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2010年05月04日

「怪優・片瀬那奈・進化論」
中入りの壱:「1998-1999」

first time―片瀬那奈写真集


片瀬那奈ちゃんが女優としてデビューしたのは1999年ですが、御存知の通り彼女が「片瀬那奈になった」のは1998年です。始まりは、旭化成「'99水着キャンペーンモデル(第24代)」でした。其れ以前にも彼女にはモデル活動やTV出演等のメディア露出が確かに在りますが、片瀬那奈と云う名のもとに活動を開始したのは「ナピュア'99」でしょう。そして、片瀬那奈の名を一躍有名にしたのが1998年10月5日の水着ショーでのハプニングで在ったのも衆知の事実です。

1999年度の水着キャンギャルは、伝説的な豊作の時だったと記憶されています。当時、各社のキャンギャルは、挙って誌面を飾ったり、TVに出演したり、勢揃いの夢の様な水着ショーを行ったり、日替わりでラジオ番組(「VENUS ISLAND」)を担当したりしていました。此の年は、井川遥サン、菊川怜サン、滝沢沙織クン、そして我らの片瀬那奈クンと錚々たるメムバーが揃っていました。ま、其れは歳月を経ても、多くの方々が第一線で活躍しているからこそ云える評価です。

水着キャンギャルとして全国行脚し乍ら、一方で片瀬クンは「ヤング・サンデー」誌を中心としたグラビア・アイドルとして僕たちの心を鷲掴みにしつつも、有名女性ファッション誌「JJ」のモデルとしても活躍します。デビュー当時の片瀬那奈ちゃんが目標として「女の子にも男の子にも好かれるひとになりたい」と望んだ「全方位戦略」の元で、大いに席巻するのでした。1999年には初の写真集「first time(片瀬クン命名)」も出版されますし、CMも「伝説のプレ歌手デビュー作」でもある「トマトプリッツ」や、其の後も長くシリーズ化された「Ban」等の大手有名企業商品に起用されます。当時の片瀬那奈ちゃんは、初々しく可愛いアイドルそのものです。そんな「アイドル・那奈ちゃん」を求めて、僕たちは女優としての姿も見つめていました。

其の類い稀なる抜群のプロポーションと堂々とした立ち居振る舞いから、正に「大型新人」として出現した片瀬那奈ちゃんですが、当時の映像を観て頂ければお分かりの様に始まりは「普通の16才の女の子」です。女優デビュー作となった「最後のデート」からは、後の恐るべき怪優路線は伺い知れません。前述の通り「最後のデート」での片瀬那奈ちゃんは「17才のグラビア・アイドル」としてなら十二分に及第点を与えられる魅力に溢れています。おそらく、僕を含めた多くの「グラビア・アイドル:片瀬那奈」に興味を持って視聴した方々は、大いに満足したでしょう。只、片瀬那奈ちゃん本人が全く納得しなかった事で話は大きく変わってしまいました。

つづく「GTO ドラマスペシャル」「天国のKiss」そして「氷の世界」と、「女優・片瀬那奈」は僅か壱年弱で目紛しい成長を遂げます。其の三作での片瀬那奈ちゃんは、バイクで海に飛び込んだり、土下座して血だるまで死んでから生き返ったり、無惨にも惨殺されたりしたのです。女優デビューの1999年に、アイドルらしく「普通の女の子」を演じたのは「最後のデート」だけでした。別に変わった役を演じたのが重要なのではありません。17才の片瀬那奈が、其れをどう演じたかが問題なのです。

「最後のデート」で片瀬那奈は、等身大の片瀬那奈を普通に演じました。其れで好かったんです。次の「GTO」だって、おんなじ様に普通に演じてもらって結構だったのです。ハッキリ云って、少なくとも僕は当時の那奈ちゃんに過大な期待なんかしていませんでした。可愛い大好きなアイドルがドラマにも出てるってだけで満足でした。でも、片瀬那奈ちゃんはそんな僕たちの甘い気持ちを観る度に破壊しました。「何だ?こいつ、変じゃん」と思わずにおれない存在感を、若干17才の女の子は放っていたのです。


(小島藺子/姫川未亜)



posted by 栗 at 11:07| ERENA | 更新情報をチェックする

「怪優・片瀬那奈・進化論」
act 004「迫田七海」

フジテレビ系ドラマ「氷の世界」オリジナル・サウンドトラック


 出演作:『氷の世界』全11話(フジテレビ系)
 放映日:1999年10月11日〜12月20日(毎週月曜日 21:00〜21:54、最終回 21:00〜22:09)
     平均視聴率 19.0%

