今年初めて、片瀬那奈ちゃんに逢った。雪は止まなかった。僕は夕方、渋谷へ向かった。もう彼女は局に入っていた。入り待ちには失敗だ。でも車を見つけた。もう逢えることは確実だ。スタバへ行ってコーヒーを買った。そして、番組が始まる時間に現場へ戻った。寒かった。けれど、大丈夫。クアトロでのライヴに行っていた那奈ヲタと麻衣ヲタがやって来た。「ほら、彼処に車が在るよ」「あっ、そーですね、逢えますね」ドキドキした。僕は雪の中、壱時間待っていた。
片瀬那奈ちゃんが出て来た。僕らは走った。僕は、昨日プレゼントを買っていた。彼女は降りしきる雪の中、車に乗らずに立ち止まった。僕が贈り物を出すと、直接自分で受け取ってくれた。まっすぐに僕を観て笑った。「中味は何?」「あっ。ミニチュアの楽器です」「え?食玩?」「いえ、楽器屋さんで売っている可愛いギターとヴァイオリンです」「ねえ、いつから待ってたの?」「僕は、番組が始まった20時10分からです」那奈ちゃんが呆れた顔をした。「自分らはクアトロでライヴ観て駆けつけました」「そう、いつもありがとう」那奈ちゃん、有難いのはさ、こっちだよ。雨混じりの雪が降る中、那奈ちゃんはなかなか車に乗ろうとはしなかった。慌てたチーフマネさんが傘をさした。其れでも那奈ちゃんは楽しそうに話をつづけた。綺麗だった。可愛らしかった。此の世のものとは思えないほど、素敵だった。夢の様だった。
50センチ位の処に片瀬那奈ちゃんの顔が在って、僕の目をまっすぐに観ていた。僕は、思わず後ずさりした。麻衣ヲタくんに「あんたら二人は莫迦ですか?普通に話せよ。何をボ〜と突っ立ってんだよ」と莫迦にされた。彼の機転で未だ誰も知らない今後のスケジュールを明かしてくれた。でもね、僕はもう胸がいっぱいになっていたんだよ。何故、那奈ちゃんはあんなにも優しいんだ?
片瀬那奈ちゃんを好きになって好かった。彼女に逢う度にそう思う。僕は、彼女を記録する為に生まれたとしても厭わない。其れどころか、そんな光栄なことはないんだ。彼女はスターだ。あんなに気さくなのに、やっぱりスターなんだ。僕は嬉しかった。好きって気持ちには終わりも限界もない。僕は、片瀬那奈ちゃんを愛している。女優で歌手でモデルでデザイナーでタレントで在る「片瀬那奈」が好きなんだ。
初出「COPY CONTROL AGAIN」 (姫川未亜/小島藺子)