出演作:『フラガール』(TBS、他)
公演日:2008年7月18日〜8月31日(赤坂ACTシアター、他)全36公演
舞台「フラガール」は、2008年の「女優・片瀬那奈」を考察する上で最重要作品です。いえ、僕にとっては、此れまで彼女が演じて来た中で最も愛着があるのが「平山まどか」だと断言してもいいでしょう。目の前で演じる片瀬那奈ちゃんを、僕は全36公演中27回、しっかりと目撃しました。赤坂ACTシアターでの東京全23公演は、全て最前列で観劇しました。運良く招待され制作発表にも参加出来ましたので、東京公演に関しては7月17日のゲネプロ以外を完全制覇してしまったのです。当初は全国公演も全て行く気マンマンでした。流石に其れは叶わなかったけれど、平日の昼公演も多かった東京公演全制覇だけでもよくやらかしたもんだと自分でも呆れます。
おそらく、2008年は長い「片瀬那奈ちゃんファン歴」で最も多く現場へ駆けつけた年です。舞台で「いわき、大阪、名古屋」へも飛び、トークショーでも「つくば、大阪、広島」と遠征しまくりました。無論、東京でのイベントや公録にもは出来得る限り行きましたし、「那奈ちゃんと同じ映画に出るのだ!」とばかりに「20世紀少年」のエキストラにも何度も参加しておりました。永遠に超えられないと思っていた「2002年〜2004年の歌手時代、一週間に十日来い!の日々」をも軽やかに超える「那奈莫迦振り」を777%炸裂させた時でした。仲間内からも「未亜ちゃん、遂に発狂したかっ」と驚かれる程のイカレ振りで御座居ました。其れは「片瀬那奈10周年」に対するファンとしての勝手な祝福でもありましたが、矢張り初主演舞台となった「フラガール」が発火点となってファイヤー・ボールへと燃え上がったがゆえの大暴走だったと思います。
此の片瀬那奈ちゃんにとって二度目の舞台は、2006年に映画賞を総嘗めにした名画「フラガール」を映画と同じ羽原大介さんの新たな脚本で、多くのスタッフも映画版から引き継がれ企画制作された作品でした。演出の山田和也さんは舞台版を依頼され、映画で松雪泰子さんが演じた主人公「平山まどか」のキャスティングに悩んだ時に、片瀬那奈ちゃんの奇跡の初舞台「僕たちの好きだった革命」を観劇し「まどか先生を見つけたっ!」と舞台化への「GO !」サインを出せたと後に語りました。「始めに片瀬那奈ありき」で決まった舞台で、片瀬那奈ちゃんは期待を上回る演技で応えます。
紀美子役の福田沙紀ちゃんとの「W主演」となっておりますが、沙紀ちゃんは未だ10代で此れが初舞台でしたから、実質的には「片瀬那奈の座長公演」と云えるでしょう。物語は基本的には映画と同じで、其れ故に失敗が許されない舞踏場面が大きな見どころのひとつです。まどか先生が映画版でも見せ場だった稽古場でひとり踊る場面を、片瀬那奈ちゃんは少なくとも僕が観た27公演では完璧に踊り切りました。更に、映画では描かれていない「SKD時代のダンス」や、カーテンコール後の「まどか先生のフラダンス」と、片瀬那奈ちゃんが踊る場面だけでも絶句するしかない舞台です。最前列ど真ん中で観劇した時には、生まれて初めて腰が抜けて暫く立ち上がれなくなった程に圧倒的なパフォーマンスでした。(当時の熱に浮かされた様な熱い観劇録は、過去ログに詳しく掲載されております。)
でも僕は東京全23公演よりも、其の後の「いわき、大阪、名古屋」での公演でより大きな感動を得ました。舞台上と客席が一体となって創り上げる一期一会の奇跡を体感出来たのは、観客のチカラが明らかに東京よりも勝っていたからです。まどか先生のモデルで舞踏振付・指導を担当された「カレイナニ早川先生」に「毎日来てくれるナナちゃんのファン」と認識されて何度かお話させて頂いたのですが、フラガールの地元:いわき公演で「先生、いわきは東京よりも圧倒的に素晴らしかったですよ」と云ったら、早川先生は「そうでしょ?東京のお客さんは、フラガールを分ってないのよ」とズバッと返して下さいました。
観客の温度差が大きく開いてしまったのは、正直に申しまして東京での23公演が多過ぎたからでしょう。いくら夏休み中と云ったって、沙紀ちゃんは初舞台で、那奈ちゃんも二度目だったんですよ。期待度が大き過ぎます。勿論、素晴らしい舞台であった評価は変わりませんが、20日間で休演日を除けば「17日で23公演」って明らかに無謀でしょう。ま、那奈ちゃんは「東京は毎日、お客さんのテンションが違って面白い」なんて語ってましたけどね。其れに、僕にとっては23回どころか永遠に終らなくとも通い続けたであろう舞台であった事も偽らざる真実です。23回、目の前に舞台しか無い状態の僕には、那奈ちゃんしか見えなかった。最前列では舞台全体を観るなんて不可能なので、23回全部観るんだから其の内に那奈ちゃん以外に視点を合わそうと思っていたのだけど、そんな事は無理でした。そもそも、そんな事が出来るなら僕は全公演を最前列で観劇するなんて素っ頓狂な事をしなかったでしょう。自分でも呆れる程に、僕は片瀬那奈ちゃんが好きなんだと分った夏でした。
片瀬那奈ちゃんは、舞台映えします。2007年と2009年の「僕たちの好きだった革命」や、2008年の「フラガール」を御覧になられた片なら異論はないでしょう。そして、僕が歌手時代の那奈ちゃんをこよなく愛したのは数多いステージを観たからです。テレビや映画や雑誌の中の那奈ちゃんも好きだけど、本当にドキドキが止まらないのは目の前に降臨する現場での晴れ姿です。毎日、舞台「フラガール」に通った2008年の夏、僕はダンダンダンと現実感が無くなってゆく程に夢心地でした。僕は「フラガール」の公演が行われた一ヶ月半、いえ、正確に云えば出演が発覚してからの半年近い間、観劇する為に他の全てを捨てても構わないと臨みました。其れは、全く以て正しい道だったと、今でも思います。
繰り返しますが、舞台「フラガール」とは、多くの賞を得た映画「フラガール」を舞台化した作品です。片瀬那奈ちゃんが挑んだ「平山まどか」を映画版で演じた松雪泰子さんは数々の主演女優賞を獲得しました。大きな期待を観客が抱き、評価が高い映画との比較も必須となる舞台だったのです。那奈ちゃんは、未だ二度目の舞台で初主演でした。スタッフからもファンからも「先ず持って、片瀬那奈ありき!の舞台」と持ち上げられ、想像を絶する重圧が在ったでしょう。其の全てに、那奈ちゃんは克ちました。だからこそ、御園座での千秋楽で涙する那奈ちゃんは、あんなにも美しかったのです。
TV放映も映像作品化もされていない傑作舞台「フラガール」に望むのは、初演のDVD化では無く「再演」です。そして、云うまでも在りませんが云わせて頂きましょう。もしも再び此の舞台が上演されるのならば、平山まどかを演じるのは、片瀬那奈です。
「フラガール」INDEX 改訂版(姫川未亜)