w & m:
LENNON / McCARTNEY
P:ジョージ・マーティン
E:ノーマン・スミス
2E:リチャード・ランガム(2/27)、A.B.リンカーン(3/3)、ジェフ・エマリック(6/22)
録音:1964年2月27日
MONO MIX:1964年3月3日
STEREO MIX:1964年6月22日
1964年7月10日 アルバム発売(
「A HARD DAY'S NIGHT」 A-3)
パーロフォン PMC 1230(モノ)、PCS 3058(ステレオ)
ジョンとポールが仲良くハモっている初期の名曲のひとつですが、作者はジョン・レノンです。此の楽曲で、ジョンは恐ろしいまでの音域を使いコーラスを作りました。実際に、此の曲も作曲段階のデモが残されていて、其処でジョンがファルセットでポールの歌うパートを作曲している様子が聴けます。其の上作曲段階では、前出の
「I SHOULD HAVE KNOWN BETTER(恋する二人)」と此の楽曲が合体していたと分ります。「恋する二人」と「恋におちたら」は、ジョンの初期構想では「ひとつ」だったのです。余りにも複雑な展開になってしまい、二つに分けたってわけだ。此の「レノン流」な作曲法は、クラシック的な考え方から云えば「出鱈目」とも云えます。自由奔放なんだよね。つまり、完成した「恋におちたら」でも充分に複雑な展開の曲なのに、当初は「更に難しい曲を作ろうとしていた」のでした。
で、ポールは、結構「音痴」です。特に「A HARD DAY'S NIGHT」セッションでの彼は、酷い。いや、此の曲に関しては、余りにも音域が広く高音域まで到達してしまう為に「歌えない」のです。リトル・リチャードを完璧にマネ出来たポールの高音すらをも超えた音域まで、レノンは書いたのです。ジョンのソロで静かに始まり、ポールが絡んで来て二重唱になってから、メロディーがドンドンと上昇して行き、遂にはポールさえも歌えない音域へまで上がり切ってしまうのですよ。摩訶不思議な「ジョン・レノンにしか書けない」名曲です。此れが、レノン流です。我流だからこそ、こんな展開の楽曲を彼は書けました。しかも、其れが「ちゃんとした美しいメロディーを持つ大衆音楽」として成立しているのです。「IF I FELL」って綺麗な曲だから、自分でも歌ってみよう、なんて軽く考えてコピーしてみて吃驚仰天ってな経験を持つ「ビーヲタ同志」は少なくないでしょう。
ジョンは、常に「実験」を試みる人でした。「A HARD DAY'S NIGHT」では、全13曲中10曲を書き、さらに
「AND I LOVE HER」も合作していますので、10.5曲がレノン作品です。更に云えば、EP盤「LONG TALL SALLY」収録の4曲も「A HARD DAY'S NIGHT」セッションと云えます。其処には、カヴァー3曲とオリジナル1曲が収録され、唯一のオリジナルがレノン作品なのです。つまり、オリジナル14曲中で、「11曲と半分」を書いたのが「ジョン・レノン」だったのだよっ。「レノマカ」ってクレジットされてるのに、ポールが書いたのは14曲中で「2曲と半分」なのよさ。
「11.5 対 2.5」!絶望的な格差です。そんな「絶対王者」ジョン・レノンが書いた作品のほとんどが、アルバムの大半を占める楽曲群が、なな、なんと「G」を基調に書かれています。故に、トータルなアルバム単位でひとつの世界観が在るのです。後の「REVOLVER」などでも、頑なに同様のコード進行ばかりで全ての収録曲を書こうと云う「縛り」を作り実行しています。其れが「単一コードでの音階無し」まで発展して行きます。ジョンは、常に、同じ様な曲は二度と書きたくなかった。同じコードの縛りを自ら強いても、多彩な楽曲を生み出します。だからこそ、ビートルズは常に変化して行きました。
映画「A HARD DAY'S NIGHT」で、不機嫌な太鼓叩き「リンゴ」の機嫌を直そうと、ジョンが此の曲を歌いながらリンゴの回りをウロチョロして、渋々ドラムを叩き出したリンゴが「太鼓を叩けば幸せさ」とばかりに笑顔になる名場面が在ります。彼らの当時の日常を映画化したとされる「A HARD DAY'S NIGHT」の、そんな場面を観る時、僕らは「ジョン・レノンと云うボスの、懐の深さ」を痛感します。ジョンこそが、リーダーでした。だから、彼が不幸な最期を迎えた時に、世界は「ビートルズが逝った」と認識したのです。そして、何故「ポールがフラットしまくっている」のかの謎は、「ポールが実は音痴だから」って事ではありません。此の曲は、ジョンとポールの要望で、4チャンネルなのにも関わらず、「二人の二重唱を、一本のマイクで録音した!」のでした。ポールは愛するジョンと、彼の合意で、彼の野心作を、たった二人きりで、たったひとつのマイクに向かい合わせて歌ったのです。
「そりゃ、のぼせ上がって、フラットするっしょ?」ライヴでは二人のどちらかが笑い出して二人で大笑いしちゃって、滅茶苦茶になっちゃうテイクも海賊盤で聴きました。ジョンとポールって、仲が好いんですよ。子供なんだもん。少年二人がじゃれ合ってるみたいなんだよ。其れが「レノマカ」の正体です。彼らは「トムとハックルベリー」でした。
(小島藺子/姫川未亜)
初出:「COPY CONTROL」2008-10-14
(REMIX by 小島藺子)