現在、THE BEATLES の「ベスト盤」と云えば「1」って事になって居ます。2000年11月に全世界一斉発売された「1枚のディスクに27曲入り」のお買い得過ぎる此のCDは、発売当時に日本だけで300万枚も売り上げたと云われて居ます。其れどころか、全世界規模では軽く2千万枚を超え、34か国でチャート首位を獲得し、在ろう事か「2001年度、つまり21世紀初頭の全米ビルボード・チャート最高売り上げアルバム」にまでなってしまったのです.
あのですね、此れってさ、2000年の当時でも「38年前〜30年前の音楽」を集めた作品でしかなかったのですよ。其れが年間首位って。
「30年間のロック史の面目丸つぶれじゃまいかっ!」彼らの作品は1987年から1988年に、全世界統一規格で「英国オリジナル盤に準ずるカタチ」でCD化されて以来、2008年の現在まで一度もオリジナル・アルバムはリマスターされて居ません。他の一部マニアしか知らない様なアーティストのアルバムが、CDの寿命(CDは20年が記録メディアとしての限界だと云われています)の為に何度もリマスターされて来たのに、肝心の天下無敵の「THE BEATLES」作品は20年前の製品が未だに発売され続け、しかも確実に売れ続けて居るのです。
「THE BEATLES のCDは此れしか出さんっ!」と大見得を切った手前、アップルとしてもEMIとしても、なかなか他の作品をCD化するわけにはいかなかったわけです。しかし、CD化完了の際に英国盤に未収録のシングル曲やEP盤の曲を集めた「PAST MASTERS」を出しちゃったわけでして、まぁ、其れは「だって、おまいら『抱きしめたい』とか『HEY JUDE』とかまでオリジナル・アルバムには入ってないんだからさ、仕方ないべさ?」で通ってしまったわけですよ。其れで、目出度く「公式213曲+1」がCDで聴ける様になって、記念に全部入れた箱を発売して、めでたしめでたし。
なわけなかったわけだ。其れだと、初期はモノだけ、中期以降はステレオだけしか聴けないわけです。其処で英国オリジナル・シングルとEP盤の箱も発売しました。けど、其れだと全部買わないと有名で好きな曲すらも手に入りません。其処で、1993年9月に、遂に「掟破り」が開始されます。もうCD化完了から5年も経ったから「禊ぎは済んだ」って事だったのでしょう。みんなが待って居たベスト盤がCD化されたのでした。有名な「赤盤」と「青盤」です。
ところが、此のベスト盤は基本的にステレオ・ミックスで全曲収録された為に「赤盤」の前半は「初CD化ステレオ音源」になって居ました。更に「青盤」でも例えば「A DAY IN THE LIFE」はサントラ盤「IMAGINE(1988)」で初公開された「イントロからキチンと始まるヴァージョン」に差し替えられて居たのです。てゆーかさ、此れってキチンとしたオリジナル作品なのよ。だからオリジナル通りのフォーマットで出したのは正しいわけですよ。なのに、みんな、もうCDに毒されて居て「収録時間が短いんだから、赤盤は一枚で入っただろ?」とか「青盤だってCDにしちゃ短いんだから未発表曲とか他の曲をボーナスで入れろよ」とか云い出したわけです。其れが後の「1」発売の布石にもなりました。
でもさ、長けりゃええってもんじゃないじゃん。彼らのオリジナル・アルバムは、30分〜40分で終わってしまうのですよ。其れで満足じゃん。ライヴは毎回、11曲でアンコールなしの35分だったじゃん。
さて、其処からはもう「音源統一化」なんてお題目は何処へやらの無法の世界となります。1994年に、たかがラジオ番組用の一発録りを編集した「LIVE AT BBC」が二枚組で発売されます。純粋な未発表音源としては、1977年の「LIVE AT THE HOLLYWOOD BOWL」以来17年振りの作品でした。しかし、つまり公式に出なかったって事は出来が悪い「お蔵入り音源」なのです。彼らだって、まさか一回こっきりラジオで流れた演奏が商品化される未来なんて予想して居なかったでしょう。
さらに翌1995年からは、悪夢の「ANTHOLOGY」シリーズが登場します。こっちは、最早「公式海賊盤」と云うしかない完全なる「マニア向けボツ音源集」でしたが残念ながら、すべて「バカ売れ」しました。兎に角、「THE BEATLES の新作」は売れる!のです。現役のどんな素晴らしいアーティストの誰ひとりとして太刀打ち出来ないのです。現に、「ANTHOLOGY」が発売されて居た1995年〜1996年に元・ビートルズのポールが新作を出そうとしたら却下されたのです。EMI は、こうサー・ポールに言い放ちました。
「ポール、空気嫁。今はアンソロだべ?
