
片瀬那奈ちゃんが女優としてデビューしたのは1999年ですが、御存知の通り彼女が「片瀬那奈になった」のは1998年です。始まりは、旭化成「'99水着キャンペーンモデル(第24代)」でした。其れ以前にも彼女にはモデル活動やTV出演等のメディア露出が確かに在りますが、片瀬那奈と云う名のもとに活動を開始したのは「ナピュア'99」でしょう。そして、片瀬那奈の名を一躍有名にしたのが1998年10月5日の水着ショーでのハプニングで在ったのも衆知の事実です。
1999年度の水着キャンギャルは、伝説的な豊作の時だったと記憶されています。当時、各社のキャンギャルは、挙って誌面を飾ったり、TVに出演したり、勢揃いの夢の様な水着ショーを行ったり、日替わりでラジオ番組(「VENUS ISLAND」)を担当したりしていました。此の年は、井川遥サン、菊川怜サン、滝沢沙織クン、そして我らの片瀬那奈クンと錚々たるメムバーが揃っていました。ま、其れは歳月を経ても、多くの方々が第一線で活躍しているからこそ云える評価です。
水着キャンギャルとして全国行脚し乍ら、一方で片瀬クンは「ヤング・サンデー」誌を中心としたグラビア・アイドルとして僕たちの心を鷲掴みにしつつも、有名女性ファッション誌「JJ」のモデルとしても活躍します。デビュー当時の片瀬那奈ちゃんが目標として「女の子にも男の子にも好かれるひとになりたい」と望んだ「全方位戦略」の元で、大いに席巻するのでした。1999年には初の写真集「first time(片瀬クン命名)」も出版されますし、CMも「伝説のプレ歌手デビュー作」でもある「トマトプリッツ」や、其の後も長くシリーズ化された「Ban」等の大手有名企業商品に起用されます。当時の片瀬那奈ちゃんは、初々しく可愛いアイドルそのものです。そんな「アイドル・那奈ちゃん」を求めて、僕たちは女優としての姿も見つめていました。
其の類い稀なる抜群のプロポーションと堂々とした立ち居振る舞いから、正に「大型新人」として出現した片瀬那奈ちゃんですが、当時の映像を観て頂ければお分かりの様に始まりは「普通の16才の女の子」です。女優デビュー作となった「最後のデート」からは、後の恐るべき怪優路線は伺い知れません。前述の通り「最後のデート」での片瀬那奈ちゃんは「17才のグラビア・アイドル」としてなら十二分に及第点を与えられる魅力に溢れています。おそらく、僕を含めた多くの「グラビア・アイドル:片瀬那奈」に興味を持って視聴した方々は、大いに満足したでしょう。只、片瀬那奈ちゃん本人が全く納得しなかった事で話は大きく変わってしまいました。
つづく「GTO ドラマスペシャル」「天国のKiss」そして「氷の世界」と、「女優・片瀬那奈」は僅か壱年弱で目紛しい成長を遂げます。其の三作での片瀬那奈ちゃんは、バイクで海に飛び込んだり、土下座して血だるまで死んでから生き返ったり、無惨にも惨殺されたりしたのです。女優デビューの1999年に、アイドルらしく「普通の女の子」を演じたのは「最後のデート」だけでした。別に変わった役を演じたのが重要なのではありません。17才の片瀬那奈が、其れをどう演じたかが問題なのです。
「最後のデート」で片瀬那奈は、等身大の片瀬那奈を普通に演じました。其れで好かったんです。次の「GTO」だって、おんなじ様に普通に演じてもらって結構だったのです。ハッキリ云って、少なくとも僕は当時の那奈ちゃんに過大な期待なんかしていませんでした。可愛い大好きなアイドルがドラマにも出てるってだけで満足でした。でも、片瀬那奈ちゃんはそんな僕たちの甘い気持ちを観る度に破壊しました。「何だ?こいつ、変じゃん」と思わずにおれない存在感を、若干17才の女の子は放っていたのです。
(小島藺子/姫川未亜)