 映像作品:ヴィデオ「氷の世界」1〜4
      (フジテレビ PCVC-30964〜30967)2000年3月17日発売
      DVD「氷の世界 DVD BOX」
      (ポニーキャニオン)2010年10月20日発売予定


片瀬那奈ちゃんが女優デビューした「美少女H2」とは「未来の月9女優養成所」とのコンセプトで立ち上げられた番組です。スペシャル・ドラマのヒロインから連ドラ初出演と順調に進んだ片瀬那奈ちゃんは、当然の流れで「月9」へのレギュラー出演が決まりました。

平均20%近くを記録した月9ドラマへの出演は、世間に大きく片瀬那奈の存在を喧伝します。豪華絢爛なキャストに囲まれる片瀬クンが演じた「迫田七海」は、単なる端役などではなく物語に大きく関わる重要な役どころでした。「GTO」に続いて二度目の共演となった「貳代目」こと松嶋菜々子サンとの所謂ひとつの「きれいなおねえさん共演作」でも在りますが、御存知の通り此の時点では「貳代目」が現役で、よもや那奈ちゃんが将来「三代目」を襲名するとは夢想だにしておりません。

前作での敵役とは違って、迫田七海はアニキ(金子賢クン)思いの可愛い素直な妹です。年齢的にも第一期女優時代の那奈ちゃんは「妹」を演じる機会が多かったのですが、此の作品と「2001年のおとこ運」での柚木さくらが「妹」役での代表作でしょう。気が強いけど可愛い妹を演じさせたなら、当時の那奈ちゃんは天下一品でした。

物語はミステリーで、迫田七海も途中では犯人か?と疑われます。実のアニキに疑われてしまうわけで、其の後の展開を知ると涙を誘います。其のアニキの想像で、七海が憧れる久松先輩(ミッチー)を殺害する場面も描かれます。空想上とは云え、片瀬那奈ちゃんが初めて演じた殺人場面です。其の動機として、久松を追ってスペインまで行った展開も在り、其処で前作に続いて二度目の「キス・シーン」が在ります。今回も自ら迫り強引にキスするって積極果敢な演技で在りまして、アンテツあにい伝説の「いつか殴る手帳」にしっかりと「藤原竜也」と並んで「及川光博」の名が記されました。

貳代目が演じるヒロインの江木塔子が連続保険金殺人事件の犯人ではないか?と思わせて進むストーリーは、最終回での大どんでん返しで真犯人が明かされます。初回の冒頭から散々流された主人公・廣川英器(竹野内豊サン)の溺死場面までもが、まさかまさかの生還!となるオチは、真犯人の設定も含めて「おいおい、そりゃないでしょ」と云いたくもなります。最終回が近づいて、無理矢理に真犯人を捏ち上げた様な印象が拭えません。

そんな事よりも、問題は片瀬那奈ちゃんが演じる迫田七海がまたしても無惨に殺害されてしまう事です。前作の「天国のKiss」では、壱度は幽体離脱したものの蘇生しましたが、今回は本当に殺害されて荼毘に付され海に散骨されちゃうのです。第8幕で殺されて、最終幕の犯人自供回想場面ではより克明に再び殺されます。

「片瀬那奈18才は、二度死ぬ!」

主役二人はめでたしめでたしだし、犯人すらも何だかシアワセをぶっこいてしまう中で、迫田七海は犬死にですよっ。殺人ミステリー作品ですので結構沢山の人が殺されるドラマなのですが、七海ちゃんが殺されるのが最も理不尽で許し難い展開です。ま、ドラマにそんなに熱くなっても仕方無いのですけど、其れ程までに迫田七海は可愛らしいのです。アニキが殺害された七海を抱きしめて号泣する場面では、何度観ても思わずもらい泣きしてしまいます。

僕は、此の作品での那奈ちゃんの台詞回しが凄く好きなんです。あんまり好きなので、ほとんど暗記しちゃってる程です。真剣なんだけど稚拙なんですよ。此れぞアイドル女優の在るべき姿です。元々、アイドルが演じる時には「一所懸命なのに出来上がって無い」って危うい魅力があります。アイドル好きな連中は、完璧を求めてはいないのです。もう二度と「迫田七海」を演じた那奈ちゃんの演技は観れません。那奈ちゃん本人にも再現する事は出来ないのです。正に、此の時限りの素晴らしい演技です。

