「気が向いた時にボチボチいこか」などと呑気なことを云っていたら、本当に壱年間も放ったらかしにしておりました。此の連載を中断して始めた「怪優・片瀬那奈・試論」も半年以上更新しておりませんし、九月に鳴りもの入りでドカンドカンとオープンした「LISTEN NOW !」「CHANGES」「みあみあ隊☆ふたたび」なども全然後が続いておりません。
「イコは大風呂敷は広げるけど、そんだけのホラ吹き娘。だナァ」なんて声も出ております。
「はい、全く、其の通りで御座居ます」「コピコン」と「ゼンキロ」の更新だけでいっぱいいっぱいなのよ。てのは嘘で、乗らないと書けないだけです。てなわけで、最初の連載から片付けてしまいましょう。一気に最終章の前まで行きますよ。興味の無い片、メンゴです。
連載が中断している間に、あたくしはうっかり「片瀬那奈の『Extended(2004)』は、失敗作だ」と本音を書いてしまいました。そもそもカヴァーなんてのは「逃げ」なわけで、かのレノンの傑作カヴァー集と云われる「ロケンロール(1975)」ですら「曲が書けなくなって規制曲に逃げた」との批判が在るのです。
よほどのファンと云いますか、所謂「那奈ヲタ」くらいにしか知られていませんが、彼女のデビュー曲「GALAXY」からして、実はカヴァー曲でした。但し、其れは同時代の曲で在って、ファンの贔屓目抜きにオリジナルとされる「LADYBIRD」版よりも、片瀬版の方が上回っています。其の後、片瀬はオリジナルでシングル4枚とアルバム1枚を発表しますが、セールス向上を目論んだのか、唐突に1980年代アイドルのカヴァー路線へと迷走してしまいます。
唯一のフルアルバムである「TELEPATHY(2003)」と此のカヴァー・ミニアルバムを比較すれば明らかに前者の完成度が高く、本人もファンも続いて発売された両A面シングル「Necessary / EVERY***」を中心とした弐枚目のフルアルバムを待っていたはずでした。けれど、世の中はそう上手く運ばなかった。
前置きが長くなりました。此の章で語るのは小泉今日子さんの「木枯しに抱かれて」のカヴァーです。此の楽曲は「Extended」のラストを飾る重要な位置に配され、ライヴでも必ず歌われていました。「Extended」に収録された那奈曲の内、6曲は当時のオリコン・チャートで首位を獲得した楽曲です。唯一「木枯しに抱かれて」だけが、3位止まりで首位になっていないのです。片瀬は敢えて、全曲を首位の曲で固めず此の曲を忍び込ませました。キョンキョンだって、首位の曲は沢山在ります。けれど順位ではなかった。例え3位止まりだった曲でも、人々の心に残っているのが「木枯しに抱かれて」なのです。そして、片瀬は其れを歌い、アルバムの最後に収めました。
「Extended」は、「TELEPATHY」を聴いてしまった者にとっては「食い足りない」と云わざるをえないし、まさか此れで「歌手:片瀬那奈」が休止してしまうとも思っていませんでした。只、あまりにも完成度の高いファースト・アルバムを出したことが、彼女に大きなプレッシャーを与えたのではないか?とも考えられます。其れは、アルバム発表後のシングルが発売延期になったことからも伺えます。
さあ、そろそろ、小泉さんの噺をしましょう。何故、片瀬は此の曲を最後に持って来たのか?「Extended」の最後と云うことは、つまり「歌手:片瀬那奈」の現時点での最後なのです。此れは考察せねばなりませんね。
(つづく)
初出「COPY CONTROL」 (小島藺子)