO MIX:1969年4月18日(take 1 より ラフ・ミックス)、
8月20日(take 1 より 1-8、マスターより 9-10、8 と 10 を編集)
1969年9月26日 アルバム発売 (
「ABBEY ROAD」 A-6)
アップル(パーロフォン) PCS 7088(ステレオ)
ジョン・レノンがヨーコに捧げたヘビーなナムバーで、演奏時間は「7分44秒」もあり、サウンド・コラージュである
「REVOLUTION 9」を除けば、ビートルズの楽曲では最も長いナムバーです。ところが、歌詞は非常に単純で、ほとんどがタイトルの「I WANT YOU」と「SHE'S SO HEAVY」を繰り返すわけで、発表当時には評論家に「ジョン・レノンの素晴らしい作詞能力は枯渇した!」と酷評されました。然し乍ら、此の手法は翌1970年のソロ・アルバム「ジョンの魂」にも踏襲されており、ジョン・レノンの新たな創作法として大いに評価される事となります。此の楽曲も、既に「THE GET BACK SESSIONS」で取り上げられていました。結局はアルバム「ABBEY ROAD」に収録され、アルバムで最初に録音が開始され、最後に完成した楽曲となります。
1969年2月22日に録音が開始された時には、グリン・ジョンズがプロデュースし、ビリー・プレストンがハモンド・オルガンで参加しています。「THE GET BACK SESSIONS」から三週間も経ってビートルズがレコーディングを再開したのは、ジョージ・ハリスンが扁桃腺摘出手術の為に入院(2/7-15)していた事も原因ですが、グリン・ジョンズとビリー・プレストンがアメリカへ行っていて不在だったからでもあります。つまり、此の曲の録音を開始した時点では、未だビートルズは「THE GET BACK SESSIONS」を投げ出してはいなかったと思われます。ジョン(ヴォーカル、ギター)、ポール(ベース)、ジョージ(ギター)、リンゴ(ドラムス)、ビリー(オルガン)の五人でベーシック・トラックが35テイク録音されます。当然乍らジョンが歌いましたが、一回だけポールも歌ったそうです。翌日に take 9、20、32 と三つのテイクを繋いでマスターとされます。
暫く放置されていましたが、4月18日と20日に、クリス・トーマスがプロデューサーとなり、ジョンとジョージのリード・ギターをマスター・テイクにオーヴァーダビングし、編集して「take 1」とし、更に、ギター、オルガン、コンガなどを重ねました。此の辺りまでは、未だ「ABBEY ROAD」の具体的な構想は無かったと思われます。そして、「ABBEY ROAD」制作が本格化した後で、今度はジョージ・マーティンがプロデューサーとなって、8月8日に何故か元のマスターへ戻って、ジョンのモーグ・シンセサイザーによるホワイト・ノイズとリンゴのドラムスが加えられます。此の日には「ABBEY ROAD」のジャケット撮影も行われました。ジャケットでポールが裸足なのは、真夏で暑かったし近所に住んでいるからポールが素足にサンダルで来て、脱いだショットが使われたからです。8月11日には、ジョン、ポール、ジョージのコーラスを録音し、何故か take 1 とマスターの両方へダビングします。此の曲のレコーディングは此れで終了しましたが、二つのヴァージョンが出来てしまいました。
二つのヴァージョンのどちらを採用するか決めかねたジョン・レノンは、またしても「だったら、二つを繋いじゃえばいいだけだ!」と考え実行します。8月20日に行われたミックスで、両ヴァージョンをそれぞれミックスし、更に其の二つのミックスを途中で繋いだのです。前半が「take 1」で、後半がマスターとなりました。そもそも、ベーシック・トラックで三つを繋いでいるわけで、かなり複雑な行程を経て完成されていますね。そして、此処からがジョン・レノンの才気が爆裂するトコなのですが、完成したミックス(8分4秒)を聴いていたジョンが「そこだ!そこでテープを切れ!」と叫び、ジェフ・エマリックが切ったので「7分44秒」で唐突に音が切れる衝撃のエンディングとなりました。其の日にはアルバム「ABBEY ROAD」の曲順が決められ、ビートルズの四人が立ち会いました。其れが、ビートルズが四人揃ってスタジオに集った最後の日となってしまいます。アナログではA面の最後が「I WANT YOU(SHE'S SO HEAVY)」となっていますので、最初に聴いた時には本当に驚きました。
然し、なな、なんと、アルバム「ABBEY ROAD」はAB面を逆にする案も検討されたのです。つまり、アルバムの最後が「I WANT YOU(SHE'S SO HEAVY)」となり、衝撃のカット・アウトで終わっていたかもしれないのですよ。其れは其れで、ビートルズの最後に相応しいエンディングとなったでしょう。ジョンはモーグ・シンセサイザーで作ったホワイト・ノイズを敢えてガツンガツンと入れましたが、エンジニアは堪ったもんじゃなかったようです。然し、其れはジョンだけが望んだ事ではなく、ビートルズの総意でした。此の曲のレコーディング中にジェフ・ジャラットが、ジョージに「(他のマイクが音を拾うので)ギターのヴォリュームを下げて欲しい」と云ったら、ジョージはジェフ睨みつけ、こう言い放ったそうです。
「ビートルズのメムバーに向って、そんな口はきくな!」(小島藺子)