片瀬那奈の現役歌手としては今の処最後の作品である「Extended(2004年)」で、彼女は1980年代の女性アイドル歌謡曲を21世紀のエレクトロ・ポップ・アレンジメントで蘇らせる実験に挑みました。
前章で『「Extended」は、やはり大失敗作です。』と語りました。しかしながら其れは、セールス拡大をも狙った(Extendedとは其の願いも込められたタイトルだと思います)にも関わらず、其れ以前のオリジナル作品よりも低い結果しか得られなかったことに対する評価です。客観的に見ても、作品としてのクオリティは高いと思いますが、やはり彼女のオリジナル作品には及ばないと思います。
片瀬那奈によって蘇った那奈つの楽曲は、すべて別の作家陣によって書かれたもので、此れまで述べた通り其処から「日本の大衆音楽史」まで拡大していく指針となる絶妙な選曲です。ところが、何故かすべてを別の唄い手から選ばず、ひとりだけ弐曲も選ばれているのです。1980年代女性アイドルなら、他にも例えば、中山美穂、斎藤由貴、南野陽子、菊池桃子、などなど沢山いるわけで、たった那奈曲の縛りで同一歌手が弐曲と云うのは解せません。
其の特例が、此の章のヒロイン「中森明菜」です。穿った見方をするなら、カヴァー曲の場合は楽曲使用の認可が必要ですので「かつては研音に所属していた明菜の楽曲なら交渉もスムーズに行く」と云うことも考えられます。でも、果たしてそうでしょうか?
先行シングルとして、鮮烈なイエローミニ姿と共に出現した「ミ・アモーレ」が一曲目で、なんと三曲目には「TANGO NOIR」が収録されています。もしも「明菜の楽曲なら色々と楽だ」なんて理由からならば、こんな並べ方はしませんね。
片瀬那奈は、どうしても特別に弐曲、中森明菜を歌わなければならなかったのです。其れは、僕たちが最初に「ミ・アモーレ」を聴いた時に「此の低音ヴォーカルは、、、本当に那奈ちゃんなのか?」と驚愕し、彼女が「してやったり」の表情を浮かべた「777」vol.1で、那奈ヲタ界では知れ渡ります。新たなる片瀬那奈との出逢いは、ひらひらと揺らめく黄色いミニと共に、スローモーションでやって来たのでした。
(つづく)
(小島藺子/姫川未亜)