よくビートルズはジャンルを超えているとか云われても居るのですけど、ホントは単純なんです。演ってるのはロケンロールそのもので、誰でも解るってくらい一貫しています。それなのに何故にアルバムごとに違う顔を魅せるなんてことが可能だったのかってぇと、「二番煎じ」はやらんぞっ!って強い意志があったからなんですよ。役者魂とでも云うのでしょうか、てか、ビートルズってアイドル上がりの女優なんだよなぁ。え?何云ってんのか分らないって?じゃ、解説しましょう。
常に新しい試みをやってやるぞっ!との野心を持ちつつ、過酷な顔見せツアーもこなすアイドルとしても頑張っていた 1966年に確信犯的に「REVOLVER」を作ってしまい、もはやアイドルなんてやってらんねーっ!とスタジオに籠り、翌年にはスタジオ版ビートルズとしての最高傑作(それは、つまり世界一ってことです)をモノにしてしまった女優にとって、その後ってのが重要でした。
そこで制作されたのが「THE BEATLES」でして、それは途轍も無い傑作となります。箍が外れたってのは、これでしょう。それまではビートルズはビートルズであって、例えポールしか参加していない「YESTERDAY」ですらビートルズ以外の何者でもなかった。すべてはビートルズが核となっていたのです。
ところが、ここでは個人が核になっています。ジョン、ポール、ジョージ、(リンゴ)が、主役なのです。その集合体としてビートルズがあると云う、当たり前の話をアルバムでやっちまったんだな。「THE BEATLES」ってタイトルに偽りは無くバンドを構成する各人のてんでバラバラな30曲を「ひとつの世界」にしたってわけなんだけど、そんな発想をするバンドはそれ以前も以後もいません。つーか、普通あんなもんまとめられないでしょう。それを成し遂げたのですから「大女優の誕生」です。
果敢な挑戦はまたしても成功したのだけど、さて次は一体どーすんだよ?ってことになって「原点回帰」ってトコにいっちゃったのが、天下無敵のビートルズにしては「お粗末」ですね。それをやっちゃあ、おしまいだよっ!ってのは、当然本人たちが一番わかっていたのでしょう。大女優は作品を選ばなきゃダメなの。だからこそお蔵入りにして「ABBEY ROAD」で決着をつけるのです。事実、当時の感覚ならサントラの「♪いえろさーまりん♪」を外せばホワイトの次は「ABBEY ROAD」が出たわけで。
つまり、何を云ってんのかってぇと「ゲバ」ってのは、大女優が「なかったことにして」って消し去りたい過去だったのです。完成盤に「NAKED」ってタイトルは内容にそぐわないなって気もしていたのだけど、実は最も相応しかったんですね。ホワイトでビートルズは脱いだけど、裸にはなっていなかったんだな。女優が仕事で脱いだってのが、ホワイト。でも、それよりも先があったわけだ。そりゃ見せられないね。それが「ゲバ」です。お宝じゃん。
そんな混沌の時期である1969年1月17日、アルバム「YELLOW SUBMARINE」が発売されました。ビートルズのオリジナル・アルバムの中で、最もいや唯一、魅力に乏しい作品でありまして、1999年には「YELLOW SUBMARINE SONGTRACK」が発売された為「イラネ」と判断されそうです。このアルバムだけで聴けたビートルズの曲はたったの4曲です。今やそれらはすべて新たな「サントラ」で聴けるし、アニメ映画で使用された他の曲も含めて15曲も良い音で収録されたそれは、内容も好意的に云えば「中期ベスト盤」の魅力的なアイテムです。
でも新盤はリミックス盤なので、当時のもわ〜っとした混沌状態が好きなオヤジは「なんじゃ、こりゃ」となるわけです。いえ、アレはアレで楽しいのですけどね。と云うのもこのアルバムから、ビートルズはモノラル・ミックスをやめてしまったからです。この作品にはモノもありますが、それはステレオをモノにしただけなのですから、ミックス違いを楽しめなかったわけでして、ま、それでも、もともとサントラだから違うミックスもあったんだけどね。
これはマテリアルとしては1969年の作品とは云えません。既発曲も含めた6曲で、最も新しい録音である「HEY BULLDOG」ですら1968年2月で、他の新曲はすべて1967年の作品です。これは何故かと云うと、よーするに新曲である4曲ってのはボツ音源なんだな。ビートルズはアニメなんて莫迦にしていて、出来の悪い曲を「これはアニメ用だな」ってな感じで渡したのです。アニメでは吹き替えも声優が担当しました。ところが、完成したアニメを観たら「クール」だったので、慌ててラスト・シーンに出演したってわけだ。しかしながら、アニメで使われた曲のほとんどは既発曲で、二度売りをしないビートルズは「ホワイト」に没頭し延び延びになって、中途半端なカタチで発売することとなりました。アナログのB面を担当したジョージ・マーティンだけはノリノリだったのかもしれませんね。「ホワイト」には半分匙を投げていたのに、B面のスコアは全部録音しなおして映画版は使ってないんですって。なんだよ、じゃあ、これはもうサントラじゃないじゃん。
なんといっても、1969年の1月と云えば「ゲバ」をやっていたんですから、こんな昔のボツ音源なんて知ったこっちゃなかったんですよ。そのうえ、その「ゲバ」自体も壮大なボツ音源になっちゃうんだからね。てか、働きすぎですよ。以前も書きましたけど「ホワイト・アルバム」を出したのって、1968年11月22日なんだからね。二枚組ですよ。休めよ。なんで1969年1月17日に次のアルバムを出さなきゃイカンのだ?なんで1969年1月2日には、もう其の次のアルバムのリハーサルをやらなきゃならんのだ?どーかしてるよ。
1969年1月と云えば、アルバム「LED ZEPPELIN」がアメリカで発売されています。本国であるイギリスでは3月まで発売されていませんが、「ゲット・バック・セッション」の実質的なプロデューサーであったグリン・ジョンズは、1968年10月にオリンピック・スタジオで行われたそのデビュー盤のレコーディングにエンジニアとして参加していました。
「ゲバ」は当時の会話まで残されているので、LED ZEPPELIN のデビュー・アルバムに関する話題をジョンズがジョージにふるなんてのも聴けるんです。こんな感じ。
グリン:ジョージ、ジミー・ペイジが新しく結成したバンドのアルバムは聴いた?
