約壱年半振りの再開です。
中断中に、此の連載の主役で在る「片瀬那奈」は遂に音楽活動を再開しました。いや、正確に云えば「音楽家:片瀬那奈」はずっと活動を続けて居たのです。「DJ:NANA」として非公式乍らサプライズ・ゲストとして降臨した姿は何度も目撃されて居ましたし、ギターも習得し、シンセサイザーも購入した事実も明かされて来ました。2008年の「bash」を聴けば、レコーディング作品としては2004年4月以来、いえ、オリジナル楽曲としてなら2003年10月以来の「五年間に及ぶ沈黙」が、「継続活動を非公開にして居た期間」だったと理解出来ます。「bash」は、五年も休んで居ていきなり発表出来る作品では在りません。明らかに「Babe」を意識した構成の楽曲ですが、其処には五年間の貯めが在りました。「歌手:片瀬那奈」を愛した誰もが「夢のつづき」を確信したはずです。ちなみに「和製カイリー」の称号にも忠実な片瀬は「bash」で同時期のカイリーの最新ヒットだった「WOW」も意識して居ます。最早、此処まで徹底すれば立派です。何人も「カイリーのパクリ」なんて云えません。「和製カイリー」とは「きれいなおねえさん」同様に「片瀬の偉業を讃える愛称」なのです。
更に、女優として大きく成長した片瀬は「助演女優賞」を文句無しに受賞した「歌のおにいさん(EX 2009)」での「美月うらら」役で「歌のおねえさん」を怪演しました。劇中で何曲も歌われた「元・歌劇団出身の過剰なオペラ風童謡」で、此れまでに聴かれなかった「わざとフラットした高音での歌唱」をも披露しました。そして三年連続で舞台女優としても活躍し、将来の「ミュージカル女優」までも夢想させてくれました。片瀬那奈の歴史を探れば、其処には常に「歌」が在ります。「音楽」と共に、片瀬那奈は生きて来ました。
僕が「音楽家:片瀬那奈」の先見性を眞に再認識したのは、2006年の終わりにマドンナを観た時でした。プロモーション来日した彼女は、一夜限りのシークレット・ギグをアゲハで敢行し、僕は幸運にもアリーナ最前列エリアでマドンナを観たのです。隣のコはマドンナの指先に触れて居ました。僕も後、那奈センチ位で届く場所でした。其処で展開されたギグで、僕は強烈なデジャヴを感じたのです。
「此れって、777じゃんっ!」そう、「2006年のマドンナ」は、「2004年の片瀬那奈」でした。「777」は、余りにも早過ぎたと痛感したのです。たった三回しか公には敢行されなかった「777」の全てに僕は参加しました。其れは、明らかに「片瀬那奈」と其のファンの温度差を感じる空間でした。でも、其れは双方ともに責める事が出来ない「ズレ」だった。那奈ヲタは、其れでも真摯に片瀬を追いました。彼女が好きだと公言する摩訶不思議な電子音楽を聴いて理解しようとしたのです。そして、やっと何となく解って来た時に片瀬那奈は女優に還ってしまいました。片瀬がやりたかった事を理解するには、アノ頃の僕らは幼過ぎたのです。されど、彼女が道を開いた世界が、彼女が志半ばで消えた後に認知されて行きました。「歌謡ハウス」は、現在では普通です。片瀬以後に、例えば「YUKI」等のJ-POP女性アーティストが「片瀬風なヒット曲」を歌い出しました。そして、かつては片瀬の前座だったパフュームが奇跡の大ブレイクを遂げました。何処のドイツがパフュを観て「クチパクだっ!」なんて批難しますか?2008年には「同志:宇多丸」による長期連載(現在も「BUBKA」誌上で好評連載継続中)も遂に書籍化され、其処での主役が「片瀬那奈」で在る歴史的な事実も世間に届きました。かつて宇多丸が預言した通りに、2009年の現在でも「片瀬那奈の曲は、ヤバイ」とみんなの記憶から消えてはくれないのです。
さて、枕と云う名の本音語りが長くなりましたが、第6章を予告通りに今回で終了させなければなりません。此の章のヒロイン「中森明菜」は、たった那奈曲しか収録されない「新生・片瀬那奈」のミニ・カヴァー・アルバム「Extended(2004)」で唯一2曲も選ばれたオリジナル歌手です。片瀬による先行シングルも、明菜が歌い1985年日本レコード大賞を文句無しに受賞した名曲「ミ・アモーレ」でした。
中森明菜は「スター誕生」出身で、何度も予選落ちしたものの遂に合格した際には番組史上最高のプラカードが挙がった逸材でした。結局、彼女が所属した事務所は「研音」で、1980年代に其の事務所が急成長し自社ビルを立てたのは「明菜の御蔭」とまで噂された程です。其の経緯から「恩返し」として、特別に二曲の選択だったのかもしれません。
