出演作:『僕たちの好きだった革命』(サードステージ、他)
公演日:初演、2007年2月28日〜4月1日(新宿シアターアプル、他)全23公演
再演、2009年5月19日〜7月5日(東京芸術劇場 中ホール、他)全35公演
映像作品:DVD「僕たちの好きだった革命」(サードステージ TDV-007)
2007年5月31日発売(初演版2007年3月7日昼夜公演を編集し収録)
片瀬那奈の初舞台作品「僕たちの好きだった革命」で演じた「小野未来」は、初演時の東京千秋楽で脚本・演出の鴻上さんをして「此れが初舞台!奇跡です、片瀬那奈!!」と云わしめた驚嘆すべき事件となりました。ええ、此れはもう「事件」です。あれほどまでに熱狂した西豪寺エレナ様も霞む程の、衝撃的な出来事でした。
物語は、学生運動が激しかった1969年に高校の自主文化祭で主人公の山崎クン(中村雅俊さん)が機動隊の攻撃で意識を失い、30年後の1999年に目覚め高校に復学し、現役のぬるい10代のクラスメイトを熱き心と行動力で感化してゆき、再び自主文化祭を敢行する姿を描いたものです。1999年の高校生には、片瀬那奈ちゃん演じる小野未来や、日比野クン(ハリケンレッド)、希(森田彩華ちゃん)などがいて、希と未来が文化祭で企画したラッパー:タイトキック(GAKU-MCさん)のライヴを却下された事を発端に山崎クンが時代錯誤な学生運動を始めてしまい、擦った揉んだして文化祭自体が中止される事態になります。姿カタチは47才のオッサン乍ら心は17才で止まっている山崎クンの熱情に徐々に影響され、未来たちやタイトキックも共に活動し自主文化祭を強行するのですが、30年前と同様に機動隊がやって来て山崎クンや未来ちゃんたちは対決を余儀なくされます。果たして、彼等の運命や如何に!クライマックスの山崎クンの感動的なアジテーションは、何度観劇しても涙なくしては観れませんでした。
初演初日を観劇した時、僕は溢れる熱い涙を止められなかった。其れは演劇に感動したからでもありますが、何よりも目の前で初めて観た「女優・片瀬那奈」の圧倒的な存在感に屈したからです。其れまでも歌手時代のステージやトークショー等で、僕は何度も那奈ちゃんに逢えました。でも、最初に好きになった「演じる片瀬那奈」を目の当たりに出来たのは初めてだったのです。
ヒロインと語り部を兼務する片瀬那奈は、初舞台とは信じ難い程に輝いていました。舞台で躍動する片瀬那奈を観て、僕は1998年から2007年まで10年近く追い続けた日々のデジャヴを感じたのです。「小野未来」には、其れまでの片瀬那奈の全てが在りました。16才での衝撃のモデル・デビュウも、グラビア・アイドル女優だった10代の日々も、歌手に専念し再び女優に回帰した20代前半の激動の時代も、そして、おそらく生まれて来てからの25年間の全てが込められた「魂の演技」でした。此れは、片瀬那奈にしか出来ない完全なるオリジナルです。もし同じ演技が出来るのなら、其の人が片瀬那奈になっていたでしょう。「小野未来」に、片瀬那奈は25年間の自分史を重ねたのです。すべてが此の初舞台へと繋がっていたと実感出来たのですから、ファンにとっては正しく至福の時でした。「未だ未だ、那奈ちゃんの道は終らないのだ」と確信しました。
此の作品は二年後の2009年にも再演されましたが、本当は初演終了後に映画化が決定していたのです。映画でも主役の山崎クンは中村雅俊さんが演じると公表されてもいましたが、現役高校生の未来ちゃんを映画でも那奈ちゃんが演じるのは些か無理が在ると思われましたので、初演限りと思っておりました。ところが、諸事情で映画化が頓挫し延期され、演劇での再演が決まった様です。まさか再び観れるとは思ってなかったので嬉しかったんですけど、何だかナァ、、、。
僕は初演9公演に再演4公演と13公演を観劇し、壱回ごとに一期一会な舞台の魅力に大いに魅了されました。革命同志であるムッちゃんやレオちゃんの舞台を観に下北へ通ったり、GAKUちゃんの実演に参戦したりと、所謂ひとつの「カタセカイ」が大きく広がった特別な思い入れが在る作品です。初演も再演も素晴らしかったけれど、個人的には初演初日の強烈なインパクトが忘れ難いです。「片瀬那奈って、凄いナァ、やっぱり」と改めて思い知らされた夜でした。初演はDVD化されているものの、実際に体験した舞台の感動の半分も伝えてはくれません。当たり前田のアンドレ膝皿蹴りですが、舞台は生で観なきゃダメです。其れでも、DVDの副音声での腕白番長丸出しな片瀬クンのコメントは面白過ぎますので是非御覧下さい。
てか、堤カントクは映画化する気があるのでしょうか?また延びて、三度目の舞台での革命!なんて事になったら、怒るどころか「堤さん、よくぞ投げてくれたっ」と賞賛しますけどね。片瀬クン、三十路で高校生でも好いじゃん。ムッちゃんを観よっ。アレこそが、女優の在るべき姿ですよっ。
再演時のトークショーで、鴻上さんが「世の中にはナナみたいなデカくて侠気溢れる女が好きだって酔狂な男性ファン連中もいて、何度も舞台に通ってくれてるんだけど、あの人達は俺から見たら挑戦してるって思えるんだよな」と呆れて云うと、片瀬クンは「ええ、彼等はチャレンジャーですね」とエラソーに云い放ちました。そっか、自覚あるのね、御本尊様。てか、ファンと勝負する気マンマンな女優って、一体なんなのよさ。宣戦布告されたのですから、僕たちは喜んで受けて立ちますわよ。こっちとら伊達や酔狂で10余年も片瀬クンを追っかけてないっつーの。片瀬那奈を愛すると云う事は、常に未知なる何かに挑む事なのです。
僕たち那奈ちゃんファンは、此の物語での日比野クンそのものです。片瀬那奈の自分史が投影された小野未来を慕い、震え乍らも共闘し、新たな戦場へ向かい消えた彼女に想いを伝えようと決意を固める姿に、ファンとしての自分を投影せずにはおれません。結末の幻影で、冷たく一瞥し去ってゆく未来を呆然と見送る日比野クンには、トコトン参りました。此の作品は、僕たちファンと那奈ちゃんの歴史すらも内包しています。
そして、物語の眞の主役は山崎クンでも未来ちゃんでもなく、「今度は震えない」と誓った日比野クンだと僕は強く思います。
(姫川未亜/小島藺子)