ジョージ:ジミー・ペイジ?ヤードバーズの?(デレクの次はジェフだよな、あいつベースじゃなかったっけ?)
グリン:最高だよ。ジョン・ポール・ジョーンズがベースなんだ。
ジョージ:ジョン、ポールって。。。(ハァ?オレは?)
グリン:ジョーンズだよ、セッションマンとして有名で、まだ若いけどベースがとても上手いんだよ。で、太鼓はジョン・ボーナムって無名の若僧なんだけど、ありゃ凄いぞ。
ジョージ:(( ´_ゝ`)フーン、どーでもええよ、んなもん。早くオレの新曲やりてーなー)
グリン:(なんせ俺様がエンジニアだもんな、てへへ)そんでもってね、
ジョージ:((∩゚д゚)ワーワーきこえなーい)
GET BACK SESSIONS とは1969年1月2日から1月31日までの「30 DAYS」を指すのですが、正式にレコーディングされたのは1月22日からです。そして、その日からバンドに5人目のメムバーが加わりました。
ビリー・プレストン。ビートルズ史上、正式に参加した5人目は彼以外にはいません。事実、シングル「GET BACK / DON'T LET ME DOWN」のレーベルには「THE BEATLES with Billy Preston」と表記されています。こんなことはクラプトンでもありえなかった快挙です。
彼は、わずか10歳の時にナット・キング・コール主演映画で端役ながらデビュー、ビートルズとは彼等のデビュー当時(1962年)にリトル・リチャードのバンドに参加していて出逢って以来の仲で、その時でもまだ16歳です。その後もサム・クックやレイ・チャールズをサポートし、ファンキー大好きジョージ・ハリスンの誘いでビートルズに参加、アップルからソロ・デビューも果たし、70年代にはローリング・ストーンズのレコーディングやツアーにも参加、アレサ・フランクリンやスライ・ストーンとも共演、ソロでも全米一位の大ヒットを飛ばし、解散後のジョン、ジョージ、リンゴのアルバムにも当然参加、ジョージのバングラデシュ・コンサートや北米ツアー、リンゴのオールスター・バンドでも大活躍と、ロックとソウルを繋ぐ最重要ミュージシャンのひとりです。
そんな彼の仕事で見落とされがちなのが、名曲「You Are So Beautiful」の作者だと云うことでしょう。ん?そんなこたぁ知ってるって、じゃあ「With You I'm Born Again」でシリータとデュエットしてるってのはどう?マイルス・デイヴィスとも共演してるぞ。全部、常識か。
ま、ともかく、たまたま1月22日にアップルのロビーにいたのをジョージが誘って、そのまんまビートルズに客演って話なんだけど、出来過ぎてますね。いろんな話があって、1962年にはもうビートルズへの参加要請があったので念願だったとか、どうも既に「ホワイト・アルバム」にも参加していた(公式サイトのディスコグラフィーに載っています)とか、つまり話は出来てたんでしょうね。これほどの才能の持ち主を「たまたまいた」から「来いよ」って云って、10日間も拘束するなんて、いくら天下のビートルズでもありえない。
でも、話としちゃ、たまたま居たって方が良いね。実際、ホントなのかもしれないよ。だって、相手はビートルズだもん。断る阿呆はいませんな。
(小島藺子)
初出「COPY CONTROL」
「じゃ、脱いでみようか」(2006-1-15)
「YOU'RE TOO MUCH」(2006-1-17)
「Communication Breakdown」(2006-1-18)
「You Are So Beautiful」(2006-1-22)
「THE BEATLES=片瀬那奈」と云う仮説を、懸命にでっち上げ様としていた「小島の悪戦苦闘ぶり」が伝わる文章です。おそらく小島は、此の当時には「洒落でこじつけていた」と思われるのですが、ダンダンダンとマジになってゆくのでした。
(鳴海ルナ)