ビートルズの新作はひとつで好いんだよっ!」哀れなり、ポール・マッカートニー。今や「ひとりビートルズ」と化した彼は、其れ以来ずっと「THE BEATLES の新作が出る年にはソロは出せない」と云う縛りを受け続けるばかりでは無く、「THE BEATLES の新作が出たらツアーで其の収録曲を演奏してプロモートする」と云う任務まで課せられて居るのでした。ん、リンゴ?リンゴじゃ無理でしょ。例えば「1」で彼が歌っているのは♪イエロサブマリン♪だけじゃん。「アルバムで一曲のひと」じゃん。挙げ句に、書いたのはポールじゃん。
「アンソロ」が終わっても出せば売れる「ビー商品」は毎年発売され続けて居ります。ボツ音源集の次は、神をも恐れぬ「リミックス盤」でした。其の「YELLOW SUBMARINE - SOUNDTRACK(1999)」は、オールド・ファンから顰蹙を買いまくります。「おいおい、音をクリアにすりゃええってもんじゃねーだろ?」って話です。ピーター・コビン、永久追放決定。
其れで懲りたのか、「リミックスはしたらアカン!」と気付き、翌2000年に満を持して発売されたのが「1」だったのです。(ま、其の後、世紀のトンデモ・リミックス盤「LET IT BE ... NAKED(2003)」や「LOVE(2006)」が乱発されるわけだが。)
「1」は、一般的には「一家に一枚のビートルズの最強ベスト盤」と謳われる作品です。確かに、全曲初めてリミックスではなく「リマスター」された音を最初に聴いた時には、かなりの衝撃を受けました。例えば「DAY TRIPPER」なんか、ノイズどころか昔から気になっていた演奏ミスまで修正されて居たのですよ。然し乍ら、此の作品は「ベスト盤」ではありません。27曲と、丁度「赤盤&青盤」の半分が最新リマスターで収録され、しかもお手軽過ぎる一枚で輸入盤なら新品で千円一寸で買えてしまう商品です。有難い世の中になりました。でも、此れは「英米どちらかで首位を獲得したシングル曲」のみを集めたとの縛りでの企画作品なのです。
ゆえに此の作品には、在ろう事か「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」が収録されて居ないのです。シングル集として考えたとしても、其の時点でアウトでしょう。ましてや、「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」が入って居ない彼らのベスト盤なんて存在して良いわけないじゃん。「1」は、単なる「コンピ盤」です。「ROCK'N'ROLL MUSIC」や「LOVE SONGS」同様の編集盤なのです。いや、音の良さを抜いて考えれば、あたくしにとっては、
「駅売りパチモンCDとおんなじです」だってさ、ジャケットを見てよ。何、コレ?ジョンはいないし、ジョージは死にかけてたから仕方無いけど、よくぞピンピンしてた「ポールとリンゴ」が許可したよね。
あっ。二人とも、美的センス最悪でした。
【参考画像:ポールとリンゴのトホホなジャケより一例】
(小島藺子)
初出「COPY CONTROL AGAIN」
「『THE BEATLES 1』をぶっとばせっ!」(2008-7-17)
「リマスター盤」が売りだった「1」が、うっかり「最新デジタル・リマスター盤」で再発されやがったので、此の記事を引っ張り出しました。余談ですが、ウチは「シューイチくん」を見る度に、此のアルバムを思い出します。
(鳴海ルナ)