13枚組の「アントニオ猪木全集」の中でもハイライトと云えるのが、那奈巻目の「ライバルとの死闘 其ノ壱」です。此れには、インドの狂虎:タイガー・ジェット・シン、不枕艦:スタン・ハンセン、そして、超獣:ブルーザー・ブロディとの死闘が11試合、4時間超ノーカットで収録されて居ます。すべての試合が面白い!昨晩観た最新の「ノア中継」の10万光年倍素晴らしい。
特に、猪木が闘う事によって育てあげたと云えるハンセンとの4試合が最高です。ブルーノ・サンマルチノの首の骨を折ったとの伝説で、強過ぎて海外マットを追放されたとの触れ込みでハンセンは新日に上がりました。事実は「サンマルチノがカツラが取れそうになったので、其れを気にしてたところにラリアットをモロに喰らって負けたらしい」ってのもネタで、単にハンセンが下手でボディスラムをかけそこねて、北斗の「ノーザンライト・ボム」みたいなカタチになる事故が起こったらしいです。ハンセンは大スターを自分の未熟さで大怪我させて引退まで考えたものの、王者・サンマルチノが「ボーイ、おまえは悪くない!」と庇ったって泣ける話なのよさ。ハンセンは、最初は馬力が在るだけの木偶の坊です。其れが、猪木とのNWF戦を重ねて行く内に、当時のトップ外人だったシンをも凌駕する存在になっていきます。
どの選手との試合でも云えるのですが、猪木には同じパターンの其れが無いのです。全部違う展開と結果が待っています。ハンセンのウエスタン・ラリアットをマトモに受けて、場外に吹っ飛びベルトを失う試合の次には、其のラリアットを間一髪でかわしコーナー最上段から場外のハンセンの首を狙ってニードロップ!続けてブレーンバスターでフォールします。さらには、ラリアットをクロスカウンターぎみに同士討ちに持ち込み逆さ押さえ込みで勝利するのです。当時の観客も熱い!猪木が勝利するとリングサイドまで被り付きで雪崩れ込んで来ます。リングに上がろうとして永源サンや藤原組長にぶん殴られるガキもいます。怒り狂ったハンセンのとばっちりを受けて殴り倒されるのは、セコンドの前田です。長州がパンチパーマでリングサイドにいます。面白い!面白過ぎる!!
猪木こそが絶対エースでした。すべては猪木の出るメインエベントに繋がっていました。猪木は常勝チャンピオンではないのです。時には敗れてしまう。されど、主役は猪木なのです。負けても観客は猪木を観て、猪木コールをやめないのです。勝っても負けても、猪木は潔いからなのです。真っ向勝負を続けたからなんです。NWFなんてタイトルは、猪木が巻かなければ何の価値もないモノだったのです。ベルトの価値とは、巻いたレスラーが作り上げてゆくものなのです。
大物外国人レスラーとの死闘を演じられるのは、猪木だけでした。ハンセンとの最後の闘いで、お互いのコスチュームを賭けて闘い、猪木は勝利します。すると敗れたハンセンが右手を差し出し、両者は初めて握手するのです。素直に感動します。何度繰り返し観ても、泣ける名場面です。生きる勇気が湧いて来るのです。
初出「COPY CONTROL AGAIN」 (小島藺子)