兎も角、片瀬那奈ちゃんは初めての「月9」でも大いに其の存在感を魅せ付けてくれました。女優壱年目の片瀬那奈ちゃんは、正に順風満帆でした。そして二年目の2000年がやって来ます。いよいよ、片瀬那奈ちゃんは実質上の初主演作に挑むのでした。


(小島藺子/姫川未亜)



posted by 栗 at 10:34| ERENA | 更新情報をチェックする

「怪優・片瀬那奈・進化論」
act 003「柏木礼奈」

天国のKiss〈1〉 (角川ティーンズルビー文庫) 天国のKiss〈2〉 (角川ティーンズルビー文庫)


 出演作:『天国のKiss』全10話(テレビ朝日系)
 放映日:1999年7月12日〜9月13日(毎週月曜日 20:00〜20:54)平均視聴率7.8%

 映像作品:ヴィデオ「天国のKiss」1〜5
      (テレビ朝日 PCVE-31020〜31024)1999年11月17日、12月1日発売


女優デビューから三作目で、いよいよ片瀬那奈ちゃんは連続ドラマに進出しました。役どころは、主人公(明日美:奥菜恵サン)と恋人(櫂:藤原竜也クン)を巡って敵対する「桂木礼奈」です。「16才の現役高校生で人気モデル」と云う設定は、当時の片瀬那奈ちゃんとリンクしますが、其の内面は明らかに違う「典型的な敵役」でした。最初期の役柄では、此の「桂木礼奈」と次作「氷の世界」での「迫田七海」が甲乙付け難く好きです。でも、どちらかを選べと云われたなら「桂木礼奈」と答えます。其の理由は、連ドラ初出演で既に片瀬那奈ちゃんは其の後の「怪優路線」の大いなる発芽を魅せているからです。

片瀬那奈ちゃんが演じる「敵役」は、代表作となった「西豪寺エレナ様(2006年)」や「美月うらら姫(2009年)」そして現在(2010年)爆走中の「高瀬リコ様」などに顕著な様に「憎み切れない愛らしさ」を備えて居ます。そして、何ゆえ「憎めない」のかと云えば、ズバリ云って片瀬那奈ちゃんが演じる「敵役」は「変な人」だからなのです。いや、失敬、云い直します。

片瀬那奈ちゃんが演じる「敵役」は「物凄く変な人」なのだ。

其の所謂ひとつの「怪優・片瀬那奈」が開眼したのは、一般的には2006年の「西豪寺エレナ様」と云われています。其の説は、確かに間違ってはいません。然し乍ら、其の前に演じた「小早川妙子」と「山田バーバラ」の存在も重要です。何れにせよ、2006年が怪優開眼の時で在ったのは歴史的事実でしょう。されど「ローマは壱日にして成らず」なのです。元々、片瀬那奈ちゃんには「怪優」へ進むべき資質が確かに在りました。其れを証明するのが此の1999年の「桂木礼奈」です。

此の役柄には、現在に至るまでの「怪優・片瀬那奈」の本質が面白い様に詰め込まれています。櫂を奪われそうだと直感した礼奈は、あらゆる手段で明日美を虐めます。手下を使って陰湿にイビリ捲り、手のひらを返して涙の謝罪をし味方に付いたと見せかけて罠に嵌め、堂々と宣戦布告し自ら櫂にキスをして高らかに勝利宣言します。其れがゴーストである明日美の力を最大限に覚醒させる事になってしまい、櫂の気持ちもドンドンと明日美へ傾いてゆくのですが、、、。其の過程で、礼奈は徹底的に「イヤな女」なはずなのですが、ひたすらに恋人を振り向かせようとする姿はいじらしく可愛いのです。そもそも、いくら幼なじみだったからといって既に恋人関係だった礼奈と櫂の前に突然現れた明日美の存在こそがエイリアンなのです。礼奈の立場なら、彼を繋ぎ止めたいと考えるのは当然ですし、其の行動が過剰になればなる程に物語は盛り上がります。そして、片瀬那奈ちゃんは見事に悪役に徹しました。然して、其の余りにも健気で一本気な敵役振りが観る者の心を揺さぶったのです。