大スターにスキャンダルは付き物ですが、同じく1980年代を代表するアイドルで現在でも活躍中の松田聖子や小泉今日子とは違い、明菜の其れは「転落」を意味します。全ての醜聞すら自己プロモーション化し怪物化した聖子や、「なんてったって、アイドル」とか「見逃してくれよ!」等と自虐的な開き直りで慰安の道を進んだキョンキョンの様には、明菜は生きれなかった。醜聞の度に、中森明菜は堕ちてゆきました。其れでも、明菜は死ななかった。彼女は、美空ひばり、山口百恵と云った過去のスターと構造的にはおんなじ道を歩んで居ます。聖子や小泉は、アンチテーゼとして「別の何か」を提示するだけで好かったのです。過去とは反対の事をやっていけば好いのですから、ネタには困らない。でも、明菜は同じ事を強いられます。彼女にはセルフ・カヴァー盤が異常に多く存在します。其れは楽曲への愛着で在り、自身の歌唱に対する絶対的な自信ゆえでしょう。「歌姫」と題されたカヴァー盤企画は、数多在るカヴァー企画の中でも別格の存在として遺りました。其れも「明菜が歌う」から意味が在ったのでしょう。
明菜が全盛期に発表したアルバム「クリムゾン」に竹内まりやが提供した楽曲「駅」が在ります。其れをまりやがセルフ・カヴァーし、後にベスト盤に収録された際に、彼女の夫でプロデューサーでも在る「山下達郎」が解説まで書きやがりました。其処でタツローは、感情的に明菜の歌唱を批難して居ます。「某女性アイドル歌手の楽曲解釈に憤りを感じ、楽曲を本来の姿に戻す様に編曲した」と云う様な事を公にしたのです。「ハイティーン・ブギ」の印税で結婚したのだから、マッチに媚を売ったのか?と云うのは冗談で、あたくしにとっては「兄弟子」で在るタツローが其処まで云ってしまうのは、其れだけ「明菜の歌唱が許せない」からでしょう。つまり、タツローは「明菜を歌手として認めた」のです。どーでもいいなら批判なんてしないんですよ。「俺のカミサンの名曲を、こんな風に歌いやがって、バカヤローっ!」とキレてしまったわけです。明菜の歌唱には、其れだけの力が込もって居るのです。そんな情念を込め、現役としても本人が歌い継いで居る楽曲を二曲も選択した時点で「Extended」の失敗は確約されました。
確かに、片瀬那奈の地声により近い「アルト・ヴォイス」で「ミ・アモーレ」が初披露された2004年2月の深夜に、僕らは興奮しました。終っても冷めず、夜明けまで六本木で語り合いました。「那奈ちゃんが、あんな低い声でも歌えるなんて吃驚したよ!」と「DJ の時は、僕らは踊るべきなのかナ?」と「兎に角、此れからはずっと毎月始めの金曜日には那奈ちゃんに逢えるんだよねっ」と、明るい未来を確信したのです。でも、本当はみんなが思って居た。「那奈ちゃんの新曲は、いつ出るのかナァ」と。僕らは、其れから五年も待ったんだ。そして、やっぱり、アノ日に那奈ちゃんが云ったコトノハは真実だったと知ったよ。
「Extended」は、片瀬那奈の音楽作品としてなら失敗作です。されど、片瀬がかつての名曲を歌った事で「歌手:片瀬那奈」の認知度は上がりました。其れは決して好意的な評価だけではなかったけれど、片瀬が始めた「新たなる音楽」を世間に認知させる為には「オリジナル楽曲では浸透しない」と判断されたのは致し方ない事です。時は未だ、2004年でした。何度でも繰り返しましょう。片瀬那奈は、早過ぎただけです。さあ、今こそ片瀬那奈を聴こう。君のCD棚に眠った侭の其れを再生した時、きっと君は驚愕するはずだ。アノ頃は「那奈ちゃんが歌うから聴いた」楽曲群が、全く違った印象で耳に届く。片瀬那奈の曲は、永遠だ。待たせたな、諸君、此の長い噺の本題に、ようやく入る時が来たよ。
(第6章、STOP,)
「夢みる歌謡曲」第6章:月のおんな(2008-2-28、3-13〜14、2009-8-13)
取材・文:姫川未亜
語りまくり:小島藺子
(文中、敬称略)
【予告】
いよいよ、次回より最終章に入ります。2006年6月に連載を開始して、なな、なんと3年以上も掛かって辿り着いたわけですが、其れはかつての予告(全那奈回)を遥かに超えた長編となります。「すべてをゼンキロへ統合する」と云う「片瀬那奈補完計画」の一環として、最終章のタイトルは「片瀬那奈がきこえる」と決定しました。
最終章は「片瀬那奈 全曲解説」となります。「LISTEN NOW ! 片瀬那奈が聞こえる」と云う別サイトで2007年に試行したものの「まずは原点で在る THE BEATLES 全曲解説でプリプロダクションをやって雛形を作ってから再開しよう」と考え直し「FAB4」を始めたのです。御蔭様で「FAB4」も中間地点まで書き終え、片瀬那奈の音楽活動再開も公にされ、機は熟したと判断しました。
「天下無敵のビートルズも、片瀬の前座に過ぎなかったのかよ?」とお嘆きになられる「コピコン派」諸君に告ぐ。此処はいつもいつだって「片瀬が主役」だ。「ALL FOR NANA KATASE」って明記してるじゃん。好い事を教えてあげよう。
此れが「必殺・カタセ固め」って技なんだよ。
では、お楽しみに☆
(「いつもいつだって確信犯」:小島藺子/姫川未亜)