終盤で、礼奈は最終手段に出ます。アノ手コノ手で明日美を追い詰めたものの、意に反して櫂の気持ちは益々離れてゆく。切羽詰まった礼奈が取った最終手段は「いきなりだナァ!の土下座」でした。しかも、朝っぱらから屋外の橋の上で「あたしに櫂を頂戴!お願いします!!」とやらかすのです。挙げ句に、形振り構わずに真摯に対峙した礼奈に圧倒された明日美がビビりやがって逃げ出す後を追い、在ろう事か身代わりに車に轢かれて死んでしまうのでした。

「片瀬那奈17才、無惨にも血だるまで絶命ですよっ」

其の余りにも衝撃的なクライマックスでの熱演は、何度観ても爆笑せずにはおれません。同時に、まるで怪物を見てしまったが如く大仰に「イヤぁーっ!」と叫ぶしかない明日美の無力さに憤りを感じますし、礼奈が何でこんな目に逢わなきゃいけないのだ?一体此処まで酷い結末を迎える程に礼奈は悪い事をして来たのか?と思わざるえないのです。

明日美と櫂の呼び掛けで礼奈は蘇り改心してしまうのですが、どー考えても明日美の方が自分勝手なトラブルメーカーで全く感情移入出来ません。保てる力を出し切って壮絶に散った桂木礼奈こそが心に響くのです。土下座までしたのに血みどろで死んじゃうんですから、天晴れとしか云えません。「敗北の美学」をマザマザと見せつけた其の姿が「在りし日のアントニオ猪木」や「後の小川戦での橋本真也」をも想起させるのは、長年「ワールドプロレスリング」を中継する「テレ朝イズム」ゆえでありましょうかっ。

当時の片瀬那奈ちゃんは、水着キャンギャルで在り、「ヤンサン」で活躍する紛れも無いグラビア・アイドルでした。グリコのトマトプリッツのCMにも出ていました。そんなアイドルが、正に体当たり演技を何の迷いもなくやっちまったのですから注目せずにはおれません。最終回で魅せた改心後の屈託の無い笑顔には「うん、あそこまで全身全霊を賭けて闘ったのだから、敗れても悔い無し!だな。よくやった、礼奈ちゃん」と拍手を送りました。クライマックスでの「土下座〜流血の壮絶死」と云う展開は、其の破天荒な脚本の面白さもありますが、何よりも驚嘆すべきなのは其れを演じ切った「若干17才の片瀬那奈」です。当時のインタビューで「納得出来たなら、ペンキでも被るし、何でも演じます」と云い切ったのは、本気でした。

此の作品は共演者にも後の「カタセカイ」を構成する布陣が多く、大いに楽しめます。恋人役だった竜也クンとは「デスノート(2006年)」で再共演しますし、明日美の両親を演じるのが高田純次サマと戸田恵子サンってのも見どころなのですが、櫂と共にバスケ部に所属する連中の中に坊主頭の輩が居るのが気に掛かります。後に「残り夏(2005年)」で再共演する其の人は「荒川良々クン」です。当時の彼は25才くらいだったと思いますが、10代の若手に混じって普通に高校生を演じております。全く今と風貌が変わりません。其の年齢不詳振りは、当時から不変です。

さて、「土下座すりゃ偉いのか?」って声が聞こえます。そんなわけないじゃん。後に「西豪寺エレナ様」が土下座をした時に、あたくしは「掟破りの逆土下座」と絶賛しました。其れは、ミクロちゃんが初回で「決死のダイビング土下座」をやらかした事への返答でも在ったのですが、礼奈とミクロちゃんを比較しちゃったからなのです。ミクロちゃんの土下座は、心を打ってはくれませんでした。其れはダイビングがスタントだったからでは在りません。単純に「可愛いミクロちゃんが土下座なんかやらされて可哀想だナァ」としか思えなかったのです。決してミクロちゃんの責任では在りません。普通の10代の女の子ならアレで充分だし、寧ろミクロちゃんは果敢に挑んでいたと思います。其れでも満足出来なかったのは「10代の片瀬那奈」を観てしまっていたからでしょう。片瀬那奈は、其の登場から既に振り切れていました。「桂木礼奈の土下座」は、今後も永遠に超えられないと思います。其れはまっすぐに「西豪寺エレナ様の逆土下座」へと繋がっていました。

「土下座して、其の後に血だらけで死ぬって展開なんだけど、宜しく」とスタッフに云われた時、間違いなく「17才の片瀬那奈は、心の底から歓喜した」とあたくしは思います。そうでなければ、こんなにも心に残る土下座なんか出来っこありません。


(小島藺子/姫川未亜)



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